第1章 第3話「欠けた記憶」
翌朝、目が覚めたとき、違和感があった。
何が、とは言えない。
ただ、眠る前と今とで、何かがほんのわずかにずれている。
夢を見ていた気もするが、思い出せない。
妙に喉が乾いていた。
天井を見つめたまま、しばらく動けなかった。
やがて息を吐き、体を起こす。
考えても仕方がない。
そういう種類の違和感だと、もうわかっている。
*
居間に行くと、修二は起きていた。
静かな朝だった。
「今日、どうする」
「……写真、もう少し見たい」
自然とそう言っていた。
理由はわからない。
だが、あれを放置したままにできなかった。
*
段ボールを開ける。
写真を一枚ずつ取り出す。
時間の流れが並んでいるはずなのに、
どこかに“穴”がある。
連続しているはずのものが、途中で欠けている。
そんな感覚。
俺は一枚の写真を手に取る。
修二と、俺。
二人だけ。
「……二人か」
次も、その次も。
全部、二人。
――違う。
本来なら、ここにもう一人いるはずだ。
根拠はない。
だが、その確信だけがある。
*
「どうだ」
「妙だな」
「何が」
「三人の写真が、ない」
修二はあっさりと答えた。
「そういうもんだろ」
「昨日はあった」
「……たまたまだろ」
その言葉に、違和感が残る。
たまたま。
例外。
そう片付けるには、何かが噛み合わない。
*
「なあ」
「ん?」
「もう一人、どんなやつだったか覚えてるか」
修二は少し考え、
「……お前に似てた気がする」
と言った。
軽い口調だった。
だが、その言葉は重かった。
“俺に似ている”。
その意味を考えようとして、やめる。
考えてはいけない気がした。
*
昨日の写真。
三人で写っていた、あの一枚。
あれだけが例外。
それ以外は、すべて二人。
――おかしい。
どちらかが間違っている。
俺は段ボールに手を伸ばした。
新聞紙をめくる。
探す。
すぐ見つかるはずだった。
だが、
「……ない」
見つからない。
「どうした」
「昨日の写真、ない」
二人で探す。
全部ひっくり返す。
それでも、ない。
確かにあった。
見た。
触れた。
話した。
それなのに。
消えている。
最初から、なかったみたいに。
*
「……どこいった」
意味のない問いが漏れる。
修二は少しだけ間を置いて、
「最初から、なかったんじゃないか」
と言った。
その言葉が、静かに落ちる。
否定しようとする。
だが、言葉が出てこない。
あったはずだ。
確かに、あった。
なのに、
その“確か”が、崩れていく。
内側から削られるみたいに。
――本当に、見たか?
一瞬、そんな疑問が浮かぶ。
その瞬間、
記憶がひとつ、抜け落ちた気がした。
昨日、あの写真を見たときの感触。
紙の硬さ。
指先の感覚。
それが、急に曖昧になる。
思い出せない。
さっきまで覚えていたはずなのに。
俺は立ち尽くしたまま、段ボールの中を見つめる。
空白だけがある。
そこに“あったはずのもの”の形だけが残っている。
最初からなかったのか、
今、消えたのか、
その違いすら、わからなくなっていた。




