俺を忘れた君に渇望のキスを
君と別れてどれだけの時間が流れただろうか
三か月、半年、それとも――
君が再婚したと親から義務的に聞かされた時、俺はもう自分がどうなっても良いと思った
ただ、君が戻ってきた時に住みやすい村を、街を維持できていられたらと、それだけにすべてを注げた
けど、どんなに力を注いでも、寝食をおろそかにしても不意に訪れる睡魔と言う悪夢は、俺を容赦なく責め、また欲を芽生えさせる
何度君を夢の中で汚しただろう
何度悪夢の中で君に愛を囁いただろう
その中で赦された俺
愛を囁けば微笑み返して貰えた俺
夢の中だけでは俺は幸せだった
愛し、愛された生活
可愛い子供に甘えてくれる君
幸せだと、愛してると微笑んでくれる君
けど、現実はそんなに甘くはない
浪費に走る考えなしの幼馴染
資金が湯水のごとく溢れだすと思っている幼馴染
何度戒めただろうか
何度注意しただろうか
日に日に減ってゆく資産を前に溜息が止まらなかった
そんな時だった
君が笑顔で俺の弟と手を繋いで歩いているところを見たのは
君は少し目立ち始めた腹部に手を当て、愛おしげに撫でていた
もうすぐ気軽に出掛けられなくなるから、貴方と一緒に歩けるのが嬉しいと幼く笑む君
本当に幸せそうで、何も憂いの無い表情の君が美しくて、愛おしくて
咄嗟にではなく、ほとんど無意識のうちに君に声を掛けていた僕にきっと神様は罪と罰を一緒に与えたんだろうね
弟の兄、ひいては自分の義兄としか認識していなかった君
御当主はお義兄様になられたのですね、おめでとうございます、と朗らかに祝福した君
子供が生まれた際には一度帰郷しようと思いますと、頬を赤らめ、弟を見上げた君がどうしても、どうしても認めたくなくて、自分が忘れられたことを受け入れられなくて
道の真ん中で、人通りのある処で君の前に跪き、愛を乞う莫迦で愚かで救いようのない俺
それでも君を何とか取り戻したかった
俺を見て欲しかった
俺を忘れてしまった君にキスを
狂うような焦がれた思いを込めたキスを
幼い頃より確かな想いを込めたキスを
渇望心と欲を込めたキスを
弟を愛していると拒む君にキスを
辞めて、助けてと怯える君にキスを
瞳を潤ませ、意識を失った君を包見込むように抱き寄せたのは俺ではなく、最近注目されだしたすぐ下の弟で
諦めきれないのなら、君を取り戻したければ記憶を失った君を愛してみろと言われてもなお
キスをしよう
君を狂わんばかり求めたキスを
でもそれは今じゃない
けれど近い内必ず
キスをしよう
君を渇望する俺の一生で一人しかいない愛おしい君へのキスを




