二人だけの秘密基地?
「着いたよ。ここでなら食べられそうじゃない?」
「⋯⋯食べれそうな場所って、ここかよ」
テイクアウトしたケーキの箱を片手に、夏希の言われた通りに向かった先にあったのは、自分達の家の近くにある公園だった。
「こんな寒い時期に外でケーキ食べるつもりか?」
息を吐けば白くなるような寒空の下で食べるというのは、流石に風邪を引きそうで心配なんだが。
「私はお店で食べてもよかったんだよ?」
「⋯⋯⋯前田さんのおっしゃる通りですね」
夏希の明らかな作り笑いを見て、抵抗する事を辞める。確かに、学校で面倒な噂にならないようにと、俺の我が儘で店で食べなかったのだ。逆らう権利はないだろう。⋯⋯いや別に家で食べれば良くないか?
「言いたい事あるの?」
「何もございません!」
何か怖ぇよ!圧を感じるんだけど!?
「ほら、あそこなら外から見られる事もないんじゃないかな?」
そう言って夏希の指さす方向にあるのは、小さい人工の山。上に登るための階段や、足場になるような岩場が付いている。山を登りきると滑り台がある作りだ。
「あー、あったなこんな遊具。下にトンネルあるんだよな」
山型遊具という代物だが、下側はトンネルになっており、通り抜け出来るようになっている。
「男子は秘密基地だ!って言ってあそこに隠れるんだよな」
秘密基地というのはあまりにも丸見えな代物だが、そんな物でも子供の頃は楽しかったものだ。
「ゆうくんがあそこでゲームしてたの、見た事ある」
「そうだったか?」
「まぁ、普通に公園で遊んでる時もあっただろうけど⋯⋯私が見た時は大体ゲームしてたかな」
そう言いながら夏希も俺も公園を見渡すが、昔遊んでいた遊具はほとんど残っていない。
「なんだっけ⋯⋯あの回転するやつ」
「グローブジャングルな。あれが一番最初に撤去されたよなぁ」
「馬鹿みたいに回すから怒られるんだよ」
「子供の頃に馬鹿やらないで、いつ馬鹿になるんだよ」
過去の記憶を辿りながら歩く。昔は遊び場に様々な遊具があったのに、今は山型遊具の他にはブランコと、砂場があるだけ、夜中ということもあって人の気配もなく、寂しさが増している気がする。
「寂しくなっちゃったけど、懐かしいよね」
「そうだな、一応は残ってる物もあるしな」
夏希と話しながら、ブランコに座って思い切り漕いでみる。ギィ、と少し不安になる音を立てながらも、遊具は望んだ動きをしてくれた。夏希も隣のブランコに座り、控えめに漕ぎ始めた。
「今の子達って、ブランコで遊ぶのかな」
「花の女子高生が自分をおばあちゃんみたいに言うなよ」
笑いながら過去の事を思い出してみる。基本的にはインドアで家にいる事が多かったが、母親に連れられて、背中を押してもらいながらブランコを漕いだ記憶も確かにある。
「⋯⋯っと、久しぶりにすると面白いもんだな」
勢いをつけてブランコから飛び降りる。娯楽が多くなった今でも、こういう物で楽しむ事が出来る自分の感性に少し喜びを感じた。
「じゃあ、トンネル入ろっか」
「……マジでそこ入るのか?」
「じゃあこのままブランコ漕ぎながら食べる?私はそれでも良いけど、誰かに見られるかも」
食べないという選択肢は出てこないのか、もう少し歩いたら自宅だというのに。
「んじゃ、先に入るわ」
出そうになる溜め息を押し込めながら、先にトンネルの中に入ってみることにした。屈みながら、頭をぶつけないように入ってみたのだが⋯⋯
(……狭っ)
改めて入ってみると、思っていた以上に中は狭い。子供の頃は何も思わなかった事を考えると、図体だけはしっかりと大きくなっている事を実感する。
「結構暗いね、携帯で灯りつけとくね」
後ろから夏希の声が反響して聞こえたかと思うと、携帯でトンネル内を明るく照らしてくれる。しっかりと見渡すと、多少は足を伸ばせるくらいの広さだ。⋯⋯これはなんとも。
(やべぇ、結構楽しいぞこれ)
異常にテンションが上がってきた。久々に童心に帰ったというか、結局男はこういう場所が好きなのだ。子供の頃には秘密基地と言いながらも、夜中にこんな事をする経験はなかった。
「夏希!これ中々おもしろ⋯⋯」
子供の頃には出来なかった事だと思うと気分が高揚する。そう思い隣を見ると。
「⋯⋯どうかした?」
想像よりも近い所に、夏希の顔があった。
それはそうだろう。子供が遊ぶためのトンネルに、高校生二人が入っているのだ。自然と距離は近くなる。
「⋯⋯なんでもない。ケーキ食うか、冷めない内に食おうそうしよう」
「ケーキに冷めるとかないと思うんだけど⋯⋯」
動揺している事を誤魔化しながら、ケーキの箱を鞄から出す。二人で並んで座ると、肩が自然と触れ合う距離になる。
(やっぱ近いな……)
意識を出来るだけケーキの方に向けながら箱を開けると、甘い香りがふわりと広がった。密室に近い空間だからか、甘い匂いもいつもより強く感じた。
「流石に食べにくいな」
テイクアウトした箱を皿にしながらフォークを手に取り、モンブランを一口食べてみる。洋風の味付けではなく、和栗の味が全面に出ているタイプだ。
「うん、普通に美味いな。そっちのはどうだ?」
「普通にショートケーキだけど、ちょっと甘すぎるかな」
「それは俺も思った。こんな甘かったか?」
「甘くない飲み物が欲しいね」
「カフェで買ったのは駅で飲みきったからなぁ」
会話自体はいつも通りなのに、距離だけが異様に近い。その違和感に、未だにどうにも慣れない。
ふと隣を見ると、夏希の頬に、白いクリームが少しだけついているのが見えた。暗がりで食べているのだから、ついてもおかしくはないだろう。
「夏希、ちょいこっち向け」
「……な、なに?」
不思議そうにしながらも顔を向けてくる。近い距離のまま、手に持っていた未使用の紙おしぼりで、頬のクリームを軽く拭った。
「クリームついてただけだ」
「え……あ、ほんとだ……」
一瞬きょとんとしてから、ほんのりと頬を赤くする。
「そんな事言うなら、ゆうくんにだってついてるよ」
「マジか。全然気付かなかったな」
「待って、取ってあげるから」
そう言って、少し身を乗り出してくる。
――その瞬間だった。
「……っ、痛!」
ゴン、と鈍い音がして、夏希が頭を押さえる。少し立ち上がった時に、トンネルに頭をぶつけたらしい。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……ちょっとぶつけただけ……っ!?」
思わず身を乗り出したせいで、さらに距離が詰まる。
目の前に、夏希の顔があった。
呼吸のリズムすら分かる距離。ほんの少し動けば、触れてしまいそうなほどの近さ。これは、まずい。
夏希も同じことを感じているのか、動きが止まっている。携帯の明るさだけでも分かるくらいに、頬が紅潮していく。
「「⋯⋯⋯」」
言葉が出ない。ただ、互いの吐息の音だけが、トンネルの中で反響している。
だがそんな小さな音は、早鐘を打つ心臓の音のせいで、まるで聞こえてこなかった。
山型遊具、皆さんの近所の公園にはありますか?想像しにくかったらすみませんけどググってね!




