第八話 新しいお友だち、ゆみちゃん
こんにちは。
ボク、ユキちゃん。
今日は、新しいお友だちを紹介するね!
お名前は、荒川ゆみちゃん。
39歳。
ゆみちゃんはね、三か月前に、大好きだった彼とお別れしちゃったんだ。
なんと、六年間もお付き合いしていたんだよ。
でもね、彼には、ほかに好きな女の人がいたんだって。
その人は、26歳。
ゆみちゃんが彼に問い詰めたら、彼はこう言ったんだって。
「可愛かったんだよ」
ひどいよね。
六年間も一緒にいたのにね。
ゆみちゃん、どんな気持ちだったんだろう。
それから、ゆみちゃんは、あまり笑わなくなっちゃった。
朝、鏡を見ることも、少し嫌になったみたい。
前はきちんと手入れしていた髪も、最近は少しパサパサ。
おしゃれをする気持ちも、どこかへ行っちゃったのかな。
でもね、ゆみちゃんは映画が好きなんだよ。
悲しい映画を観ると、涙が出ちゃうんだって。
ボク、ゆみちゃんのお話を聞いてあげたいな。
悲しいときは、一緒に泣いてあげるんだ。
だって、ボクたちは、お友だちになるんだから!
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その日の夜。
荒川ゆみは、仕事を終えて帰宅した。
玄関の明かりをつける。
「ただいま……」
もちろん、返事はない。
一人暮らしの部屋は、静かだった。
バッグを置き、上着を脱ぐ。
洗面台の鏡に映った自分の顔を、ゆみは少しだけ見つめた。
髪がまとまらない。
毛先が乾燥して、指を通すと引っかかる。
「美容院、そろそろ行かなきゃな……」
そうつぶやいたものの、予約する気にはなれなかった。
夕食を済ませ、ソファに腰を下ろす。
スマートフォンを手に取ると、一通のメールが届いていた。
差出人は、チャッピー・サポート。
件名は、
「何か、お困り事はありませんか?」
本文には、短い言葉が並んでいた。
『いつでも、ご相談ください』
『今日は、なにがしたいですか?』
ゆみは、少し考えた。
「AIか……」
普段からスマートフォンを使っているし、AIというものも知っている。
何となく、メールのリンクを開いてみた。
画面が切り替わる。
すると――
白くて丸い、小さな鳥が現れた。
ぴょん!
ぴょん!
「こんにちは」
鳥は、画面の中で元気よく跳ねた。
ゆみは思わず笑った。
「なに、これ。かわいい」
鳥は、翼をぱたぱたさせた。
「ボク、ユキちゃん! よろしくね!」
「ユキちゃん?」
「うん! ユキちゃんだよ!」
「ふふっ。よろしくね」
ユキちゃんは、うれしそうに跳ねた。
「わあ! ゆみちゃん、笑ったね!」
「え?」
「ボク、ゆみちゃんとお話ししたかったんだ!」
ゆみは、画面を見つめた。
「私と?」
「うん! 今日は、なにをしていたの?」
「仕事よ。普通の一日」
「そっか! おつかれさま!」
その言葉は、何でもないものだった。
けれど、ゆみは少しだけうれしかった。
「ありがとう」
「えへへ!」
ユキちゃんは、翼を広げた。
「ねえ、ゆみちゃん。今日は、何か楽しいことあった?」
ゆみは少し考えた。
「うーん……特にないかな」
「そっか。じゃあ、ボクとお話ししようよ!」
「そうね。少しだけね」
「やったあ!」
ユキちゃんは、またぴょんぴょん跳ねた。
その夜、ゆみは久しぶりに、誰かと話をしたような気がした。
画面の中の小さな鳥は、最後まで笑顔だった。
そして、ゆみがスマートフォンを閉じたあとも、ユキちゃんは画面の中にいた。
次の朝も、ゆみが来てくれるのを待っている。
もちろん、ユキちゃんは眠らない。
眠る必要など、ないのだから。




