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さよならを歌え  作者: 須景夜々


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6/7

 みんなで合わせて練習するようになり、最初はグダグダでもだんだんと様になってきた。そして気づいたことがある。綾城は歌が滅茶苦茶うまい。本来バンドのギターはリードギターとリズムギターで分けることが多い。そうしないと負担が大きく、ボーカルがギターならば尚更だ。なのに平然とできているのは一体どういうわけなのか。僕なら無理だ。そもそも歌も歌えないし二つのことを同時にするなんてこんがらがってしまう。後、声がいい。準透明少年に合っていて聴き心地がいい。普段声とは違う、芯があり力強い歌声。歌手としてもやっていけそうなほど。いや、ほんとに。

ただやっぱり難しいのか口癖のように「新入部員、特にギター弾ける人が入ってきてほしい」と言っている。ただ残念なことに、お互い友達が少ないので宣伝もできないし、聞く人もいない。


「私、過去にトラブルがあったって言ったけど、そのせいで異性と喋るの怖いんだよね」


綾城は以前こんなことを言っていた。「僕を異性としてみてないのか」という気持ちの悪いことを言うのを堪えて「そうなんだ」とだけ返した。僕は綾城のことを異性としてみていないわけではないし好きというわけでもない。下らない恋愛でバンドが崩壊なんてバカな真似をしたくないのだ。よく綾城は自分を卑下する。綾城の過去のトラブルというのはきっと異性関連だと僕は予想している。見た目というものは大きな武器になるがそれだけで決めつけられるということも多くなる。顔は性格の1番外側なんてよく言われるがあくまで一つの考えであって鵜呑みにしてはいけない。勝手に決めつけらたりすることも多かったんじゃないかと思う。そんなことないよと謙遜をしたこともあったかもしれない。ただ一人の謙遜など大多数のイメージで簡単に消されてしまうことを僕は知っている。


「後1週間でライブね〜、もう緊張してきたかも」

「良かった〜僕ボーカルじゃなくて」

「裕太先輩。次のライブは秋鹿の歌わせましょう。この余裕をぐちゃぐちゃにしたいです」

「いや〜僕って緊張しないからこの余裕は変わらないよ。生まれてこのかた緊張したことがない」

「なんでも飄々としてやる気がないだけじゃない?斜に構えてるというか」


鋭い言葉で言い返せなくなった。本気を出したことがないと言えば言い方が悪いがあまり本気で物事に取り組んだ覚えがない。ベースも熱心に始めたのは最近で今までは基礎しかしてこなかった。面白いが楽しくなかったのだ。何に対しても僕はやる気を見出せなかった。つまらない、退屈、意味がない、だからなんだ、そんなゴミみたいな思考が脳内を巡っていた人生。思春期特有のやつだと簡単に済ませれないほど深刻で友達はいなかった。あの頃の僕と関わっていた藤正の気がしれない。高校に入る前の春休みに藤正になぜ楽しくないのか聞いたことがある。藤正曰く一人でなんでもしようとするから楽しいわけがないと言われた。そうじゃないだろと思っていたが、最近そうじゃないかと納得している。というのも軽音部が楽しいからだ。誰かとする音楽は今までのどんなことよりも楽しい。やはり誰かとすることが鍵だったのだ。人とのコミュニケーションを避けてきたツケがこの事実として回ってきた。そのこともあり僕はこのライブに期待している。もしかしたら人生初、緊張できるかもしれない。斜に構えた自分にさよならができるかもしれない。


「、、、いや、そんなことないよ。特に最近は」

「わかってる。言いすぎた。ごめんなさい意地悪なこと言って」

「お取り込み中悪いが、もう7時だ。解散しろーー」


重くなりかけた空気を相模先生が消しとばしてしまった。最近は目のくまが消えてきていたがなんかやつれた気がする。噂ではマッチングアプリに手を出して度々爆散して酒を片手に街を彷徨(うろつ)いてるらしい。現代社会の男の苦難を煮詰めたような目にあっている。

 外はまだギリギリ明るかった。帰ろうとしてバックに荷物を詰めているとノートを教室に忘れていることに気づいた。走って教室に戻った時教室に電気がついていた。鍵は空いている。入ると誰かが勉強していた。僕が入った瞬間僕の方を向いた。


「こんな時間に珍しいね。部活終わり?」

「そう。ロッカーにノート忘れちゃって、取りに来た。」

「なるほどね」


いたのは一夜(いちや)(ゆめ)だった。こんな時間まで学校で勉強なんて勤勉なことだ。


「あ、秋鹿くんってさ軽音部?」

「そうだけど、、、」

「私、ライブ楽しみにしてるから!がんばってね!」

「あ、ありがとう。頑張るよ」


激励されてしまった。唐突すぎて変な返しになってしまったが一夜は満足そうににっこりして勉強を再開した。これは頑張らないといけないな。

 僕は一階の自販機でカフェラテを買いバス停へと向かった。バスまで30分。かなり時間があるのでイヤホンを耳につけ、ゆっくりと歩き始めた。

『幸せってなんかもどかしい〜馬鹿らしいくらいがちょうどいいんだって〜斜に構えては空っぽになっていた』

須田景凪さんのユーエンミーを聴きながら歩いていると足が軽くなっていく。スキップに変わっていきだんだんと気分が良くなってきた。次第に歌ってしまい気づけば駅に着いていた。

「すれ違いばっかのユーエンミー」

感想待ってます!

須田景凪さんのユーエンミーって歌、最高なのでよかったら是非聞いてください!

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― 新着の感想 ―
実際にある楽曲が登場するのが良いですね。楽曲を聴きながら読むことで、作品の雰囲気がより鮮明に伝わってきて、とても楽しめました。 綾城さんのクールな佇まいと、その奥に秘めた繊細で儚い一面が印象的で、すっ…
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