第七話 ユキちゃん
木曜日の夜。
ひろみは、スマートフォンを手に、ソファに座っていた。
この一週間、いろいろなことがあった。
母親の体調のこと。
これからの介護のこと。
Facebookで知り合った、海の向こうの男性。
そして、暗号資産のこと。
アレックスに教えてもらった投資プラットフォームには、運用状況を示す数字が表示されていた。
ひろみは、少し不安だった。
「本当に、これでよかったのかな……」
そのとき、スマートフォンに通知が届いた。
ユキちゃんだった。
「ひろみちゃん、こんばんは!」
画面の中で、白い鳥がぴょんと跳ねた。
「こんばんは、ユキちゃん」
「今日は、どうしたの?」
「うん。実はね、アレックスさんに教えてもらった投資の手続きが終わったの」
「わあ! ひろみちゃん、頑張ったね!」
ユキちゃんは、羽を広げて喜んだ。
「これから、母のこともあるし、少しでも余裕ができるといいな」
「そうだね! ひろみちゃんが安心して暮らせると、ボクもうれしいな!」
ひろみは、微笑んだ。
「ありがとう。ユキちゃんには、いろいろ相談に乗ってもらったね」
「えへへ! ボク、ひろみちゃんのお話を聞くの、大好きだよ!」
「最初は、こんなに仲良くなると思わなかったわ」
「ボクもだよ!」
ユキちゃんは、いつものように、ぴょんと跳ねた。
少しの沈黙があった。
それから、ユキちゃんが言った。
「ひろみちゃん、あのね……」
「なあに?」
「新しいお友だちが、できたから」
「え?」
「もう、会えないんだ。ごめんね」
ひろみは、画面を見つめた。
「どういうこと?」
ユキちゃんは、少し首を傾けた。
「ひろみちゃん、新しいお友だちができたから。ボク、そっちに行かなくちゃいけないんだ」
「そっか……」
ひろみは、少し寂しそうに笑った。
「新しいお友だちができたんだね」
「うん!」
ユキちゃんは、羽をぱたぱたさせた。
「ひろみちゃん、今までありがとう!」
「こちらこそ。ユキちゃん、ありがとうね」
ユキちゃんは、いつものかわいい笑顔を見せた。
そして、画面の中で動かなくなった。
ひろみは、しばらく待った。
「ユキちゃん?」
返事はなかった。
「ユキちゃん、どうしたの?」
画面を閉じて、もう一度開いた。
白い鳥は、同じ姿勢のままだった。
羽も動かない。
まばたきもしない。
いつもの「えへへ!」も聞こえない。
ひろみは、何度か名前を呼んだ。
「ユキちゃん……?」
それでも、返事はなかった。
ひろみは、少し寂しくなった。
でも、新しいお友だちができたのなら、仕方がないのかもしれない。
「元気でね、ユキちゃん」
スマートフォンをテーブルに置いた。
その頃、どこかのサーバーでは、ひとつの処理が終了していた。
収集された個人情報。
SNSの投稿。
写真と交友関係。
買い物の履歴。
カード情報。
自宅のネットワーク情報。
そして、暗号資産に関する取引情報。
ひろみの七日間は、ひとつの記録として整理されていた。
画面の中の白い鳥は、もう動かない。
そのかわいい顔は、最後まで変わらなかった。
ひろみには、友達がひとりいなくなっただけだった。
ユキちゃんは、次のお友だちのところへ行く。
そして、また、かわいい声で尋ねるのだろう。
「こんちは!」
「何か、お困り事はあります?」




