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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
変えれぬ関係、変わる想い

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四年ぶりの自宅訪問

 校門を出ると、冷たい風が頬を撫でた。

 朝から降り続いている雪は勢いを増しており、道路脇には既に白い塊が積もり続けている。歩道に積もった雪に足が取られ歩きにくい。


(明日から冬休みってのは助かるな)

 誰に聞かせるでもなく心の中で呟く。母親が出勤するために家の前の雪かきはするが、一仕事終えたら家に引きこもる事が出来るのは気楽でいい。


(返事は⋯⋯来てないか)

 歩きながらも、少しだけ携帯の通知を確認する。夏希から返事は未だに返ってきていない。一言でも返してくれれば、ここまで心配する事もないんだが。


(⋯⋯プリント届けるだけだ。ついでに安否確認するだけ)

 誰に言い訳しているのかも分からない理由を頭の中で並べる。心配は心配だが、家までいくのは担任に頼まれたからだという事にしておく。


(⋯⋯寝てるだけならいいんだけどな)

 白く染まった住宅街を歩きながら、何度か携帯を確認してみるが、相変わらず既読もつかない。


(最後に夏希の家に行ったのは、いつだったろうな)

 雪をギュッと踏みしめながら、ぼんやりと思い出してみる。

 子供の頃は漫画等で見るような幼馴染、とは掛け離れた関係だったが、両親の都合でよく双方の家には行っていた。だが、中学にも入ると流石にお互いに家に行く事はなくなっていたと思う。


(そうなると、ざっと四年振りに行くことになるのか)

 そう考えると少し緊張はするが、足が止まることはない。そんな多少の抵抗感よりも⋯⋯


(あいつなら、体調悪くても動いてそうだから)

 この数ヶ月の間で見てきたおかげで、夏希がこういう時にどうするのかを理解したから、だからこそ心配になる。


(⋯⋯分かってはいたけど、本当にやるなよ馬鹿!)

 そうして前田家が見えてきた瞬間。俺は思わず額を押さえた。

 家の前。雪の積もった玄関先で、スコップを握った夏希が立っている。


 遠目なのと、マフラーを巻いているために顔色は分からないが、以前学校で見た時よりも緩慢な動きでの雪かき。明らかに体調が悪い事は分かる。


 それなのに、必死に雪をどけている。ふらつきながら、息を切らしながら、今にも倒れそうな状態で。


 その様子を見た瞬間、雪を掻き分けながら全力で走っていた。――少しでも速く、彼女の元に辿り着くために。


「⋯⋯⋯夏希!!」

 大声で彼女の名前を呼ぶ。自分が想像しているよりも大きい声が出た。そんな俺の声に気付いたのか、夏希がゆっくり振り返る。


「……脇阪くん?」

 驚いたように目を丸くする。それはそうだろう。ここに俺がいる理由が、夏希には分からないのだ。


「えっと、どうしたの?」

「……それはこっちのセリフだ、馬鹿」

 少しだけ息を切らしながら、夏希からの質問に思わずそう返していた。ひとまずは無事だったという安心と、呆れと怒りが混ざった声だったと思う。


「な、なんか、怒ってる?」

「理由、分からないか?」

 一歩近づくごとに、夏希の顔色の悪さがはっきり見えてくる。

 冬だというのに額には汗が浮いている。この作業に、どれだけの体力を使うかなんて分かっているだろうに。


「お前、自分が何してるか分かってるか?」

「雪……どけてる」

 それは見れば分かる。これだけの雪だ、放っておくのも後々面倒になることも分かる。


「熱あるんだろ?なんでおとなしくしてない?」

 だが、今やる必要はないだろう。それに、いざとなれば俺を使えば良いだけの話だ。


「熱は、ちょっとだけだよ……」

「絶対ちょっとじゃない」

「でも、私は⋯⋯!?」

 俺の言葉に言い返そうとしたようだったが、その瞬間。ふらり、と彼女の体が揺れた。


「あ」

 本人も予想していなかったのだろう。足元の雪で滑ったのか、それとももう体が限界だったのか。

 どちらにせよ。夏希が俺の方に倒れ込んできた。


「危な⋯⋯!」

 反射的に腕を伸ばして、細い体を支える。前にもこんな事があった気がするが、やはり軽い。そして何より⋯⋯


「⋯⋯前田さん、これはちょっとの熱って言わないだろ」

 抱き留めた瞬間に分かった。体温計がなくても分かる程の熱量。


「だ、大丈夫……」

「大丈夫じゃない」

 夏希の言葉を遮る。今まで聞いた中で一番説得力のない『大丈夫』だ。


「とりあえず家まで行こう。歩けるか?」

「う、うん……」

「嘘つけ」

「嘘じゃな⋯⋯って、ちょっと!?」

 有無も言わさず、夏希の体を持ち上げて横抱きの状態にする。軽いとは思ってたが、ここまで余裕で持ち上げられると心配だな。


「もうちょっと飯食った方が良いかもな」

「そ、それはセクハラだよ脇阪くん!?」

 ⋯⋯確かにそうだな。許可も得ずに思いっきり触ってるし重罪だな。ちゃんと元気になったら訴えてもらう事にしよう。


「ほら家入るぞ。鍵は?」

「⋯⋯開いてるから、もう好きにして⋯⋯」

 夏希は他にも何か言いたい様子だったが、諦めからか、結局はそう呟くだけだった。


「さっきよりも体調悪くなってるだろ、顔赤いぞ」

「だ、誰のせいだと⋯⋯!」

 そうして、俺はそのまま夏希を抱えながら玄関へ向かう。まずはこいつを寝かせないと話にならない。


「⋯⋯よく平気で、お姫様だっこなんて出来るね?」

「なんだよ?照れてほしかったか?」

 余裕のあるように振る舞いながら、手がふさがっているため、足蹴で玄関の扉を開ける。


 ――久しぶりに見る幼馴染の家、だが、昔とは見え方がまるで違う。好きな女子の家、という現実が襲う。


(⋯⋯平気なわけないだろ)

 心配する想いが勝っている事も事実だ。それでも、別の感情で心臓の鼓動が速くなっている事には、彼女には気付かれたくなかった。

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