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〈第十一話〉 あなたの演技


あおさんが目覚めない。

いつまでも、いつまでも。

その時間は永遠に感じられた。

本当は、まだ一日も経っていないのに。


明日になれば、きっと起きてくれるよね。








「……ふぅ。」







風呂の生ぬるい水の中に身体を預ける。

シャワーからこぼれる水滴も、もうほとんどない。



これが、ここに来てから初めての風呂だ。



昨日、私が目覚めた日はふぶきくんに心配されて、諦めていた。

だから、今日は久しぶりの風呂なのだ。


布団では味わえない安心感に身を包む。

やっぱり日本人には、風呂は欠かせない。


私は、改めて風呂のすごさを実感した。



「……全部 教えてあげる。かぁ。」



天井を見上げ、考える。


ひらりちゃんは、ずっと不思議な子だった。

何考えてんのか謎だし、そもそも感情の起伏が少ない。

まるで、人形みたいだ。


だからこそ、彼女の言葉には妙な魅力がある。



「…よし。」



私は勢いよく風呂から上がり、そのまま出口へと向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「お風呂、あがりましたぁ!」




洗面所から、顔を覗かせる。

キッチンでは、ふぶきくんが食器を洗っていた。



「ん。で、次は誰だ?」

「えっ、ふぶきくんじゃないの…?」

「俺は、最後だ。」



すると、彼の言葉と共にかなたくんが大声をだす。



「かなたは入ったよ〜!!」

「あめもー!!一番乗りだったー!!」



それに合わせて、あめちゃんもダイニングから言う。


あめちゃん、かなたくん、私。

最後にふぶきくんで、あおさんはそもそも入らない。



「…ってなると、あとはこうくんとひらりちゃんだね。」

「いややー!入るのはひらりんだけだよー??」

「えぇ??」

「そんなことよりもさ、一緒にアイス食べよー!」



あめちゃんが手招きをする。

しかし、私はすぐには足を進めずにいた。



「えっ、でもひらりちゃんに…」

「俺がいっとくから、お前は先食べとけ。」

「ふぶち、てんきゅー!!」



ふぶきくんからのフォローを得て、私はようやくダイニングに向かった。

ダイニングには、あめちゃんがソフトクリーム片手に座っている。

来たのと同時に、そのまま横に着席した。



「はい、しおりんの!どーぞ!!」

「えっ、あっ、あめちゃん、ありがとう。」



渡されるがままに、ソフトクリームを手に取る。

チョコレートとバニラのツイスト。

コーンも、ちゃんとしたワッフルのものだった。


私はソフトクリームを、一口頬張る。

口に入った瞬間、アイスが雪みたいに滑らかに溶けていく。



「お味はどうー?」

「すっごく美味しいよ。」

「なら、よかったー!実はね、今日は頼み込んで高いの買ってもらったんだー!」

「なるほど…!だから、こんなに美味しいんだぁ!!」



そういいながら、私はもう一口食べる。

さっきと同じく、アイスは一瞬で溶けていった。



「かなたんは、食べないのー?」



あめちゃんが、リビングで一人、テレビに夢中だったかなたくんに声をかける。

かなたくんは彼女の言葉に反応して、ゆっくりとこっちを振り返る。



「ん〜?もう食べたから、大丈夫だよ〜!!」



そう言うと、かなたくんはそのままテレビに目を戻してしまった。


少しの間、私たちは静かに各々のことをしていた。

食器の音、テレビの音、そしてソフトクリームを食べる音。

色んな音が背景音楽みたいに混ざり合っていた。

すると、だれかが階段から降りてくる音がする。


ひらりちゃんだ。



「…お風呂、入ってくるね。」



片手にタオルを持ちながら、彼女はそのまま洗面所に行く。

こうくんは、あめちゃんが言った通り着いてきていない。



「りょ〜かい!」

「溺れないよーにね!」

「お前みたいな高齢者じゃないんだから、大丈夫だろ。」



ふぶきくんがさっきよりも落ち着いたトーンでツッコむ。

今思えばきっとただの冗談だったと思うが、その時の私は真剣にその言葉を受け取った。


…こ、高齢者?

高齢者って、あのおばあちゃんとかのことだよねぇ…??

しかも、お前みたいなってことは もしかして………



「あめちゃん、もしかしてロリババァ…!?」

「んなわけねぇだろ!!!」



謎の結論にたどり着いた私を、ふぶきくんはすぐに否定する。

その差はなんと一秒もなかった。



「あっ。そういえば、ふぶちも食べるー?」

「今更かよ!!いらねーよ!!!」

「んじゃ、ふぶちの分、食べとくねー!!」

「腹壊すぞ!!!」



食器を割ってしまいそうな勢いで、ふぶきくんが言う。

しかし、あめちゃんは我関せずみたいな顔で、アイスを頬張る。



「も〜!ちょっと、ふぶにいが うるさくて、聞こえな〜い!!」



流石にふぶきくんがうるさかったのか、リビングからかなたくんが文句をつけた。

ふぶきくんはキッチンから身を乗り出したまま、リビングの方へと目をむける。



「俺だけじゃねぇだろ!!どう考えても!!!!」

「ほら、黙ってよふぶち。」

「ざけんな!!!!」




ピロロンッ




ふぶきくんの声とともに、可愛らしい効果音がなる。


画面に顔を向けると、恐らくアイドルと思わしき女の子が待ちゆく人に声をかけていた。

今は、そこらへんにいそうな夫婦がインタビューされている。

その上には、赤い堅苦しい感じで



《六年前の殺人事件》当時の様子を地元の方にインタビュー。



という文字が綴られていた。

その不謹慎さに、どこか居心地の悪さを感じる。




「物騒だなぁ。」




食器を片手に、ふぶきくんが呟く。

確かに 殺人事件と言われてしまうと、物騒と感じるのは当然だ。

ただ、それだけじゃない。

私が感じる居心地の悪さはそれではない。



「六年前だけどね!まぁ、犯人も捕まってないけど〜!!」

「なおさら、物騒じゃねぇか!」

「そ、そうだねぇ…」



私は苦笑まじりで、相槌を送る。

しかし、あめちゃんは不服そうにかなたくんに言う。



「……ねぇ、違う番組にしなーい?」

「んじゃ、ニュースね〜!」

「えっ…」



驚いたような声を漏らすあめちゃんを気にせずに、かなたくんがリモコンをいじり続ける。

数個のチャンネルを行き来してから、一つのニュースに決められた。



「かなたくん、ニュース好きなの?」

「まぁね〜!面白いし、興味深いし、楽しいしさっ!!」

「なんか、意外かもぉ…!」



かなたくんといえば、どうしても我が道を突き進むイメージがあった。

それに、ニュースにはいいイメージがそもそもなかったし。



「でもね、でもね、新聞のほうがもっと好きなんだ〜!!」

「し、新聞…?古いねぇ。」

「それは、失礼すぎるだろ!!」

「だ、だよねぇ……」



しょびこーん と、椅子に縮こまる。


言われてみれば、こういうのは差別…?ってやつだもんね。

家でも言っちゃダメだって、よく言われていた気がするし。



「にしても、確かに珍しいな。俺のおばあちゃんと一緒じゃないか。」

「そ〜う?ボクは昔から新聞集めが趣味なんだけど〜〜??」



呆れたような素振りをかなたくんが見せる。

それと同時に、キッチンからため息も聞こえた。


ふと 横を見ると、あめちゃんがつまらなそうにアイスを眺めていた。

それを見てか、かなたくんがニヤリと笑みを浮かべる。


なんか、嫌な予感が……



「ほら〜!あめめんがだ~いすきなスクープも、まだあるからね〜!!」

「ふーん。そうなんだー。」

「あめめん、つっめた〜!!」



オーバーな反応で、かなたくんはソファに倒れ込む。

もちろん。これが、わざとなのは誰だってわかった。

まるで、彼だけが舞台の上の演者みたいだった。



「……わざとだよね?かなたん??」



あめちゃんが笑顔で、話しかける。


い、嫌な予感が的中したぁ……


私に向けられたことのある あの笑み。

心がゆっくりと押しつぶされそうな、嫌な圧。



「はにゃにゃ?にゃんのことか、ボクわかんな〜い☆」



それでも かなたくんは気づかず、笑顔で返した。

あめちゃんは数秒の間をおいて、諦めたようにいつもの雰囲気に戻る。



「…やっぱ、そうなるよねー!だって、かなたんだもんね!!」

「えへへ〜!照れるな〜〜!!」



その瞬間わかった。

あめちゃんだけじゃなかったんだ。



私は、彼の笑みも苦手なんだ。



なにがかは、わからない。でも、彼の中のなにかが嫌悪感を抱かせた。

あめちゃんとは違うなにか。

彼がわざとやったのかは、最後までわからなかったけど。





「やっぱり〜 ニュースって素敵だよね☆」







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