第2章 第1話「残り方」
あの写真は、結局見つからなかった。
探している途中で、ふと、理由がわからなくなる瞬間があった。
何を探しているのか。
そもそも、本当に“あった”のか。
考えた途端、確信がわずかに揺らぐ。
だが、完全には消えない。
――あったはずだ。
その感覚だけが、妙にしつこく残っている。
*
「まだやるのか」
修二が言う。
「……なんとなくな」
「なんとなくでやる量じゃないだろ」
呆れたような声。
だが、止めはしない。
その距離が、妙に心地よかった。
「他に写真ってどこにある」
「物置とかだろ」
昨日と同じ答え。
だが、その言い方に、わずかな既視感があった。
まるで、一度同じ会話をしたことがあるような。
*
物置の扉は、簡単に開いた。
軋む音。
暗さ。
埃の匂い。
すべて、記憶の中にある。
あるはずなのに、
そのどれもが、ほんの少しだけ古い。
――ここだけ、時間が遅れている。
そんな感覚があった。
*
段ボールを開ける。
新聞紙。
写真。
見慣れたはずの構図。
なのに、
ここにあるものだけが、妙に“触れたことがある”気がした。
昨日じゃない。
もっと前に。
もっと、はっきりと。
*
写真を手に取る。
二人。
俺と修二。
それだけ。
それだけのはずなのに――
その“間”が、広い。
明らかに、何かが抜けている。
最初からなかった、というよりも、
そこだけ“削られた”みたいに。
「……なあ」
「ん?」
「ここ、誰かいたよな」
修二は写真を見る。
少しだけ、間があく。
「……そう見えるだけじゃないか」
曖昧な返答。
だが、
“否定しきれていない”ことだけは、はっきりしていた。
*
そのとき、
指先に、引っかかる感触があった。
紙じゃない。
もっと細い、
糸みたいな。
反射的に視線を落とす。
何もない。
ただの写真の端。
だが――
さっき確かに、“何かが繋がっていた”。
そんな感覚が残る。
*
その瞬間、
名前が、浮かんだ。
はっきりと。
輪郭を持って。
音として、そこにあった。
――こ
口が動く。
次の音も、わかっている。
出せばいいだけだ。
それだけなのに、
次の瞬間、
それが“消えた”。
削られるみたいに。
音ごと。
意味ごと。
何も残らず。
「……今、何て言った」
修二が聞く。
俺は答えられない。
言おうとした“それ”が、
もう思い出せない。
ついさっきまであったはずなのに。
*
喉の奥に、違和感が残る。
何かを飲み込んだみたいな感覚。
だが、飲み込んだ覚えはない。
むしろ――
“外に出るはずだったものが、中に戻された”。
そんな感覚だった。
*
写真の中の二人が、こちらを見ている。
その間の空白が、
さっきよりも、
少しだけ“狭くなっている”気がした。




