第2話 弟のキャラ弁が消えた!?王宮の休憩室は大騒ぎです』
午前中の仕事をテキパキと終わらせ、私は心地よい疲労感とともに王宮の休憩室へと向かっていた。
「さあ、楽しみにしていたお昼休憩!弟のキャラ弁の残りで、私もサクッとご飯にしましょう!」
午前中、ファビオラ様から浴びせられたうざい小言なんて、私の頭からは秒速でゴミ箱に捨て去られている。今の私の頭の中は、カバンの中に入っている美味しいお弁当のことでいっぱいだ。
休憩室に入り、いつものように自分の荷物を置いてある棚を開ける。
――けれど、そこにあるはずのものが、ない。
「……嘘でしょ? 私のお弁当箱がない!?」
カバンの中に大切にしまっていたはずの包みが、綺麗さっぱり消えているのだ。
自分のご飯がなくなるのは、百歩譲って我慢できる。けれど、あのお弁当箱は我が家が困窮した際、料理人が涙ながらに譲ってくれた、弟の唯一のお気に入りのお弁当箱なのだ。それに、食の細い弟が少しでも喜んでくれるよう、今朝眠い目をこすりながら工夫を凝らした愛の結晶が、跡形もなく消えている。
「エルザ、どうしたの?」
「ひどい顔色よ!?」
周囲の侍女仲間たちが、私のただならぬ様子に気づいて集まってきた。
「あ、あの……私の、うさぎさんのおにぎりが入ったお弁当がなくなってしまって……」
「えっ、あのエルザの可愛いお弁当が!? 大変、みんなで探しましょう!」
仲間たちが一緒に休憩室の隅々まで探し始めてくれ、室内はちょっとした大騒ぎになった。
けれど、どこをどう探しても私のお弁当箱は見つからない。
代わりに、棚の最上段の奥深くに、見慣れない派手なハンカチがバサッと被せられた塊がポツンと残されているのを発見した。
休憩室中に漂う、鼻をつくような強烈なバラの香水は、間違いなくこのハンカチから放たれている。
この、鼻をつくような強烈なバラの香りは――。
「……間違いないわ。ファビオラ様だわ!」
「何かしら、これ……」
不審に思いながらそのハンカチをめくり、
下にあった豪華な三段重の蓋を開けてみると、そこには言葉を失うような光景が広がっていた。
「……何ですか、この黒焦げの謎の物体と、生焼けのお肉は……?」
それは、料理を一切したことがないお嬢様が無理やり作ったのか、
あるいは侍女に作らせて大失敗したのか、
とにかく壊滅的な見た目の「手作り弁当(の失敗作)」だった。
私は一瞬ですべてを察した。
あのお局令嬢、ギルバート隊長に手作り弁当でアピールしようとしたものの、
自分の料理がとんでもない大失敗作になってしまったのだ。
焦った彼女は、休憩室の棚を漁り、
私の「キャラ弁」を盗み、自分のものだと偽って持っていったに違いない。
「なんて浅ましい……! すぐに追いかけないと!」
私が踵を返し、休憩室の扉へ向かって駆け出した、その瞬間だった。
ガチャン!!!!
鋭い金属音が響き、外から鍵がかけられる音がした。
「えっ!? 開かない!?」
侍女仲間たちが慌ててドアノブを回すが、びくともしない。
窓の外に目をやると、ファビオラ様付きの意地の悪い侍女が、
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら鍵をポケットにしまう姿が見えた。
「男爵令嬢の分際で、ファビオラ様の恋路を邪魔させないわよ。
今日の夜会が終わるまで、そこで大人しくお腹を空かせていなさいな!」
「ちょっと、開けなさいよ!」と怒る仲間たちを背に、私はすっと目を細めた。
普通の令嬢なら、ここでパニックになって泣き叫ぶのかもしれない。
けれど残念ながら、私は大恋愛のコスパの悪さを知り、生活力だけを信じて生きてきた女だ。
(なるほど、力尽くで閉じ込めましたか。
……でも甘いわね。
我が家の、建付けが悪くて歪みきった『開かずの物置の扉』に比べれば、
王宮のこの程度の鍵なんて、おもちゃみたいなものよ)
私は髪に刺していた、実用性重視の頑丈なヘアピンを一本引き抜いた。
「みんな、ちょっと下がっていて」
私は鍵穴の前にしゃがみ込むと、ヘアピンの先を器用に差し込んだ。
カチ、カチ、カチャリ。
実家のあらゆる壊れた家具を修理して培った私のサバイバルスキルが、静かに火を噴く。
閉じ込められてから、わずか数秒後のことだった。




