帰宅と新たな騒動 3
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
馬車がお城の前に停まると、わたしはヴィルマからお土産の入った箱を受け取った。
「本当にお嬢様が持って行くんですか? わたくしがついて行きますよ?」
「そう言ってお茶会に参加するつもりでしょ! 今日は三人だけの女子会なんだから、ヴィルマはうちに帰ってて!」
お茶会での会話がうっかりヴィルマを通してお兄様の耳に入ったら大変じゃないの。それでなくても、ブリギッテはよくきわどいことを言うんだもの!
「わかりました。足元に気を付けてくださいね。お嬢様のことだからうっかり何もないところで転びそうですし」
「そんなはずないでしょ! わたしが何歳だと……きゃわっ」
言った端から転びかけたわたしに、ヴィルマが額を押さえて息をつく。
見かねたお城の玄関前を守っていた衛兵の一人が、わたしから箱を取り上げた。
「王女殿下からお聞きしております。サロンまでご案内いたしますので」
勝手知ったる城の中だから迷うことはないんだけど(たぶん)、このお兄さんはわたしに箱を持たせたままだと危険だと判断したらしい。
恥ずかしかったけど、またどこかで転びかけるかもしれないので、わたしは素直にご厚意に甘えることにした。
「うちのお嬢様をよろしくお願いいたします。お嬢様、お茶会が終わるころに迎えに参りますので」
ヴィルマが衛兵に頭を下げるものだから、余計に恥ずかしい。悪かったわね、子供でもないのにこんなところで躓いて!
お土産の入った箱を衛兵のお兄さんに持ってもらって、わたしはブリギッテとの待ち合わせ場所である一階の、中庭近くのサロンへ向かった。
サロンに向かえば、部屋の中にはブリギッテとアグネスの姿があった。
「ごめんなさい、遅れちゃったかしら?」
「いいえお姉様、まだ時間にはなっておりませんわ。わたくしたちが待ちきれなくて早く集まってしまっただけです。ね、アグネス?」
「はい。それにわたくしも先ほど到着したところですから」
ブリギッテとアグネスがにこにこと笑う。この二人は本当に可愛らしいわ!
わたしは衛兵のお兄さんから箱を受け取ると、サロンの大きなテーブルの端に置いた。
「旅行のお土産を持って来たの。たくさんあるけど、出してもいいかしら?」
「ええもちろんですわ。……ところでお姉様。離婚はいつなさるの?」
「…………」
ねえブリギッテ、新婚旅行のお土産をテーブルの上に出している今、離婚の話をする?
「い、今のところは、予定はないかしら」
「あらそうですの。あの呪いの札、きかなかったのかしら」
「……ねえ、呪いの札って言った?」
いつの間にそんなものをお兄様に送りつけていたの⁉
お兄様が笑顔でサメのキーホルダーを薦めるはずだわ。頭が痛い……。
「え、ええっと、こっちがアグネスで、こっちがブリギッテの……お土産、よ。アグネスのその香水はお兄様からで…………ブリギッテのそのサメのキーホルダーも、お兄様からなんだけど……」
しまった、箱に封印したままにしておいた方がよかったかも。
サメのキーホルダーをつまみ上げたブリギッテが、すぅっと目を細めたわ!
「へえ、アグネスには香水で、わたくしにはこれ。……ジークハルト・アラトルソワはわたくしをなめくさっていますわね」
「お、ほほほほ……そ、そんなことは、ないんじゃないか、なあ……?」
やっぱり渡したのは失敗だった‼
お兄様に内緒で処分しておけばよかったー‼
ブリギッテはサメのキーホルダーをぽーいと背後に投げて、改めてお土産の確認をはじめた。
「このイルカのキーホルダーは可愛いですわ! ポストカードも、ペーパーウェイトも! あら、これは……?」
「クッションカバー? あら、服かしら?」
ブリギッテとアグネスがお揃いのシャツワンピを持ち上げて首をかしげる。
「ルームウェアにどうかと思って。可愛いでしょ? ……わ、わたしとお揃いなんだけど……」
なんとなく引かれている気がして尻すぼみに説明すれば、「お揃い」と言い終わったあたりで二人がカッと目を見開いた。
「お揃い! お姉様とお揃いですって⁉」
「まあ、わたくし、今日からこれを着て眠りますわ! きっと夢の中でもマリアお姉様に会えますわね」
「アグネス、素晴らしいですわ! わたくしも今日からこれをナイトウェアにしましてよ‼ 夢の中でもお姉様に会えるなんて、わたくし、こ、こ、興奮して……っ」
うっと鼻の下を押さえたブリギッテが、天井を見上げてしばらく固まる。
……な、なんかヤバいものを渡した気になってきた……。
さすがに、ただのシャツワンピに、夢の中でお互いがお互いに会えるような特別な魔法なんてかかってない。
どうしよう。それをこの場で指摘すべきか。それとも黙って見なかったことにするべきか。
渡してしまったからもう後に引けない。
後日、ルーカス殿下やアレクサンダー様から苦情が入ったらどうしよう⁉
あわあわしていると、お城の使用人がティーセットを載せたワゴンを押してサロンにやって来た。
そして、鼻を押さえて天井を仰いでいるブリギッテと、ぽっと赤らめた頬を押さえているアグネスを見て、すっとわたしに視線を向ける。
……あの、こいつが犯人か‼ みたいな視線を向けないでください。
不可抗力。
不可抗力なんです――‼
わたしは何も悪くなーいッ! はずっ!





