第十話:監獄の静寂、あるいは赤い球体
技術的知見: 4万年代において、肉体は「神聖なる機械」を維持するための単なる器に過ぎない。マゴス・ビオロジスのメスが骨を削る音は、ルーカスにとっては再生の儀式ではなく、理不尽な拷問でしかない。
だが、その苦痛の中で彼は、この暗黒の未来に「過去の遺物」という名の爆弾を投げ込む。伝説の技術者テスラの知恵、そして絶滅したはずの「娯楽」という概念。審問官たちが銀河の行方を議論する傍らで、彼はただ、一台の携帯電話の画面に集中していた。
肉体の再構築と手術の連続は、私を衰弱させた。だが、皮肉なことに体が切り開かれるほど、世界に対して心が開いていくような感覚があった。マゴス・ビオロジスは、私がただの「検体」であるかのように、一切の手を緩めなかった。
私はしばしば、壁の向こう側にある何かを見つめるかのように、じっと動かずに過ごした。
メカニカスが提供した豪華な寝室で、私は「ロシオ(Rho-C.1.0)」の歩行リハビリを助けるという任務を与えられていた。彼女の骨の修復は、ビオロジスによる半ば強制的な「無償の奉仕」だった。ドリルが骨を削り、骨髄に熱い液体が注ぎ込まれる音を聴くたび、私は遠くから向けられる彼女の怒りを感じ取ることができた。
回復した私に与えられたのは、「何もしない」という権利、あるいは義務だった。厳重な監視下で、私は軟禁状態にあった。
「下の階層は膠着状態よ。敵が弱まるのを待って、一斉にクリーンアップ(浄化)する計画なの」
モヒカンの修道女ヘレナが、配給食を噛み砕きながら戦況を語った。彼女の頑丈な顎が動くたびに、私は羨望を覚えた。私の体は、テックプリーストたちが好むゼリー状の化学物質しか受け付けなくなっていたからだ。
「それで、お前の世界では何をしていたの? その……『並行世界』の、先史時代の話よ」
紫色の肌をしたジーンスティーラー、ヴラカが尋ねた。彼女はこの施設で、私よりも自由に振る舞っているように見えた。
「俺の家族は店をやっていた。順調な時もあれば、ダメな時もあった」
私はスマホに言葉を打ち込んだ。「何かを維持しようと一生を捧げても、新しい変化や持続可能な改善を加えなければ、いつかは枯れてしまうんだ」
ヘレナは驚いたような、あるいは呆れたような表情を浮かべた。
「幸運だったのね。良い家柄だったの? 家族がいたなんて……」
「別に高貴な家じゃない。ただの頑固な、俺みたいな間抜けの集まりだったよ」
私は正直に答えた。この世界の基準では、家族経営の店という概念すら理解しがたいものなのだ。
私は彼女たちに「ブーロクラシア(愚か者の官僚制度)」について教えた。ラテン語から派生した、頑固なロバ(ブーロ)のような、変化を拒む愚かな仕組みの話だ。
その後、上級修道女マリオネットとテオロジー(神学)について議論を交わした。彼女の娘、私を最初に痛めつけたドロテアの将来について話が及んだ。
「お前の娘を、ライオン(エル=ジョンソン)の従士に推薦したらどうだ?」
マリオネットは恐怖と期待が入り混じった顔をした。
「従士? ドロテアは女性よ。スペースマリーンは男だけではないの?」
「理屈の上では、犬だってスペースマリーンにできるさ。ネオス(皇帝)は最高の質を求めたが、結局はプライマークの残滓を使った妥協の産物だったんだ。ドロテアが『従士』になれば、彼女は規律、判断、そして倫理を学ぶだろう。それは、単なる暗殺者になるよりずっと価値があることだ」
私は、カリバンの森に伝わる騎士道の伝統を語った。性別は関係ない、重要なのは「秘匿と信頼」の重荷を背負えるかどうかだ。
「分かったわ。ドロテアにその機会があるというのなら……」
「まあ、彼女はオルクの戦親分にも向いてるけどな。緑色のペンキを塗れば完璧だ」
私の冗談に、殺伐とした部屋で初めて笑い声が上がった。
数日後、マゴス・ドミニウスとの対話が始まった。彼は私の提案した「二酸化炭素の注入」と「熱管理」による疫病抑制案を、秘密裏に実行していた。
「スキタリは4人一組で動いている。市民を保護する意味などない。ただ、生物学的な混乱を減らしているだけだ」
ドミニウスは金属のテーブルを指先で叩きながら不満を漏らした。
私は、彼らの凝り固まった思考を破壊するために、さらなる「テクノ異端」を提示することにした。
「テスラ・コイルを、逆位相で作動させるんだ。エネルギーを爆発させるのではなく、磁場を吸収し、熱に変える。これは、古代のテスラという聖人が遺した技術だ」
「冒涜だ! 聖なる設計図(STC)に手を加えるなど!」
ドミニウスの叫び声が響く。だが、私は冷淡に続けた。
「テスラは天才だったが、人間が『無料のエネルギー』よりも『金が取れる電球』を選んだから、孤独の中で死んだ。君たちと同じだ。情報を金庫に隠している間に、世界が腐っていくのを放置している」
私の言葉に、ドミニウスは沈黙した。彼は、メカニカスが失った「革新」という名の情熱を、私の言葉の中に見ていたのかもしれない。
そして、再度の審問が始まった。
部屋には、エクソシスト教団のスペースマリーン、修道女、そして「沈黙の姉妹」が集まっていた。
私は、一本の杖に繋がれた状態で、その場に立たされた。
杖の先には帝国の鷲が刻まれている。彼らはこれを「服従の証」と見たが、私にとっては、この場を凌ぐためのクールなアクセサリーに過ぎなかった。
私は、一人の沈黙の姉妹に目を向けた。彼女は細身で、美しく、冷徹な空気を纏っていた。
私はサーボスカルを使い、彼女に語りかけた。
「……一緒に踊らないか?」
その場にいた全員が凍りついた。サーボスカルさえも、その言葉を翻訳すべきか迷うように回転を止めた。
私は、ポケットから古い、小さな黒い端末――Nokiaを取り出した。
「沈黙には、音楽が必要だ」
私はスマホのボタンを押し、古い世界の、ゆったりとしたロマンチックな曲を再生した。
4万年代の住人たちにとって、それは未知の、そして恐ろしくも魅力的な「魔術」の調べだった。
審問官たちは、私を異端として焼くべきか、その「音を出す聖遺物」の前に跪くべきか判断できずにいた。
「踊るのが嫌なら、一つ頼みがある。……クレクサス・アサシン(魂を持たない暗殺者)を呼んでくれ。次のダンスの相手は、彼がいい」
私の狂気に満ちた微笑みに、審問官たちは言葉を失った。
返事がないのをいいことに、私はNokiaの画面に視線を戻した。
「……ったく、この赤い球体、レベル3の障害物が難しすぎるんだよ」
私は審問官たちの殺気を感じながら、ただ、画面の中で跳ねるドットの球体を操ることに全神経を注いでいた。
第10話を読んでいただきありがとうございます。ルーカスが、全銀河を敵に回しかねない「テスラ・コイルの逆用」を提案し、挙句の果てに「Nokiaでゲームをする」という、ある種究極の不敬(あるいは神性)を見せつけた回でした。
沈黙の姉妹をダンスに誘うという、ウォーハンマー40k史上最も無謀な行動は、読者に強烈なインパクトを与えます。
彼が操る「赤い球体(ゲームのBounce)」は、混迷を極める銀河の運命そのものかもしれません。
次章、ついにクレクサスが現れるのか、それとも審問官の堪忍袋の緒が切れるのか。物語は予測不能な領域へ!




