〈第二話〉 楽しい楽しい しぇあはうすの「みんな」
「おお。頭 冷えたか?」
最後の段から足を降ろすと、
片手にフライパンを持っていたふぶきくんがキッチンに立ちながら待っていた。
さっきのことがなかったかのように、優しそうな瞳を向けている。
おそらく料理中なんだろう。
「ま、まあ。一応。」
私は愛想笑いをして、その場を適当にごまかした。
当たり前だが、頭なんて全然冷えてない。
なんなら、考えまくったせいで尚更 頭がこんがらがっている。
だって、気づいたら知らないとこにいて、閉じ込められて。
正気でいられるほうが異常だ。
しかし、それを聞いたふぶきくんは「それなら、いいが。」と言い残し、そのまま料理に戻ってしまった。
よかったぁ…
上手く誤魔化せられたみたい。
私は一人 ほっ と安堵の息をついた。
しかし、そのあとすぐに、
「あぁそうだ。」
と呟いて、なにかを思い出したようにふぶきくんが手を止めた。
何事だろうと思っていると、彼は左手で私の左方向を指さした。
「あめなら、あっちでお前のことを待ってるぞ。みんなもいるし、いってきな。」
「えっ、あっ、えっと、了解です……!」
「あと、敬語なしな。同い年の家族だろ。」
「……はぁ。」
私はふぶきくんに言われて、そのまま「みんな」がいる方向へと向かった。
一階は私のいた二階と比べて明るく、開放的なものだった。
っていうよりかは、開放的に見えただけかもしれない。
恐らく、二階の窓の少なさと壁の圧迫感のせいだろう。
「あ〜!しおねえ、やっほ〜!!」
ぼーっと歩いていたら、後ろから可愛らしい声が聞こえた。
振り返ると、そこには知らない少女が私に駆け寄ってきた。
おそらく、「みんな」の一人だろう。
「……えっと、あなたは?」
「ん?ああ。ボクはね、キュートでプリティな天才少年のかなた!よっろぴく~!!」
そういって、かなたくんはピースを片手にポーズをとった。
壁に反射する光で輝く白髪がさらりと揺れる。
「天才で、スマートで、しかも頭がいいんだよ〜!すごいでしょ!!」
「言い方変えてるだけで、全部同じことじゃあ……」
「はい、そこ〜!細かいこと、言わな〜い!」
ピシッと人差し指を指され、私は口を紡いだ。
それを見て、かなたくんは満足したようにうなずいた。
「というか、その見た目で男の子なんだね……」
「へぇ…よくボクの性別に気がついたねぇ……」
「いや、さっき自分から言ってたよね?」
しかし、さっき言った通り、かなたくんの見た目は可愛い系の女の子そのものだ。
サラサラな白髪をハーフアップにし、服装は恐らくロリータと呼ばれるものだろう。
白黒でデザインもシンプルだが、両目の赤のせいでどこか吸血鬼らしい。
「まっ 僕って可愛いし、そんなのどうでもいいもんね☆」
「な、なるほど……?」
首を傾げながらも、どこか腑に落ちるような落ちないような。
うーん?
一人悩んでいると、かなたくんが手をパンっと叩き、にっこりと笑いかけてきた。
「とゆ〜か、今日しおねえの顔ひどいね〜笑。なんか眉毛がへ~ん♪」
「急なディスり......!しかも、また眉毛!?」
「あとあと、なんか汚いよ〜?泥水に浮かんでるミジンコ並みだよ~ん!」
「悪口の言い回しが独特すぎない……?」
微妙なディスりに戸惑う私をよそに、かなたくんはただ無邪気に笑う。
その対応にどこか懐かしさを感じた。
「……で、どう思った~??」
「まぁ、ちょっと悲しいなぁってくらい……」
「ふ~ん。」
また、急な質問だなぁ。
と、思いながら私が答えると、かなたくんが一瞬どこか諦めたように瞳を揺らした。
聞く間もなく、かなたくんはぷいっと逆方向を向いた。
そして、そのまま私が来た道に足を進めようとする。
「えっ、ど、どこ行くの!?」
「う~ん?なんかね、思ってた反応じゃなかったし、飽きちゃった!!」
「え、ええ?」
そういって、かなたくんはどっかへ行ってしまった。
一人置いてけぼりになった私は、とりあえず、他のみんなのとこへと足を動かした。
にしても、今んとこ全員変な人ばっかだなぁ。
他の住人さんは、せめて話が通じる人が……
「あっ!しおりーん!!」
ふと、可愛い声が私の前から聞こえた。
あめちゃんだ。
彼女はソファに腰掛けて、元気よく私に手を振ってきた。
17歳にしては小さな可愛らしい手につられて、私も手を振り返してしまった。
「もう、しおりんったら遅かったねー!」
「え、えへへ。ちょっと疲れちゃってて……」
「ほんと、ダサいね。」
私が恥ずかしそうに頭をかいていたら、あめちゃんの横から少年が言った。
よれよれのTシャツに、青のインナーカラー付きの黒髪。
見える腕は、あめちゃんと比べてどこか細かった。
「また、記憶喪失になっちゃったね?やっぱダサいんだね。」
フフッと笑い、ショートカットの黒髪が静かに揺れ、透明な瞳が私を貶すように見つめる。
というか、さっきからなんで私は貶されてばっかりなんだろう。
「……言い過ぎたよ こう。」
そういって青髪の少年を、横に座っていた彼と瓜二つの少女が止めた。
顔立ちも体型もまったく同じで、唯一違ったのは恐らく髪と瞳の色だろう。
少年が青なのに対し、少女は黄緑の瞳を不気味にテカらせた。
え~と、それで、この子達は……確か…………
「この二人なら、ひらりんとこうだよー!仲良し小好しの双子ちゃん!!」
「あぁ!だから、鏡合わせみたいなんだ…!」
あめちゃんの説明にひらりちゃんとこうくんもどこか嬉しそうに鼻をならした。
彼女の言う通り、相当仲がいいんだと思う。
動きが全く一緒だもん。
「それよりも、今日の夜ごはんなんだろうねー!」
「ころっけはやなんだね。」
「……そうだね。」
わいわいと三人、というよりかはあめちゃんが話し始める。
それをよそに、私は指を親指から順番におる。
あめちゃん、ふぶきくん、かなたくん、こうくん、ひらりちゃん。
それに私を含めて合計六人。
あれ……?
一人足りない………
そんなことを思っていたら、目の前のドアがゆっくりと動いた。
ガチャっ
「帰ってきたぞ。」
そういって、入ってきたのは眼鏡をかけた青年だった。
くすんだ紫色の髪に、真っ黒な瞳。
手にかけていたカバンには、びっしりと紙が敷き詰められている。
「あ、あおにいだ!おかえりー!!」
「おかえりなんだね。」
「……おかえり…なさい。」
ソファに座っていたメンツが次々と挨拶する。
それを適当にあしらい、青年はソファの後ろにあるダイニングテーブルに腰かけた。
「おっきゃえりん〜!」
いつの間にか戻ってきたかなたくんが、笑顔とともに青年に抱きつく。
それに合わせてか、ぴょこっ とふぶきくんもキッチンの隙間から頭をのぞかせた。
「おぉ。てめぇか。おかえり。」
「ん。 それよりも、晩飯できたか?」
「少しぐらい待てやボケェ!こちとら、色々と大変だったんだよ!!!!」
「全く。騒がしいやつだな。」
「つーか、手洗ってねえだろ!!洗ってから、小言は言え!!!!」
ふぶきくんの圧に押されたのか、あおさんが席を立ち、洗面所へと向かった。
ようやく静かになった…と思ったのも束の間、かなたくんが腕をぶんぶん振り回しながら大声で訴えてきた。
「あ~!ボクもおなかすいたな~!!」
「てめぇも黙れ!!ハンバーグ詰めんぞゴラァ!!!」
「詰めるなら、愛を詰めて〜!!きゅるる〜ん♡って感じで!!」
「残念ながら、そういうサビースはしてねぇんだよ!!!!」
「それなら、俺は愛抜きで。」
「お前のは、憎悪をエクストラーにしといてやるわ!!」
そう叫びながらふぶきくんがフライパンに乗っているハンバーグをひっくり返す。
もはやカオスと化したキッチンを遠目に、私は横にいたあめちゃんの肩を そっ と叩いた。
「ねえ、あおさんって、お外に出られるの?」
「そ、そうだねぇ…………」
さっきまでの元気さとは間逆に、あめちゃんが言葉を詰まらせる。
なにか知ってるんだろうか。それとも……
「そ、その……良ければ、『教えて』くれる?」
「……あめにいは出れるよ。」
あめちゃんがボソッと呟く。
そっか。やっぱり出れるんだ。
まるで閉め切った部屋に光がさし入ったように感じた。
ここから抜け出せるかもしれない。
そう思うと、胸が躍る。
お家に帰れるかもしれないんだ…!!
「ねぇ、しおりん……出られるなんて安易に思わないでね?」
急に向けられた冷たい言葉に、背筋が一瞬でぞっとした。
あめちゃんは本当に直感が鋭いみたい。
でも、ここで転ぶわけにはいかない。
私はできる限りの作り笑いに、落ち着いた声色でいった。
「わかってるよ。大丈夫。」
そんなわけ、全く無いのに




