第二話:死の淵、その後の静寂
技術的知見: 異形の寄生虫を焼くのは推奨されない。それらは体内に可燃性のガスを溜め込んでおり、熱を加えると爆発する危険があるからだ。
地獄のような惨劇のあと、生き残った者に残されるのは、安っぽい酒の焼けるような味と、自分のものではない悲しみの重さだけだ。
ガラスに映る自分の顔を見つめる。瞳には罪悪感が滲んでいた。それは数時間前の出来事に対してではなく、これまでの人生すべてに対するものだった。
別のボトルを手に取る。アマセックか、あるいは工業用のリカーかは分からないが、一口含んでうがいをした。口の中が焼けるようだが、湿り気を感じることで少しだけ正気が保たれる。中身を飲み込む勇気はなかったので、吐き捨てたあと、箱から失敬した布を使ってボトルの中身を背中に流し込み、汚れを拭った。
この倉庫の中は、避難所としてはまずまずだ。少なくとも、あの忌々しい爆発する蛆虫を抱えたネズミはいない。
「どこに迷い込んだかは知らんが、最悪ではないな」
死ぬことを拒み、重い箱を落としてもなお蠢いていた「何か」の残骸を見つめて呟く。箱の重みで胴体が潰され、ようやくそれは静かになった。
「気分はどうだ?」
私は「眠れる森の美女」に声をかけた。彼女には新しい包帯と服を着せてある。選んだ緑色の服は、彼女には案外似合っていた。意識を失っている間、彼女が文句を言うことはなかった。
「……」
彼女はうわ言のように、より洗練された響きのラテン語を漏らした。その顔立ちは醜悪だが、不完全さゆえの美しさがあった。肉食獣のような鋭い歯を持っていたが、それは手入れが行き届いているように見えた。
場所が冷え込んできたので、私は彼女を抱き寄せて温めた。
「いいか、これは愛じゃないぞ。もし親密さを求めるなら、あとで高くつくと思え。人生で学んだのは、すべてには価値があるということだ。君を看病する手間に見合うだけの、ここから出る方法を教えてくれることを期待しているよ」
独り言を苦い溜息で締めくくる。この場所全体が、いつ爆発してもおかしくない爆弾のように感じられた。
「落ち着いたら、化粧でもしてやろう。趣味じゃないが、あの大きな棍棒を持った大男の部屋に、立派な化粧箱があるのを見つけたんだ」
深い紫色のアイシャドウなら、彼女に似合うかもしれない。私は倉庫の照明を点け、スマートフォンのバッテリーを節約した。ここには充電器を差し込めるコンセントなどどこにもない。
倉庫で見つけたランタンやその他の道具を、自分の買い物袋に詰め込んだ。
暇つぶしに、私はスケッチを始めた。外に転がっていた死体や異形の怪物たちの構造を、記憶を頼りに紙に書き出していく。
死の気配が漂う中、一輪の薔薇のような美しさを持つ彼女の姿を捉えようと、鉛筆を走らせた。彼女は20代か30代の女性のように見え、痩せてはいたが、鍛えられた身体の曲線には洗練された美があった。頭髪がないのは、描き手としてはありがたかった。髪の毛の複雑な流れに惑わされずに済むからだ。
図解の合間に、彼女の同胞たちの死体から得た技術的な知見も書き込んだ。収納式の爪、魔術的とも思える突然変異。科学の常識では説明のつかない、その寄生的な共生関係や、捕食者としての完成された動き。
描くことに没頭して数時間が過ぎた。ついでに食料も「調達」したが、その中身にはあまり期待していなかった。
「さて、食事の時間だ。この味の悪い加工肉は、おそらく人間を再処理したものだろうが……クッキーや他の食料もある。よく火を通したほうがいいな。あの蛆虫の二の舞はごめんだ」
缶を空け、中身を小さな鍋に移した。アルコールを足し、火を近づけてフランベする。
「人間にはいろんな調理法があるが、あまりいい会話のネタじゃないな。あの蛆虫はネズミを宿主とし、突然変異を共有することで、臓器を圧迫するほど巨大化する……というのが私の持論だが」
手を止め、これがこのネズミを殺す要因になるのか、あるいは共生し続けるのかを考えた。
酒で香り付けした加工肉を火から下ろし、冷ます。
ふと見ると、彼女が少し若返ったように見えた。化粧のせいか、あるいはただの錯覚か。
味見をしてみると、驚いたことに美味かった。どのボトルの酒を使ったのか覚えていないが、黄色いラベルのそれが幸いしたらしい。
「お嬢さん、起きなさい」
耳元で囁き、彼女を抱き起こす。彼女は疲れ切ったように、わずかに目を開けただけだった。私はスプーンで肉をすくい、適温になるまで息を吹きかけてから彼女の口に運んだ。
「食べなきゃ死ぬぞ。死ななくても、これくらいは食え」
意識が混濁したまま、彼女はゆっくりと食事を受け入れた。嘔吐させないよう、少しずつ食べさせた。
「……」
自分も食べようと思ったが、鍋に蓋をしてボトルを開けた。グラスに注がず、そのまま一口。さっきよりさらに酷い味だが、意識を曇らせるには十分だった。肌の下に針が刺さるような、あの不快な感覚を忘れて眠りたかった。
「……すまない。これは私の悪い癖なんだ。状況が状況だし、こうでもしないと自分自身から逃げ出せない気がしてね。君には言葉が通じないだろうが。お休み。何かあれば、このボトルの半分で歓迎してやるさ」
私は微笑んだ。どうせ彼女には伝わらない。
外にはゾンビや異形の怪物が溢れ、自分は倉庫に閉じ込められ、正体不明の変異者の女を看病している。死ぬことも、それほど悪い選択肢には思えなかった。
眠りに落ちる寸前、あの蛇の紋章を思い出した。どこかで見覚えがあるはずなのに、思い出せない。
コツン、という微かな音がした。
反射的に目を開ける前に、目の前の相手に向かって右フックを繰り出した。だが、そこにはボトルも敵もおらず、拳は虚しく壁を叩いた。
「クソッ……痛てぇ……」
壁で擦りむいた額を抑えて呻く。胸には倒れてきた箱の角が食い込んでいた。
「……」
女性の声が聞こえた。彼女だった。彼女はボトルから酒を嗜み、楽しそうに食事を平らげていた。
彼女のラテン語は相変わらず理解できなかったが、私はただ頷いた。
彼女は少し酔っているようだった。失血している体にアルコールが回ったのだろう。
「言葉が分からないんだ。通じてないぞ」
身振り手振りで伝えると、彼女は汚れを拭い、ゆっくりとした発音で、古風で粗削りなラテン語を話し始めた。
私は頷き、スプーンを奪って残りを一口食べた。冷めていたが、味は良かった。彼女は不機嫌そうに私を見つめ、私はボトルを取り上げた。彼女は渋々といった様子で、食事を完食した。
私は彼女の隣に横たわった。まだ酒が残っており、体中が痛んだが、眠気が勝った。
彼女は私の買い物袋の中身を調べていた。ノートやスケッチブックに興味を示したようだ。そこに描かれた、夢の中の怪物や、外で見かけた異形たちの写生。彼女は自分たちの同胞が描かれたページで手を止めた。
彼女の瞳に涙が浮かんでいるのを見て、私は言葉を失った。化け物であっても、その内側には脆い「人間性」が残っている。
私はそっと彼女の背中を撫でた。最善の慰めではなかったかもしれないが、何もしないよりはマシだった。彼女の悲しみの気配が、額の傷の痛みよりも鋭く刺さる。
やがて、彼女はすすり泣き、私の隣で丸くなって眠りについた。
私は子守唄を歌った。大切な誰かが悲しみに暮れている時、私にできるのは、失われた幼少期の歌を口ずさむことだけだった。
眠りに落ちるまで、彼女の頭を撫で続けた。
あんなに深く眠れたのは久しぶりだった。
夢の中で、あのピラニアのような、多肢の怪物が生まれる前に腐敗に飲み込まれる光景を見たが、かつて感じた「自分の皮が檻であるかのような感覚」はなかった。
ただ、見たもの、生きているもの、そしてこれから生きるであろうものが、閃光のように意識を通り過ぎていった。
それはまるで、もしそれが真実であるならば、ウイルスのように魂に感染する夢だった。
第2話を読んでいただきありがとうございます。ルーカスと謎の女性(変異者)との奇妙な共同生活が始まりました。言葉の通じない二人が、死臭の漂う倉庫で食事と悲しみを共有するシーンは、この世界の残酷さとわずかな温かさを象徴しています。
蛇の紋章、そして夢に見る異形の正体とは……。次回、彼らはついにこの「袋小路」からの脱出を試みます。




