〈第一話〉 今度こそは……!
「大好きだよ。」
静かな部屋でまた二人。
優しく微笑みながら、君は力のこもらない手を握ってくれた。
温かい日差しが二人を照らし、まるでここだけ時が止まってしまったみたいだった。
ああ。
きっと今なら、とっても素敵な夢が見れそう。
ほかのみんなも、素敵な夢を見たかなぁ。そうだといいなぁ。
遠のく意識の中、君の頬をつたる涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。
「こんなことになっちゃって、ごめんね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はっっ!?」
「こ、ここは……?」
目を見開くと、そこは見知らぬ部屋だった。
小さな四角形の部屋。
茶色の棚。それに勉強机。床にはたくさんの小説。
加えて、可愛らしいピンク一面の壁が吐き気を催す。
なにこれ…?私、こんな部屋知らない……
どーーーーーん!!!
「あー!しおりん、起きたーー!!!」
そういって、大きな音とともに 緑髪の少女が部屋へと突入してきた。
ぽんぽんがついた黄緑のツインテールに、鮮やかなオレンジの瞳。
服装はオーバーオールで、骨格のせいかどこか幼く見える。
「もー、しおりん心配したんだよ!また倒れちゃってさー!!」
「えっ、その、えっと、ええ?」
少女は当たり前のように、私の手を握り、ぎゅーっと抱きしめてきた。
な、なに、この距離感……!?!?
初対面なのに、どういうこと!?というか、この人って誰!?!?
ぐるぐる困惑しながらも、私は少女の勢いに負けて抱きしめられていた。
そんなハグで少しの時間が過ぎていく。
しかし、少しすると少女がなにかに気づいたように両手をぱっと離した。
「しおりんさぁ、また忘れた なんて言わないよね?」
急な一言。
少女はさっきと変わらない笑顔で私にいった。
その一言に小さな汗が額を通った。
笑ってるのに。
ちゃんと笑ってるのに、目が笑ってない。
「そうだよね?しおりん。」
「えっいや、えっと、あ……」
「しおりん??」
ど、どど、どど、どうしよう……
私もしかして殺されちゃう!?!?
私は少女の無言の圧にやられ、全身が固まってしまった。
そ、そもそも、この人はだれなの?
なんで、人の部屋にいるの??
というか、ここってどこなの???
「ほら、早く答えてね?ほら。ほら。」
甘ったるいピンクの部屋、追い詰めてくる少女。
光を遮るカーテンが、私を閉じ込めてるようにみえる。
違う。
違う。
こんなの、私知らない。
こんなの、私の居場所じゃない。
こんなの、私の記憶と違う。
なんでこんなことになっちゃったの?
私って、なにしてたんだっけ?
記憶の片隅をすべて絞り出すように、頭をフル回転させた。
そうだ。
私、
私、私……
「私、お家に帰らなきゃ……」
あ。
あわわわわ………!
口が滑っちゃったあああ…………!!
私は、慌てて口を両手で覆った。肩、いや全身が小刻みに揺れる。
恐る恐る少女の方を見上げると、真顔でただまっすぐに私の瞳を見つめてきた。
「……そっか。そうだよね!やっぱそうだよねー!!」
「いや、こ、これには理由が!!!」
「しおりん、ちょっと困惑してるだけなんだよね!!」
「えっ?」
部屋の外からの光が扉から入り、少女の背中を優しく照らす。
でも、私から見ると顔は影で覆われ、まるで太陽を遮られているみたいだ。
少女はゆっくりと口角をあげ、目を細めて笑いかけてきた。
「だって、ここがしおりんの「家」だよ?」
その一言に固まった。
顔も名前も知らないのに、勝手に名前で呼ばれて、勝手にこんなとこを家だと言い張って。
そっか。
この人は、きっと誘拐犯なんだ。
拳を握りしめて、私は少女を睨んだ。
しかし、少女はそんなこと構わずに私の頭をぽんぽんっと軽く叩いた。
さっきみたく無邪気な笑顔が、一周回って背筋を凍らす。
「あめたちは敵じゃないからね。大丈夫。大丈夫。安心してね。」
少女がなにかをいいかけたときだった。
どんっ!!!
なにかが少女の頭に勢いよくぶつかった。
ふへー。っと、間抜けな声を出しながら少女は倒れ込み、私の膝に乗っかってきた。
「馬鹿!病み上がりのやつを詰め寄るんじゃねえ!!」
そんな少女の後ろにいたのは、またもや見知らぬ少年だった。
ライトに照らされて輝く金髪に、狐の耳がついたキャップとそれに合う黒いパーカー。
ツリ目で、優しさで溢れたような黄金の瞳がとても綺麗だった。
「詰め寄るー?あめ、そんなこと知らなーい!」
「しらばっくれるな!!」
ぱん!
と、今度は軽い音が部屋に響いた。
少年は手に持っていた紙製の扇子を手に持ち、ため息をついた。
「ったく、こいつはいつも……お前、怪我とかしてないか?」
「えっ、い、いや、大丈夫ですよ……!」
「それなら良かった。」
少年が無害に見えて、私はほっと胸を撫で下ろした。
それでも、手は震え続けていた。
早く帰らなきゃいけないのに……
「……どうしたんだ?」
「え?」
「え?じゃなくて、自分の顔みてないのか?眉がすっげー形になってんぞ。」
そういって、少年が部屋にあった手鏡を渡してきた。
彼のいうままに私は自分の顔を見つめる。
角みたいなくせ毛が跳ねた黒髪。
普通の顔立ち。でも、瞳だけは違った。
ピンクとシアンのオッドアイ。
中々みない珍しいものだなぁと、自分でも驚いた。
「ほらな。ひどい眉だろ。」
と言われたが、まったく眉の不自然さがわからない。
やっぱ、この人も変な人だなぁ。
「というか、他のみんなはー?」
「お前みたいな馬鹿と違って、おとなしく遊んでるぞ。」
退屈そうにいう少女に対して、少年が軽蔑の目を向けながら言った。
だけど、私はそんなことよりも「みんな」という言葉が気になった。
「みんな……?」
「うん。仲良く一緒に住んでるみんなのことだよ!」
少女の答えに私は耳を疑った。
もしかして、私はヤバい人の集団の家に来ちゃったのかもしれない。
そんなことを考えると尚更気分が悪くなる。
そうやって一人げっそりしていたら、少年がしゃがんでまじまじと私の顔を見つめ始めた。
すると、ばっと立ち上がり、少女を勢いよく掴み上げた。
「この感じ、てめえなんも説明してないな!!!!」
ばんっ
と、また大きな音が響き渡り、少女の頭に小さなたんこぶが出来ていた。
しかし、少女は気にもとめずに笑顔で笑い返した。
「えー?だって、だってー、しおりんとあめは赤い糸で結ばれた家族なんだよー??」
「だからって、すぐに思い出せるわけないだろ!!馬鹿!!!」
悪びれる様子もない少女を、またまた少年が三発連続で叩いた。
今のは、流石にやり過ぎだった気がするが、それでも少年は気にせずに少女を地面に落とした。
「まぁ、まずは自己紹介からかな。俺は、ふぶき。白勢 吹雪だ。」
「あめはね、綿飴 れもんっていうんだー!あめって呼んでね!!」
「そんで、お前が栞。俺ら三人が同い年の17。」
し、しおり…私はしおり……
名前を心のなかで何度も呼ぶ。
確かに、どこか納得するような、妙に懐かしさを感じるような名前だ。
「ま、落ち着いたら下に降りろよな。」
そういって、気遣ってくれたのか、それともただの気まぐれなのか、ふぶきと名乗った少年が小さな包みに入ったチョコをくれた。
そして ばっ と立ち上がり、そのまま あめと名乗った少女の首根っこを掴んだ。
「やめてー!引っ張らないでよーー!!暴力はんたーい!!」
「馬鹿が。お前は一緒に降りるんだよ。」
「そ、そそそ、そんにゃー!!」
抵抗も虚しく、あめちゃんはふぶきくんに首根っこ辺りの服を掴まれ、ずりずりと引きずられていった。
そんな二人の後ろ姿を見て、なにかが込み上げてくるのを感じた。
「ま、まって!!」
考える前に、私の口から言葉が溢れた。
自分でも、なんで口を開けたのかわからない。
しかし、良いことなのか悪いことなのか、ふぶきくんは一瞬で振り向いてきた。
「私、お家に帰らなきゃで……その、ここから出なきゃいけないんです!」
全身から大量の汗が出るのを感じる。
震える腕を押さえつけて、どうにか平静を装おうとした。
きっと。大丈夫。
ふぶきくんは、あめちゃんと違って優しいから。
だから、きっと外に出してくれる。
そんな甘い想像をしていた。
でも、現実は私の思っていたよりも異常だった。
ふぶきくんは困ったように笑みを浮かべて、私を心配の眼差しで見てきた。
さっきまでの優しい黄金の瞳が、今は冷たい金属のように輝いている。
「なに、いってんの?お前。」
「外なんか知らなくていいんだよ。」




