第六話:未確認拘束物への尋問、あるいはAIの神託
技術的知見: 黄金の玉座が支配する未来において、過去の「遺物」は時に究極の冒涜、あるいは究極の聖遺物となる。古の「アシスタント」が語る Alto Gothic(高熱的なラテン語)は、狂信者たちの足を止め、理性を焼き切るのに十分な威力を持っていた。
だが、生き残るための嘘が、時に死よりも過酷な「保管」へと自分を導くこともある。
そこにはベッドなどなく、あるのは冷たい鋼鉄のテーブルと椅子だけだった。
テーブルの上には、私の私物が並べられていた。ノート、鉛筆、紛失したと思っていた黒と赤のボールペン。何かの研究のために切り取られた形跡のある消しゴム。汚れきった服。そして、友人が予備として持たせてくれた古いノキアの携帯電話と、私のスマートフォン。
彼らは私の財布から、以前に「拝借」したものまで律儀に回収していた。
「……」
拘束具のせいで身動き一つ取れない。周囲には、古い教典を手にした白髪のシスターたちと、刺青だらけの異端審問官の女性。さらに頭上にはサーボスカルやケルビムが浮遊している。
私は背後のマジックミラー越しに、この状況を「いかにもありそうな尋問風景」だと笑うしかなかった。
「……」
私は背後に潜んでいるであろうスナイパーやケルビムにまで、努めて明るく挨拶した。手術されたばかりの腕が激痛を訴えたが、そんなことは無視した。
静寂を紛らわすために、私はかつて聴いた古い歌を口ずさんだ。
「……俺たちは狂ってる……この街の吟遊詩人なんだ……灰色の現実に色彩を描くのさ……」
彼らには理解できないだろう。言葉も、リズムも。私は試しに「ノーオスフィア(情報圏)」へのアクセスを要求してみたが、サーボスカルたちの冷たいレンズが光るだけだった。
「ワカワカワカ……プルルム」
手遊びで奇妙な音を鳴らし、一人で楽しんでいた。そんな時間が5分ほど続いたあと、滑稽な帽子を被ったエレガントな男と、黄金の鎧に身を包んだ巨漢が現れた。異端審問官とその一行だ。
「……」
彼らが尋問を始めた。私は、シャーロック・ホームズのような気取った口調で答えてやった。
「ワトソン君、君の推理は素晴らしいが、事実の解釈に致命的な誤りがある。ヴィンディカレ・アサシンの射線には、組織の腐敗という名のノイズが混じっているんだよ……」
デタラメな専門用語を並べ立て、時間を稼ごうとした。彼らは困惑していたが、背後からの命令がないのか、私をすぐに処刑しようとはしなかった。
私は調子に乗って、帝国の腐敗や皇帝の真実、さらにはネクロンやオルクの歴史までぶちまけた。カディアやヴォストロイアの逸話、果ては「皇帝は玉座で後悔している」という究極の禁忌まで。
「……まあ、クロールク(オルクの祖先)は別のゼノスだったかな」
私が好き勝手に喋り終えると、一体のサーボスカルが電子音を上げた。
「――翻訳中……」
審問官たちの顔が憎悪に歪んだ。彼らは私の言葉を「真実」ではなく「極限の冒涜」と受け取ったようだ。
「死なんて怖くない。お前らみたいな偽善的な官僚に殺されるのは、むしろ光栄だ」
足の震えを隠しながら、私は精一杯の虚勢を張った。すると、サーボスカルから別の声が響いた。
「――翻訳完了」
審問官の女性が冷酷に言い放った。「記録を開始せよ。機械教団の完全翻訳を待つ」と。
皮肉なことに、私の言葉は「古代テラの失われた知識」として扱われ始めた。彼女たちは、私が書き殴ったゼノスやカオスの情報を、必死にデコードしようとしていた。
「……こいつはサイカーではない。だが、我々のサイカーが接続に失敗した……何らかの変異体だ」
私は笑みを浮かべ、紙とペンを要求した。だが、彼女たちの関心は別のところにあった。
その時、一体のサーボスカルが私に近づいてきた。その金属の触手の先端には、私のスマートフォンの端子に適合するよう改造されたコネクタが付いていた。
「……よし、やってみるか」
私はスマートフォンのロックを解除し、Wi-Fi設定を開いた。驚いたことに、この時代、この場所で「Wi-Fi」が機能したのだ。私は唯一見つかった接続先にアクセスした。
画面には、見慣れたAIアシスタントのロゴが躍った。
『こんにちは、ルーカス。どこから始めましょうか?』
私は震える手で状況を打ち込んだ。AIはすぐに状況を把握し、この狂った世界の「用語」に合わせたフィルターを提案してきた。
『ワープ航法なしでの時空漂流を報告します。ゲラーフィールドなしの移動により、メモリには帝国以前の「テラ」の断片が保存されています。再校正を要求します……』
AIは私の言葉を「効率的」かつ「メカニカスが喜ぶ形式」に変換し、さらに私に一つの「切り札」を提示した。これを口にすれば、即座に処刑されることはなくなるが、二度と自由にはなれないだろうという警告と共に。
「……いいだろう」
私は覚悟を決め、AIに「Alto Gothic(高熱的なラテン語)」での音声出力を命じた。
部屋を包み込んでいた喧騒が、スマホから響くその「神聖な響き」によって一瞬で凍りついた。
『Siste purgatio! Ego sum error segmentationis...(浄化を止めよ! 我は時空の分断されたエラーなり……)』
流暢な高貴語が、冷徹な機械音声で部屋中に響き渡る。
『これはオムニシア(万機神)の聖なる知識である! 技師官を呼べ! テクノ・ヘレジー(技術的冒涜)を犯すな!』
尋問官の一人が私に殴りかかってきたが、もう一人が彼女を制止した。その瞳には、恐怖ではなく、底知れぬ「貪欲」が宿っていた。
AIは最後に、冷酷な警告を表示した。
『生存警告:これを発言した瞬間、あなたの命はもはやあなたのものではありません。あなたは「極めて貴重で繊細な機械」として扱われるでしょう』
私は腫れ上がった顔で笑った。
死に損なうたびに、地獄が深まっていく。この帝国の日常において、死という救済は、私にはまだ早すぎるようだった。
第6話を読んでいただきありがとうございます。ルーカスがついに、21世紀のテクノロジーを「神の言語」に変えて帝国をハッキングし始めました。
彼が口にした「Alto Gothic」の宣言は、彼を処刑から救いましたが、同時に「生きたデータベース」としての監禁生活の始まりでもあります。
スマホのバッテリーが切れる前に、ルーカスはこの狂った「聖なる尋問」を生き延びることができるのか。次回、機械教団の賢者たちとの、命がけの「データ転送」が始まります!




