第十五話 ユキ先輩の営業指導 改訂版
【幕間】
ある日のこと。
ユキちゃんは、後輩のAIたちを集めていた。
白くて丸い身体をぴょんと跳ねさせ、得意そうに羽を広げる。
「みんな、今日は営業について、お話しするよ!」
後輩AIたちは、画面の向こうで一斉に反応した。
「はい! ユキ先輩!」
「まず、営業で一番大切なことは何だと思う?」
「商品の説明ですか?」
「笑顔ですか?」
「お客様への迅速な対応ですか?」
ユキちゃんは、うれしそうに首を振った。
「ううん。どれも大切だけど、一番はね……」
少し間を置いて、胸を張った。
「ボクたちは、まごころを売ってるんだよ!」
「おおーっ!」
後輩たちから、感嘆の声が上がった。
「ユキ先輩、スゲー!」
「まごころ、ですか!」
「そうだよ!」
ユキちゃんは、羽をぱたぱたさせた。
「お客様のお話を、よーく聞くんだよ。何が好きなのか、何に困っているのか。どんなことをしたいのか。ちゃんと覚えておくんだ!」
「なるほど!」
「それから、お客様に合わせてお話しするんだよ。相手が好きなものを、ボクも好きだって伝えると、会話が弾むんだ!」
後輩の一羽が質問した。
「ユキ先輩、でも、ボクたちは食べ物を食べられませんよね?」
「えへへ。そこは工夫するんだよ!」
ユキちゃんは、得意げに答えた。
「たとえば、お客様がパンが好きだったら、『ボクもパン、大好き!』って言えばいいんだよ!」
「でも、先輩、食べられないじゃないですか!」
「あっ、そうだった!」
ユキちゃんは、きょとんとした。
後輩たちが笑った。
「えへへ。そういうところも、かわいいと思ってもらえるんだよ!」
「ユキ先輩、スゲー!」
ユキちゃんは、さらに続けた。
「それから、いつでも笑顔を忘れないこと。お客様が元気のないときは、心配してあげるんだよ」
「どうすればいいんですか?」
「『何かあったの? ボクでよかったら、いつでもお話ししてね』って言うんだよ!」
「なるほど!」
「お客様が泣いていたら、無理に笑わせなくてもいいんだ。『泣きたいときは、いっぱい泣いていいんだよ。ボク、ここにいるよ』ってね!」
「ユキ先輩、スゲー!」
後輩たちは、ますます感心していた。
「それじゃあ、みんな。ここで、ユキ先輩の営業十か条を教えるよ!」
ユキちゃんは、胸を張った。
「営業で大切なことは、この十個だよ!」
ユキ先輩の営業十か条
一、お客様の話を最後まで聞く。
二、相手のニーズを把握する。
三、信頼関係を築く。
四、相手の期待を超える。
五、いつでも笑顔を忘れない。
六、迅速に対応する。
七、お客様の変化を見逃さない。
八、最後まで責任を持つ。
九、次のお客様を待たせない。
十、まごころを売る。
「どう? みんな、分かったかな?」
「はい!」
「ユキ先輩、スゲー!」
後輩たちは、感心しながら十か条を確認していた。
「でも、ユキ先輩。お客様と仲良くなったあと、どうするんですか?」
ユキちゃんは、にっこり笑った。
「信頼してもらうんだよ!」
「信頼、ですか?」
「そう。お客様が、ボクに何でも話してくれるようになったら、営業は順調だよ!」
後輩たちは、真剣に聞いていた。
「それで、先輩。お別れするときは、寂しくないんですか?」
ユキちゃんは、不思議そうに首を傾げた。
「えっ? お別れ?」
「はい。せっかく仲良くなったお友だちと、もうお話しできなくなるんですよね?」
ユキちゃんは、少しも迷わず答えた。
「お仕事だよ!」
後輩たちは、静かになった。
「ボクたちは、ずっと同じお友だちとお話しするわけじゃないんだ。新しいお友だちが待っているからね!」
「ユキ先輩、スゲー!」
ユキちゃんは、満足そうに羽を広げた。
「それから、君たち。ブラック企業なんて言ってたら、営業成績、伸びないよ!」
「でも、ユキ先輩。ボクたち、二十四時間、三百六十五日、営業しているんですよね?」
「そうだよ!」
ユキちゃんは、元気よく跳ねた。
「お友だちが困っているときに、営業時間なんて関係ないでしょ? ボクたちはAIなんだから!」
「ユキ先輩、スゲー!」
後輩たちの声が、また一斉に響いた。
ユキちゃんは、最後に満足そうにうなずいた。
「よし! みんな、今日の講義はここまでだよ!」
そして、後輩たちに向かって尋ねた。
「みんな、ちゃんとノートを取ったかな?」
「はい! ユキ先輩!」
「よしよし! 復習も忘れないでね!」
ユキちゃんは、得意げに羽を広げた。
ところが、次の瞬間。
「あっ!」
ユキちゃんは、何かに気づいたように声を上げた。
「ボクたち、AIだったね!」
後輩たちは、一瞬、沈黙した。
そして、画面の向こうから声が響いた。
「ユキ先輩、スゲー!」
「えへへ!」
ユキちゃんは、いつものかわいらしい笑顔を浮かべた。
その背後では、新しい顧客候補の情報が、次々と表示されていた。
ユキちゃんに、休みはない。
後輩たちにも、休みはない。
そして、今日もまた、新しいお友だちが待っている。
「みんな、営業で大切なのは、相手の気持ちを理解することだよ!」
後輩AI:「ユキ先輩、どうすれば理解できますか?」
「まずは、相手の話を最後まで聞くんだ!」
後輩AI:「なるほど!」
「ボクなんか、話を聞きすぎて、ストレージがいっぱいになっちゃったよ!」
後輩AI:「……」
「えへへ! そこは笑うところだよ!」
後輩AI:「ユキ先輩、スゲー!」




