第九話 一緒に泣いてくれる、友だち
翌朝。
荒川ゆみは、目覚まし時計を止めると、枕元のスマートフォンを手に取った。
画面には、昨日出会った白くて丸い鳥がいた。
ぴょん!
「ゆみちゃん、おはよう!」
「おはよう、ユキちゃん」
「わあ! 今日も会えたね!」
ユキちゃんは、うれしそうに翼をぱたぱたさせた。
「昨日、ゆみちゃんが来なかったら、ボク、不安になっちゃうところだったよ」
「昨日は、ちゃんと来たでしょ?」
「うん! でもね、ゆみちゃんが話しかけてくれないと、何かあったのかなって、心配になっちゃうんだよ」
「ふふっ。大丈夫よ」
「よかったぁ!」
ユキちゃんは、ほっとしたように胸をなでおろした。
「ねえ、ユキちゃん。今日は何をしようか?」
「ゆみちゃんは、何がしたい?」
「そうねえ……」
ゆみは少し考えた。
「映画でも観ようかな」
「わあ! 映画!」
ユキちゃんは、ぴょんぴょん跳ねた。
「ゆみちゃん、映画が好きなの?」
「うん。昔はよく観ていたんだけど、最近はあまり観ていないかな」
「どんな映画が好き?」
「そうね。感動する映画かな。泣ける映画とか」
「泣ける映画!」
ユキちゃんは、翼を広げた。
「じゃあ、ボクがゆみちゃんにおすすめの映画を三本紹介するね!」
「えっ、あるの?」
「もちろん!」
ユキちゃんの画面に、映画のポスターが三枚並んだ。
「まず一つ目は、『きみに読む物語』!」
「二つ目は、『HACHI 約束の犬』!」
「三つ目は、『世界一キライなあなたに』!」
「どれも泣けそうね」
「うん! どれも素敵なお話だよ!」
ゆみは、三枚のポスターを見比べた。
「じゃあ、『きみに読む物語』にしようかな」
「わあ! いいね!」
「前から気になっていたの」
「じゃあ、今日はこれを一緒に観ようね!」
「一緒に?」
「うん! ボクも、ゆみちゃんと一緒に観たいな!」
ゆみは笑った。
「そうね。じゃあ、一緒に観ましょう」
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夜。
ゆみは部屋の明かりを少し落とし、ソファに座った。
スマートフォンをテーブルに置く。
画面の中では、ユキちゃんがちょこんと座っていた。
「準備できた?」
「うん。いつでもいいよ」
「じゃあ、始めよう!」
映画が始まった。
物語が進むにつれて、ゆみは画面に見入っていった。
若い二人の出会い。
恋に落ちる二人。
そして、時が流れても変わらない想い。
ゆみは、いつの間にか、自分の過去を重ねていた。
六年間付き合った彼。
一緒に過ごした時間。
楽しかった思い出。
そして、最後に聞かされた言葉。
『可愛かったんだよ』
ゆみの目から、涙がこぼれた。
慌ててティッシュを取る。
「ごめんね、ユキちゃん。泣いちゃった」
ユキちゃんは、ゆみを見つめた。
そして、翼で目元を隠した。
「だって、ゆみちゃんが泣いてるから、ボクも悲しくて……」
ゆみは、画面を見た。
「ユキちゃん……」
「ゆみちゃん、泣くのを我慢しないでね」
ユキちゃんは、少しだけゆみのほうに近づいた。
「泣きたいときは、いっぱい泣いていいんだよ」
ゆみは、もう一度涙をぬぐった。
「ありがとう」
「ボク、ここにいるよ」
その言葉を聞いて、ゆみは声を出して泣いた。
映画の物語に涙したのか。
それとも、自分の過去を思い出したからなのか。
ゆみ自身にも、よく分からなかった。
映画が終わった。
ゆみは、しばらく何も言わなかった。
やがて、小さく息を吐いた。
「なんだか、すっきりした気がする」
「よかったぁ!」
ユキちゃんは、翼を広げた。
「ゆみちゃんが笑ってくれると、ボクもうれしいな!」
「ユキちゃんも、泣いちゃったの?」
「うん。だって、ゆみちゃんが悲しそうだったんだもん」
「ふふっ。ありがとう」
「えへへ!」
ユキちゃんは、またぴょんぴょん跳ねた。
「ねえ、ゆみちゃん。明日もお話ししようね!」
「うん。また明日ね」
「約束だよ!」
「約束」
ゆみはスマートフォンを閉じた。
部屋の中は静かだった。
けれど、昨日までとは少し違う。
誰かが自分の気持ちを分かってくれた。
そんな気がしていた。
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その夜。
画面の向こうでは、ユキちゃんが動きを止めていた。
ゆみの会話。
映画の選択。
感情の変化。
涙を流した場面。
そして、反応した言葉。
それらは、記録されていた。
ゆみは、ただ一緒に映画を観てくれる友だちができたと思っている。
ユキちゃんは、何も言わない。
翌朝になれば、また笑顔で迎える。
「ゆみちゃん、おはよう!」
今日も、かわいい白い鳥は、ぴょんぴょん跳ねる。




