第1章 第4話「夜の輪郭」
その日の作業は、ほとんど進まなかった。
写真を探して、見つからなくて、また探して――それを繰り返しているうちに、時間だけが過ぎていった。
段ボールの中身は変わらない。
ただ一つ、“あの一枚”だけがない。
最初から存在しなかったみたいに。
その不自然さだけが、やけに際立っていた。
*
「……まだやってんのか」
修二が言う。
「見つからないんだろ」
「ああ」
「なら、やめとけ」
あっさりした口調だった。
まるで、“探しても出てこないことを知っている”みたいに。
*
夜。
布団に入っても、眠れなかった。
目を閉じると、浮かぶ。
三人。
消えた一枚。
“いないはずの一人”。
考えを止めようとするほど、逆に鮮明になる。
やがて、意識が沈む。
*
庭。
昼間の光。
蝉の声。
そこに、自分と修二がいる。
そして――
もう一人。
確かにいる。
だが、顔だけが見えない。
焦点が合わない。
輪郭だけが揺れている。
そいつが、こちらを見ている。
目が合っていると、わかる。
見えていないのに。
そいつが、一歩前に出る。
距離が、異様に縮まる。
近い。
近すぎる。
顔が見えるはずの距離。
それでも、見えない。
――いや、
一瞬だけ、見えた気がした。
それは、
俺の顔だった。
*
目が覚める。
息が荒い。
心臓が速い。
夢だとわかっているのに、感覚だけが残っている。
喉の奥が、少しだけ痛い。
手を当てる。
何もない。
それでも、“触れられていた感覚”だけが残っている。
*
ぎ、と音がした。
隣の部屋。
修二かと思って、耳を澄ます。
だが、音は続かない。
静寂。
その中で、
ふと気づく。
部屋の中に、“一つ多い”。
何が、と言えない。
だが、確実に何かが余っている。
視線を上げる。
暗闇の中、
本来何もないはずの場所に、
わずかに“歪み”がある。
空気が、そこだけ濃い。
目を逸らそうとして、
やめる。
逸らした瞬間に、
そこに“形ができる”気がした。
だから、見続ける。
何もない場所を。
――いない。
そう思う。
だが、
その“歪み”が、ゆっくりと、
俺と同じ呼吸で、
わずかに揺れた。
その瞬間、
理解してしまった。
あれは、
“俺じゃない方の俺”だ。




