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さよならを歌え  作者: 須景夜々


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7/7

透過して!

ライブは体育館で行われる。軽音部は朝早く学校へ行き楽器をはこばなければならかった。僕は家が遠いので5時に起きなければならず非常に憂鬱だった。夏だというのに早朝は肌寒くバスの中が暖かかった。バスには僕しか乗ってなくてまるでこの世界で一人みたいだった。いや、運転手さんはいるんだけど。何かの主人公みたいで気分がいい。最近見た映画でこんなシーンがあった気がするけど名前は思い出せない。30分ほど揺られ目的地へと着いた。

バスから降り学校へ向かっていると後ろから声をかけられた。


「おはよう秋鹿くん。朝早いね」

「おはよう一夜。今日は楽器の運搬があるんだよ」


こんな朝早いのに誰かに会うなんて思わなかった。普段僕はバスの都合で遅刻ギリギリなので誰とも会うことがないのでなんだか新鮮だ。一夜は規則正しそうだしいつもこの時間に来てるんだろう。


「そういえば秋鹿くんってなんの楽器なの?」


出た。この質問は僕にとってかなりのギャンブルになる。というのもベースと言って知らない反応されたら少し悲しいのだ。


「あー、ベースって楽器なんだけどわかる?」

「わかるよ。低い音の出る4弦の楽器だよね」

「そうそう。よかった〜伝わって」

「基本の楽器くらい知ってるよ〜秋鹿くんがベースか〜似合ってるかもっ」


よかった。知らないとか地味な楽器とか言われたら相当ショックだった。案外音楽を聴くんだろうか。一夜が聞く音楽か、、、クラシック音楽とか聞いてそうだ。上品な服装で紅茶を飲みながら、クラシック音楽を聴いてる一夜がすぐにイメージできる。


「楽しみだな〜私ライブとか行ったことないから生で演奏聴くの初めて。どう?秋鹿くん緊張してる?」

「少しそわそわしてる。楽しみが勝ってるかも」

「期待してるね」

「期待に添えるように頑張るよ。」


 朝もいつもより早く起きたし昨日もあまり眠れなかった。そう。僕はそわそわしていた。昨日の部活で綾城は顔が死んでいたのを思い出す。ずっとブツブツと壁に向かって呪詛を吐いていた。練習もミスしまくっていてこの世の終わりのような雰囲気になっていたし。それに比べて先輩方は全く緊張している様子がなくベテランのような風格を漂わせていた。裕太先輩はまだしも須波先輩まで緊張してなかったのは驚いた。あの人が1番緊張してそうなのに。

その後生徒玄関で僕たちは別れて僕は楽器を運びに音楽室へ向かった。




 昼休みにライブをするので僕は購買で適当にパンを買って急いで体育館へ向かった。遅れたわけではなかったが1番僕が遅かった。まだ時間があるので僕はステージの淵に座り誰もいない体育館を見ながらパンを頬張った。ここに三百人くらい入ると思うと少しドキドキする。裕太先輩曰くライブに来るかこないかは個人の自由らしい。ただ毎年ほぼ全校生徒が見に来るらしい。


「あーー緊張するー」


綾城が横にドカッと座り込んで焼きそばパンを頬張り始めた。顔は青ざめ幽霊のようだ。


「俺からは頑張れとしか言えないよ」

「こんなに緊張するのは初めて。、、、焼きそばパンの味がしない。でもちょっとワクワクしてる。」


無心に焼きそばパンを口に頬張っている。裕太先輩も何か食べ始めて遅れて須波先輩も食べ始めた。


「このライブで新入部員入ってきて欲しいな〜」

「そうだな。まあ最悪吹奏楽の部員一人を攫ったら解決だ」

「吹奏楽部員はギター弾けないでしょ」


確かに


「ご馳走様。私はギターの前で精神統一してるから邪魔しないでね」

「へいへい」


ご飯を食べ終わり僕は楽器用意も終わっているので体育館の2階で床を眺めた。カーテンの空いている窓から差し込む光が体育館を照らしている。人はちょこちょこ集まってきていて座っている姿が見える。誰も僕に気づいていないけど。藤正はまだきてないな、、、あいつは暇だろうに何してるんだ。人も集まってきたので僕はステージへと戻った。

 今日は合唱部が先に合唱をするので僕たちは後だ。ステージのカーテンも閉まり体育館全体のカーテンも閉めて会場が薄暗くなった。体育館が人でいっぱいになり合唱が始まった。綺麗なハモリで思わず圧倒された。このカーテンの奥の熱が伝わってきた。音が消え合唱が終わったのが分かった。

 ワクワクしてきた。僕はまさに今、この瞬間から、いやきっともっと前から僕は緊張している。高揚し心拍が波打つ。気分がいい。

 この薄暗いステージ裏で自分の呼吸音だけが聞こえる。

目の前の大きなカーテンの向こうはきっと騒がしいはずなのに僕には呼吸音しか聞こえない。

緊張を紛らわすためにひたすらマイクの位置を上下させた。ハモリで一応僕も少し歌うのだ。先輩たちはスティックをクルクルさせたりキーボードの設定をしている。先輩方はマイペースだし、綾城は精神統一で落ち着いていて緊張してるのは僕だけになるかもしれないな。


「もしかして緊張してるの?」


明らかにおかしい挙動の僕に綾城はそう問いかけた。いつも通りの冷たい目だが今日はその目からワクワクが伝わってきた。

こんな時くらい緊張してくれないといよいよ人間か怪しくなってくる。


「まさか。これ以上ないくらいにリラックスしてる。」

「ふ〜ん、じゃあその足の震えは何?」

「武者震いってやつかな。」


カタカタと震える足と強がる僕を見て綾城はフッと鼻で笑った。あんなこと言っておいてこのザマだから笑われても仕方ない。


「さあ、次は軽音部です!」


司会の声と共にカーテンが開いた。体育館いっぱいに人が詰まっている。この量の人間に注目されるのは初めてだ。緊張で吐きそうなんて表現、初めて自分に感じている。こんな気持ちだったのか。某ロックンロール漫画の主人公は初ライブで頭にダンボールかぶっていたがぼくもそうしたくなってきた。目線をどこに向けたらいいのかわからない。


「どうも、軽音部です。今日は時間の都合で一曲しか披露できませんがよろしくお願いします。それでは聴いてください。ヨルシカの『準透明少年』」


裕太先輩の合図と主に僕たちの演奏がはじまった。疾走感のあるギターと力強い声が混ざり体育館を埋めていく。


「凛として花は咲いた後でさえも揺るがなくて 今日が来る不安感も奪い取って行く 正午過ぎの校庭で一人の僕は透明人間誰かに気付いてほしくて歌っている 凛とした君は憧れなんて言葉じゃ足りないようなそんな色が強く付いていて どんな伝えたい言葉も目に見えないなら透明なんだ 寂しさを埋めるように歌っていた」

 

集中できていて誰もミスがない。気持ちのいい演奏であがってきた。いや、それっぽく言うなら『ノッてきた』だ。そのまま流れるようにサビがくる。


「誰の声だと騒めきだした 人の声すらバックミュージックのようだ あの日君が歌った歌を歌う

体の何処かで 誰かが叫んでるんだ

長い夜の向こう側で この心ごと渡したいから 僕を全部、全部、全部透過して」


綾城がノってきている。ぼくはチラッと横を見た。裕太先輩も須波先輩も笑顔で演奏している。こんなの初めてだ。


「凛として君の心象は いつの日も透明だった 何の色も形も見えない

狂いそうだ 愛の歌も世界平和も 目に見えないなら透明なんだ そんなものはないのと同じだ

駅前の喧騒の中を叫んだ 歌だけがきっとまだ僕を映す手段だ あの日僕が忘れた夢を歌う

頭のどこかで本当はわかっていたんだ 長い夜の向こう側を この僕の眼は映さないから 君を全部、全部、全部淘汰して!!」


いつにもなく好調だ。緊張はどこかへ行ってしまった。この世界は僕たち四人だけで動いているみたいだ。僕ら以外みんな透明だ。綾城はマイクホルダーからマイクをとりさらにボルテージが上がった。綾城はこんなふうに歌うのか。裕太先輩も須波先輩もバンドの解像度が少しずつ上がっていく。どんなふうにどんな音を。じわじわと見えてくる。

 楽しい。今、この瞬間がこの演奏が楽しくてしょうがない。


「目が見えないんだ

想像だったんだ

君の色だとか 形だとか


目に見えぬ僕は謂わば準透明だ


今でもあの日を心が覚えているんだ

見えない君の歌だけで


体の何処かで言葉が叫んでるんだ

遠い夜の向こう側で

この心ごと渡したいから

僕を全部、全部、全部透過して!!」


演奏が終わり、雨の降りはじめのような拍手があっという間に嵐のような拍手へと変化した。その拍手を浴びながら僕は呆然としていると先輩が「ありがとうございました!」と締めくくりカーテンが閉まっていった。姿が完全に見えなくなるまで拍手は止まなかった。


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