表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3人目のわたし  作者: 無記名
第2章
PR
5/40

第2章 第1話「残り方」


 あの写真は、結局見つからなかった。


 探している途中で、ふと、理由がわからなくなる瞬間があった。


 何を探しているのか。


 そもそも、本当に“あった”のか。


 考えた途端、確信がわずかに揺らぐ。


 だが、完全には消えない。


 ――あったはずだ。


 その感覚だけが、妙にしつこく残っている。


 *


「まだやるのか」


 修二が言う。


「……なんとなくな」


「なんとなくでやる量じゃないだろ」


 呆れたような声。


 だが、止めはしない。


 その距離が、妙に心地よかった。


「他に写真ってどこにある」


「物置とかだろ」


 昨日と同じ答え。


 だが、その言い方に、わずかな既視感があった。


 まるで、一度同じ会話をしたことがあるような。


 *


 物置の扉は、簡単に開いた。


 軋む音。


 暗さ。


 埃の匂い。


 すべて、記憶の中にある。


 あるはずなのに、


 そのどれもが、ほんの少しだけ古い。


 ――ここだけ、時間が遅れている。


 そんな感覚があった。


 *


 段ボールを開ける。


 新聞紙。


 写真。


 見慣れたはずの構図。


 なのに、


 ここにあるものだけが、妙に“触れたことがある”気がした。


 昨日じゃない。


 もっと前に。


 もっと、はっきりと。


 *


 写真を手に取る。


 二人。


 俺と修二。


 それだけ。


 それだけのはずなのに――


 その“間”が、広い。


 明らかに、何かが抜けている。


 最初からなかった、というよりも、


 そこだけ“削られた”みたいに。


「……なあ」


「ん?」


「ここ、誰かいたよな」


 修二は写真を見る。


 少しだけ、間があく。


「……そう見えるだけじゃないか」


 曖昧な返答。


 だが、


 “否定しきれていない”ことだけは、はっきりしていた。


 *


 そのとき、


 指先に、引っかかる感触があった。


 紙じゃない。


 もっと細い、


 糸みたいな。


 反射的に視線を落とす。


 何もない。


 ただの写真の端。


 だが――


 さっき確かに、“何かが繋がっていた”。


 そんな感覚が残る。


 *


 その瞬間、


 名前が、浮かんだ。


 はっきりと。


 輪郭を持って。


 音として、そこにあった。


 ――こ


 口が動く。


 次の音も、わかっている。


 出せばいいだけだ。


 それだけなのに、


 次の瞬間、


 それが“消えた”。


 削られるみたいに。


 音ごと。


 意味ごと。


 何も残らず。


「……今、何て言った」


 修二が聞く。


 俺は答えられない。


 言おうとした“それ”が、


 もう思い出せない。


 ついさっきまであったはずなのに。


 *


 喉の奥に、違和感が残る。


 何かを飲み込んだみたいな感覚。


 だが、飲み込んだ覚えはない。


 むしろ――


 “外に出るはずだったものが、中に戻された”。


 そんな感覚だった。


 *


 写真の中の二人が、こちらを見ている。


 その間の空白が、


 さっきよりも、


 少しだけ“狭くなっている”気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ