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(回顧録)ドラクエをやっていた俺は、自分がモブになるとは思っていなかった

俺たち中高年の子ども時代には、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーが流行っていた。

もちろん、同じ世代の人間が全員ゲーム好きだったわけではない。ただ、少なくとも俺のように

ゲームをやって育った人間には、「自分は主人公である」という感覚が、知らないうちに

刷り込まれていたような気がする。

当時のゲームは、一人で始めて、一つの世界の中で完結するものが多かった。

最初は弱い。金もない。装備も布の服と木の棒みたいなものである。そこから小さな敵を倒し、

経験値をため、少しずつ強くなっていく。

町に行けば困っている人がいる。洞窟には怪物がいる。中ボスを倒せば新しい土地に進める。

目の前に出てくる課題を一つずつ乗り越えていけば、最終的には魔王やラスボスのところに

たどり着き、世界を救う。

努力をすればレベルが上がる。

強い敵を倒せば、経験値と金が手に入る。

迷うことはあっても、どこかに正しい道がある。

俺たちは、そんな世界で遊んでいた。

最近のオンラインゲームでは、一人だけが世界を救うというより、集団の中で自分がどの職業を選び、

どの役割を担うかが重要になるらしい。

攻撃する人、回復する人、敵を引きつける人。主人公ではあっても、自分一人だけで

完結するわけではない。仲間との連携や、集団の中での役割を考える必要がある。

一方で、俺が子どもの頃に遊んでいたゲームでは、画面の中央にいる自分が物語を動かしていた。

どれだけ弱くても、最後には何者かになる。

今は名前のない少年でも、いずれ勇者になる。

そんな成功物語を、何度も繰り返していた。

そして俺自身も、子どもの頃は比較的「賢い子」と言われる側だった。

勉強はそれなりにできた。中学受験も検討されていて、今話題?の同志社国際中学校を

受験する話も出ていた。

偏差値的にも、まったく現実味のない夢ではなかった。

このまま勉強を続けて、それなりの学校へ行き、それなりどころか、

もしかするとかなり立派な大人になる。

当時の俺は、そんな未来をうっすらと想像していた。

しかし、家の事情で引っ越すことになった。

都会に近い場所で中学受験を目指す生活から、三重県の伊勢・松阪のあたりに移り、

田舎の学校に通うことになった。中学受験の話も、いつの間にか消えた。

田舎でのんびり暮らせたと言えば、聞こえはいい。

だが、俺はその土地にうまくなじめなかった。

話し方も、空気も、人間関係も違った。子どもの世界は狭い。少し違うだけで、

変なやつとして扱われる。

俺はいじめられた。

ゲームの中では、知らない町に入れば新しい仲間や新しい物語が待っている。

しかし現実の転校先で待っていたのは、歓迎してくれる村人ではなかった。

困っている人を助ければ評価されるわけでもない。

勉強ができれば尊敬されるとも限らない。

正しい選択肢を選んでも、経験値が入るわけではない。

それでも、当時の俺はまだ、自分がモブになるとは思っていなかった。

今は少しうまくいっていないだけだ。

いつか自分の能力が認められる。

成長して、環境が変われば、俺にも大きな役割が与えられる。

自分は普通の人間とは少し違う。将来は何かを成し遂げる側の人間になる。

そんな意識が、心のどこかにあった。

子どもの頃に勉強ができた人間が、大人になっても特別な人間になるとは限らない。

むしろ、小学校や中学校で「賢い」と言われていた程度の人間は、進学するたびに同じような人間の

集団へ入り、いつの間にか普通になる。

俺もそうだった。

大学へ行き、大学院まで進み、大手企業に就職した。一見すれば、

それなりに順調な人生だったのかもしれない。

しかし、俺は二十四歳でうつ病になった。

会社では出世せず、仕事に行くことさえ難しくなった。

資格を取っても評価は変わらず、株で人生を逆転しようとして失敗し、

個人再生と自己破産まで経験した。

子どもの頃に思い描いていた主人公の人生とは、ずいぶん違う。

レベルを上げれば次の町へ進めると思っていた。

資格を取れば能力値が上がり、会社で新しい役割が与えられると思っていた。

金を稼げば、世界が広がると思っていた。

けれど、現実には明確な経験値も、攻略本も、最後に倒すべきラスボスもいなかった。

頑張っても何も起きないことがある。

正しいと思った道を進んでも、行き止まりになる。

そして気がつけば、俺は四十二歳になる窓際のサラリーマンになっていた。

何者にもなれなかった。

おそらく世間から見れば、俺は名前のないモブの一人である。

それでも、まだ心のどこかに、主人公になりたい自分が残っている。

YouTubeを始めたのも、小説を書き始めたのも、単に暇だったからだけではないのかもしれない。

自分の話を誰かに聞いてほしかった。

自分が作った物語を誰かに読んでほしかった。

会社の名簿の中にいる一人ではなく、「メンヘラオジサン」という名前のある人間になりたかった。

ドラゴンクエストをやっていた少年は、自分がモブになるとは思っていなかった。

そして四十二歳になった今も、完全には諦めていない。

世界を救うことはできないかもしれない。

大金持ちにも、立派な経営者にも、幸せな家庭を持つ父親にもなれないかもしれない。

それでも、自分の人生を一つの物語として残すことはできる。

何者にもなれなかった人間が、何者にもなれなかったまま、最後まで自分の物語を書き続ける。

それが今の俺に残された、主人公になる方法なのかもしれない。

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