第十一話:不条理なる虚無、あるいは紫の呼び声
技術的洞察: 真の恐怖とは、巨大な艦隊でも異形の悪魔でもない。それは、理解不能な「過去」と対峙した時に生じる論理の崩壊である。ルーカスが持つ「聖遺物(Nokia)」は、暗黒時代の通信プロトコルを維持し、魂なき暗殺者ククレクサスの無効化フィールドさえも笑い飛ばす。
審問官たちが彼を「銀河を滅ぼすウイルス」として観察する中、彼はただ、失われた音楽を響かせ、緑の肌の怪物からの電話に応答する。これは、信仰と狂気が交差する場所での、たった一人の抵抗の記録である。
ドミヌスとの別れは、奇妙なものだった。彼は私が「ワイヤレスイヤホン」という聖遺物を持っていたことに激怒し、同時に歓喜した。彼はそれを「オムニシアの祝福」と呼び、充電器の製造を最優先事項に据えた。私にとってはただのガジェットでも、彼らにとっては失われた時代の神聖なるパズルなのだ。
だが、そんな時間は長くは続かなかった。メカニカスは私に対する支配権を失い、私は「審問局」の手へと渡った。彼らにとって、私の処刑は既に決定事項であり、沈黙の姉妹はその「執行方法」を定めるための裁判官としてそこにいた。
「最悪だ……」
私はサーボスカルを通じて呟いた。ドミヌスは、私が教えた「オルクを傭兵化し、カオスへの突撃部隊にする」という狂気的な計画を胸に、闇へと消えていった。彼は私のイヤホンを、まるで神の破片であるかのように大切に抱えていた。
大気圏を突破し、私は審問局の戦艦「クリュオル・ヴルト(Cruor Vult)」へと移送された。それは船というより、宇宙に浮かぶ巨大な拷問大聖堂だった。ドロテアの冷たい視線に晒されながら、私は全身を拘束具で固められ、 hangar(格納庫)を降ろされた。
私は展示物だった。
黒い、光を吸収するような滑らかな石の檻。角のない、無限の曲線を描く空間。そこは、私という「古代のウイルス」を観察するための顕微鏡の下だった。
審問官たちが私の魂の真偽を議論する中、一人の影が現実を切り裂いて現れた。
ククレクサス・アサシン。
その頭部は巨大な金属の頭蓋骨であり、中央に輝く単眼は光ではなく、存在そのものを消去する波動を放っていた。彼の周囲では現実が歪み、並の人間なら精神が崩壊するはずだった。
だが、私はただ欠伸を噛み殺した。寝不足と移動の疲れの方が、彼の「死のオーラ」よりも堪えたのだ。
その時、ポケットのNokiaが振動した。
誰もいないはずの、通信など不可能なはずの空間で、あの古臭い着信音が鳴り響いた。
「もしもし?」
私は自然に応答した。周囲の審問官たちは、あり得ない光景に息を呑んだ。
『……聞こえるか? 二重に聞こえるぞ、スピーカーを切れ!』
電話の向こうからは、耳慣れた、だが凶暴なアクセントの言語が聞こえてきた。
『逃げ切れると思ったか? 俺様の超絶カッコいい宇宙船を馬鹿にした報いだ!』
それは、あの「紫色のオルク」のウォーボスだった。
「ああ、これはこれは、銀河で最も偉大で、最も紫色なキャプテン。あなたのような御方に電話をいただけて光栄ですよ」
私は皮肉を込めて深々とお辞儀をした。
「ですが、あの岩の塊のような船は、青いチビどもの遠距離攻撃に比べれば、少しばかり……野蛮すぎやしませんかね?」
オルクが激昂する前に、私は一方的に電話を切った。ククレクサスは困惑したように私を見つめていた。彼の「無」のフィールドが、この小さな機械には一切通用しなかったのだ。
その後、伝説的な審問官**ヴェイル(Vail)**が現れた。彼女の存在感は圧倒的で、他の審問官たちが蛇に睨まれた蛙のように硬直した。彼女は私の描いた「対悪魔用・ディスフォーミティ粉砕機」の図面を、苦々しい表情で精査していた。
私はただ、Nokiaから流れるヘヴィメタルの重低音に身を任せていた。
檻の床に指で描いた図形は、悪魔にエネルギーを過剰供給して自爆させるという、狂気的な兵器の構想だった。
審問官の一人、ブレイク・ブレイクリングが椅子に座り損ねて転倒するのを見て、私は爆笑した。その笑い声は、静寂の大聖堂の中で「絶望の叫び」として響き渡り、審問官たちは怯えた。彼らには、私が何か恐ろしい罠を仕掛けているように見えたのだろう。
だが私は、ただ可笑しかっただけだ。
銀河の運命を握る男たちが、椅子の脚一本に翻弄されている様が。
第11話を読み終えて、ルーカスの「適応力」という名の狂気がさらに際立ってきましたね。
最強の暗殺者であるククレクサスを前にして「欠伸」をし、さらには異次元からの「オルクの勧誘電話」に平然と対応する。このギャップが、ハイ・ファンタジーなウォーハンマーの世界観に絶妙なスパイスを加えています。
審問官ヴェイルの登場により、物語はさらに政治的な深みを増していくでしょう。果たしてルーカスは、この「聖なる拷問船」を無事に脱出できるのか、それとも彼の「粉砕機」が先に完成してしまうのか。
次章、審問局の深部で何が起きるのか……期待が高まります!_**




