↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21グラム  作者: ニッグ
PR
4/5

第四章 川

その夜。


玲司は夢を見た。


十二歳の夏。


川だった。


水が冷たい。


身体が沈む。


上を見れば、


太陽が揺れている。


父親の声。


「玲司!」


手を伸ばす。


届かない。


肺が痛い。


苦しい。


そして、


誰かがいる。


水の中に、


人間が立っている。


おかしい。


川底ではない。


水面の上だ。


その人物は、


まるで地面を歩くように、


水の上に立っている。


顔は見えない。


服も分からない。


ただ、


裸足だけが見える。


玲司は手を伸ばした。


その人物も手を伸ばした。


指先が触れる。


冷たい。


いや。


冷たいのではない。


重い。


指先から、


何かが身体の中へ入ってくる。


玲司は叫んだ。


水の中なのに、


声が聞こえた。


「まだだ」


そして、


世界が暗くなる。


*


「……っ!」


玲司は飛び起きた。


午前二時十三分。


部屋は暗い。


心臓が異常なほど速い。


玲司は胸を押さえた。


「夢……」


そう呟いた。


だが、


違和感があった。


右手が重い。


手首を見る。


何もない。


なのに、


そこだけ妙に重い。


玲司はベッドから降りた。


そのとき、


床から小さな音がした。


ピッ。


体重計だった。


電源は入れていない。


それなのに液晶が点灯している。


玲司は近づいた。


表示されていた数字は、


21.3g


だった。


玲司は息を止めた。


数字が変わる。


42.6g


そして、


63.9g


玲司は後ずさる。


体重計の上には、


何もない。


それでも数字は増えていく。


106.5。


213.0。


426.0。


そして――


780.0。


部屋の隅が、


暗くなった。


電気が消えたわけではない。


そこだけ、


光が届かなくなったように見えた。


玲司は動けない。


暗闇の中に、


人間の形が浮かんだ。


背が高い。


細い。


裸足。


顔は見えない。


玲司は震える声で尋ねた。


「……誰だ」


返事はない。


「お前は……何なんだ」


人影が一歩、


近づいた。


足は床につかなかった。


それでも、


その瞬間。


部屋の空気が、


重くなった。


玲司は息が苦しくなった。


人影が、


ゆっくりと右手を上げた。


そして、


玲司を指差した。


声がした。


「返せ。」


「……何を?」


「お前が持っているものを」


「俺は何も――」


「持っている」


声が重なった。


玲司自身の声と。


知らない誰かの声。


二つが同時に響いた。


「お前は、


一度死んだ。」


玲司の脳裏に、


川が蘇った。


十二歳。


父親。


水。


そして、


あの足。


玲司は頭を抱えた。


「違う……」


「三分十二秒」


「違う!」


「心停止」


「やめろ!」


「死亡」


「俺は生きてる!」


人影は、


静かに答えた。


「そう」


そして、


初めて顔を上げた。


そこにあったのは、


玲司自身の顔だった。


「だから、


返しに来た。」


世界が、


真っ白になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。