帰宅と新たな騒動 2
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
「停まって停まって停まってええええええ‼」
わたしは大声で叫んだ。
窓の外にいた小人は、気づけばいなくなっていたが、あれだ。あれに違いない。あんな小さな人間なんて存在するはずがないのだから!
悲鳴にも似た絶叫に馬車が慌てて急停車すると、わたしは急いで馬車の扉を開けて飛び降りた。
が、さっきまで窓の外にいた精霊らしき小人の姿はどこにもない。
がっくしと思わず石畳の道の上に両膝と両手をついてうなだれると、わたしを追って馬車から落ちてきたヴィルマがしみじみと――
「お嬢様、もしかして海におぼれた時に脳に異常が?」
……あってたまるか‼
ああもう! せっかくのチャンスだったのに‼
でも、あれがわたしの勘違いではなくて本当に精霊だったら、この王都にいるってことよね?
できればこのままシルフを探して回りたいところだけど、ブリギッテとの約束があるからそれもできない。
わたしが仕方なく馬車に戻れば、ヴィルマが御者に声をかけて、馬車は再び動き出した。
……うぅ、でもどうしよう。シルフを探そうにも、あと四日で学園に戻らなきゃだし。四日。四日で何とかなるかしら?
「ねえヴィルマ、明日って何か予定はあったっけ?」
「ございませんけど、あんまり遊んでいると、学園がはじまってすぐある小テストで泣く羽目になりますよお嬢様」
……そう言えばそんなものがあったわ。
二学期がはじまってすぐの小テストは成績には影響しないのだけど、順位はしっかりと張り出される。
あれは、夏休みの間遊び惚けていた学生たちへの制裁的なテストなのだ。ちゃんと勉強もしていたら点数は取れるよね、という先生たちの悪魔のささやきが聞こえる。
もちろん、新婚旅行だリゾートだーと遊び惚けていたわたしは、このままでは悲惨な結果になるだろう。もともと出来が悪いのに、まったくお勉強をしていないのだから。
……いやでも、テストより破滅の未来を回避する方が先決なはず。そうよね?
テストでいい点を取っても(まあそもそも、いい点が取れるのかと言う問題もあるけど)、破滅したんじゃあ意味がない。
よし、小テストのことは忘れよう。成績に影響しないんだからお兄様も怒るまい。そうよね? ね? 誰かそうだと言って!
「明日、学園に持って行くものを買い足そうと思うのよ」
ヴィルマの「小テスト」の単語をスルーしてにっこりと微笑めば、ヴィルマは「知りませんからね」と前置きした後で「わかりました」と頷いた。
「またきわどい下着を買うんですね、わかります」
「全然わかってないわ‼」
毎回毎回、あんたはなんでわたしがいかがわしいものを買うと思っているわけ? まあ過去に散々やらかしましたからね、またかと思われても仕方がないかもしれませんが!
「まあ、リッチーにもお土産を渡したいからお店には行くけど、他にも人に言えない目的があるのよ!」
「人に言えない目的ですか。新婚早々不倫はやめておいた方がいいと思いますよ」
「誰が不倫するか‼」
いやでも、今の言い回しは紛らわしかったわね。かといって、精霊を探すなんて馬鹿正直に言えるはずもないし。ううむ。
「ま、お嬢様の奇行は今にはじまったことじゃないですからね。お付き合いしますよ。というか見張っておかないと、わたくしがジークハルト様に怒られそうですし」
奇行言うな!
というか、わたし、薄々勘付いていたんだけど、ヴィルマってルーカス殿下の子飼いをやめてから、お兄様の諜報係になっていないかしら? 主にわたしの行動の! 絶対お兄様に筒抜けになっている気がするもの!
買い物ついでに精霊の手掛かりを探そうと思っているわたしだけど、これは気を付けて行動しないと。うっかりお兄様の逆鱗に触れるような行動を取ったら即お仕置きコースだわ。怖すぎる!
はあ、と嘆息したわたしに、ヴィルマがお土産の入った箱の中から、二枚のシャツワンピを取り出した。
「ところでお嬢様。これはどなたに?」
「え? もちろんブリギッテとアグネスよ! お揃いなのよ!」
イルカのプリントがでかでかと入っている、わたしのルームウェアとお揃いのシャツワンピ。
ヴィルマはじっとそれを見つめた後で、無言で箱の中に納めた。
……おい、わたしのお土産チョイスに何か文句でも⁉





