変えれぬ想い
駅前にある広場に着くと、巨大なクリスマスツリーが目に入った。色とりどりの光が夜空を照らし、それを見た人々は様々な反応をしている。
イルミネーションを見てはしゃぐ子供を見て、微笑んでいる家族。もはや二人だけの空間を作り出しているカップル。疲れ果てた表情で灯りを見つめる社会人。
俺達は周りから見られた時、やはりカップルとして見られるんだろうか?まぁ今日だけは、その認識で間違ってないんだが。
「おぉ⋯⋯結構頑張ってるな」
「本当、綺麗だね」
隣で夏希も小さく声を漏らす。俺達が住んでいる地域は、駅前だけが少し発展していて、少し離れればすぐに田舎の風景が見られるような場所だ。
「思ったより凄いね」
「そうだな、都会に住んでる人も、こういうので喜んだりするのかねぇ」
そんな状況で育っているので、田舎にはないような、小規模のイルミネーションを見るだけでも、見慣れていないので面白かったりする。
「綺麗な物を見たら、普通に綺麗だと思うんじゃない?」
「どうだろうな、こういうの見慣れてるだろ」
都会の人々は田舎の田園風景に憧れを抱く事もあるらしいが、田舎物からすれば憧れる要素などない。それと同じなのではないだろうか。
「ゆうくんは、都会に憧れとかないの?」
憧れか、まぁ面白いとは思うが⋯⋯
「ないことは無いけど、遊びに行くくらいで良いさ」
遊ぶ場所には困らないが、住みたいと思った事はない。
「住めば都ってやつだな。俺は今住んでるここぐらいが丁度良い」
「そっか、じゃあ私と同じだね」
夏希も俺と同意見のようだ。お互いに、環境が変化するのが嫌いなのかもな。
「夏希は将来はどうしたいとかあるのか?」
「うーん⋯⋯まだ考えられてないかな。今はお母さんの事もあるし、就職するかも」
「なるほどな。早く良くなるといいな」
将来なんてまだ考えるには早い時期かもしれないが、二年生になれば色々と考える事が増えるだろう。それまでには夏希の母が回復してくれる事を祈るばかりだ。
「⋯⋯こういう話になるとさ、色々言われたりするんだ」
少しの沈黙の後、夏希が言葉を漏らす。帽子で表情は見えないが、少しだけ、手が強く握られた気がする。
「お母さんの事、ちゃんと面倒みなさいって言ってくる人とか、逆に貴女の人生なんだから、好きに生きなさい、とかね」
想像しやすい話だな。皆良かれと思って言っている言葉だ。それが救いになる事も勿論あるだろう。
「ゆうくんは、どっちでもないね」
「冷たい男で悪かったな」
俺には、夏希の人生を左右させるような言葉を投げかける勇気はない。そういう事を責任持って言える大人になりたいもんだ。
「冷たいなんて思った事ないよ。⋯⋯安心する。ゆうくんは昔から変わらないなって」
そんな話をしながら、二人でしばらく景色を眺める。安心すると言われるのは、良くも悪くも、彼女の中で俺の存在が変わっていない証拠な気がした。
「⋯⋯さて、そろそろ行くか、流石にここじゃケーキなんて食えないしな」
「あ、ケーキ忘れてた」
どの程度の時間そうしていたかは分からないが、ある程度イルミネーションを眺めてから夏希に移動を提案する。
「なんでだよ。何のためにここに来たと思ってるんだ?」
「ごめん、これ見れただけで、充分だったから」
「そうかい、そりゃ良かったな。じゃあケーキは二つとも俺のでいいか?」
「⋯⋯それは一緒に食べようよ」
もう少し甘い雰囲気になるかとも思ったが、そういう事にならなかった事に内心苦笑する。
(⋯⋯変わらない、か)
帰り道を歩きながら、夏希に言われた言葉を反復する。彼女からは変わらない事を望まれているのだろう。だけどそれは難しい事かもしれない。
「どこで食べるかね」
「ゆうくんの家とかは?」
「駄目だ、母さん家にいないから」
こうやって、二人で歩くだけの事なんて、子供の頃ならなんとも思わなかった筈なのに。以前なら、彼女の三者面談の事なんて、気にする事なんて無かった筈なのに。
「お母さんがいないと、家に行ったらいけないの?」
「いても駄目だけど、いなかったらもっと駄目だろ。考えて物を言ってくれ」
「そうかなぁ。⋯⋯あ、一つ食べれそうな場所思いついたよ」
「どこだ?帰り道に休む場所なんてないだろ」
「着いたら分かるよ。ゆうくんも知ってる場所だから」
そうして夏希が俺の手を引く。もはや手を離すタイミングすら分からない。――変わらないままでいたいのなら、こんな事を意識するべきじゃないんだろう。
「⋯⋯手、もういいだろ?離すぞ」
「あ、本当だね⋯⋯ごめん」
だけど、繫いだ手を離す事に名残惜しさを感じるくらいには、感情は落ち着かなかった。




