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〈第十話〉 気の迷い




「あの子になりたかった。」






静かな部屋で、彼女はそう告げた。


もう夜なのに、蝉の声がまだ鳴り響いてる。

まるで、最期を迎えるように。



「だから、殺した。ただそれだけ。」



少女の瞳は落ち着いていて、澄んでいた。

あの瞳を、私は何度も見たことがある。

すると、彼女の葉のような瞳に射抜かれた。

心臓の鼓動と彼女の呼吸音だけが、耳に入る。






「羨ましかっただけなの。」







キミの懺悔が始まった







ーーーーーーー数時間前ーーーーーーー






「デレデレデレ……」






リビングで、あめちゃんが太鼓を叩くような動作をする。

その横で私とふぶきくんがダイニングテーブルから見守る。


あおさんが倒れてから約半日、未だにあおさんは目を覚まさない。

ふぶきくん曰く、数日間はきっとあのままらしい。



「デン!!!!」



あめちゃんの声が今までにない大きさになる。

彼女は私に向けて、自身の手をクロスした。



「しおりん、ふせーかーい!!!」

「そ、そそ、そんなぁぁ…!」



あめちゃんの言葉に膝から崩れ落ちる。

ふぶきくんが、哀れたように肩を竦める。



「まさか、二択で間違えるなんてな。」

「しかも、大ヒントつきでね〜!!」

「だ、黙ってよぉぉ……」



ソファにいたかなたくんもサラァッと煽られ、私は涙を浮かべながら顔を背けた。

流石にこんなので間違ってしまうと、反論が浮かばない。

だから逃げるのも兼ねて。というのは、内緒だ。


すると、それを見てか、あめちゃんが何かを手に持っていたものを渡した。



「はーい!不正解したしおりんには、景品としてコーヒー豆をどーぞ!」

「コーヒー豆…?よくわかんないけど、ありがと……??」



景品って、正解した人にいくんじゃぁ……?


と、疑問を浮かべながらも、手に取る。

中には乾燥された豆みたいなものが入っていた。

一つを取り出し、まじまじと見つめてみる。



「これ、なんだろう……」

「いやいや、お前昨日飲んでただろ。」

「えっ、そうだっけ?」



当然だろ?という顔を浮かべるふぶきくんに、思わず目を丸くした。

そういえば、昨日こんなのを飲んだような記憶がある…気もしなくもない。



「……鶏みたい。」

「三歩あるけば、全部忘れるんじゃないからね…!?」



ソファから顔をのぞかせたひらりちゃんに、サラリと悪口で刺された。

こうくんと重なる悪口のセンスなのが、尚更深く心に残る。



「それじゃ、今日の夕食は 負け鳥の焼き鳥にするか。」

「ふぶきくん…?な、なにいってるの?」

「タレじゃなくて、コーヒー豆かけとくね〜!!」

「かなたくんは普通になにいってるの?」



私の言葉に、よく わかんな〜い☆っとかなたくんはとぼける。

ふぶきくんは諦めたように頭を横に振った。


そんなこんなしてると、あめちゃんがチッチッチッ〜と指を振る。



「三人とも、分かってないなー!焼き鳥には、チョコソースだよ!!」



あめちゃんがドヤ顔でいう。

しかし、ふぶきくんはドン引きした顔で突っ込む。



「そりゃ、論外だな。」

「うんうん。チョコソースなんて、邪道の邪道の邪道だよ??」

「かなたくんも、同レベルだよ?」



ガーン とショックを受け、地面に勢いよくかなたくんが落ちていった。

といっても、その演技くさい動きのせいでショックを受けてるようには見えなかったが。

そしたら、ひらりちゃんの横にいた こうくんもソファから顔を覗かせてきた。



「んだね、これは。」

「えっとね、確か あめちゃんに言われて、マルバツゲームしてるんだよ。」

「いやいや、しおりんがいい始めたでしょー!」

「そこは、どうでもいいんだね。」



諦めたように、こうくんはまたソファに座りこむ。

それでも、話は止まらない。



「ちなみに、今一位なのはしおりんだよー!」

「だって、しおりだけが回答者だからな!!!」

「ふーん。ださいんだね。」

「うっっ」



声にもならない悔しさを感じながら、テーブルを顔に突っ伏した。

ふぶきくんも横で憐れんでくる。もちろん、全然慰めを感じない。

かなたくんは当たり前に無視して話を進めていく。



「へ〜そんなこと言えるんなら、満点取れるんだろうね〜???」

「ふん。余裕なんだね。」

「見てろよー!最高級に難しぃのだすもんねー!!」



あめちゃんとかなくんが謎の合体ポーズを出しながらふぶきくんを囲む。

なんか、ナンパみたい。

囲まれた張本人も、呆れ顔を浮かばせている。



「じゃ、ちゃんと準備しててねー!」

「なんで、俺!?」



あめちゃんに指さされたふぶきくんが、驚きで大声で言う。

そんなのを気にもとめずに、あめちゃんたちはテーブルにあったジュースを手に取った。



「じゃ、このジュースを賭けて、レッツ☆マルバツゲーム!!」

「俺の飲みかけのジュースじゃねぇか!!!返せよ!!!!」

「Finders keepers だからね!勝たないとだよ〜!!」

「ふざけんな!!!!つか、なんだよファインダーなんとかーって!!!!!」



ドタバタしながら、ふぶきくんが二人を追いかけ回していった。

三人はそのまま二階へと駆け上がっていく。

こうくんは、彼らの後をだるそうに足を進ませながら追っていった。


置いてかれた私は、2階に上がるべきか、それとも このまま三人が戻ってくるのを待つべきか悩んでいた。

しかし、答えが出る前に、ひらりちゃんが私の横の椅子を引いて着席した。



「……」



な、なんか…気まずい……


勝手に来られたのに、ひらりちゃんはいつも通りの無言を貫く。

そのせいで、ダイニングではとっても気まずい空気が流れた。


慌ててなにか話題を探すために、瞳を泳がす。

ふと、手のひらにあったコーヒー豆に目が止まった。


そうだ…!!


作り笑いを浮かべながら、私は話かける。



「こ、コーヒー豆って、おいしいのかなぁ?」

「……知らない。」

「食べてみる?」

「…興味ない。」

「だ、だよねぇ……」



私の言葉を最後に、呆気なく会話は終わった。

もう一度、気まずい空気が流れる。


きっとあめちゃんなら、上手に会話を続けられるんだろうなぁ……


それなのに、私は全然……

私だって、頑張って勇気を出したのに…それなのに、こんなのってあんまりだよぉ……




「……ねぇ」




もう一度、気まずい空気が壊された。

さっきみたいに、だれかの声で。

ただ一つ違ったところは、今度はひらりちゃんによってだったことだ。





「もう諦めたの?」





その静かで、でも芯のある声が部屋に響く。

漠然としない表現だが、彼女の中のおっきな なにかに触れた気がした。



「諦めた…?」



彼女をまっすぐと見つめる。

でも、彼女は動揺せずに見つめ返してきた。



「私は、諦めるなんて、絶対にしないよ!?だって、私だよ…?」

「ふぅん。なら、なんで ひらりのとこ来なかったの?」



言葉を続けながら、ひらりちゃんは一歩づつ近づいてくる。



「ひらりなら、全部知ってるよ。前も、言ったけどね。」

「そ、それは……」

「やっぱり、諦めたんだね。」



さっきまでの真っ直ぐな瞳から、一瞬で呆れたような表情に変わった。

私は、咄嗟に言い訳をする。



「だから、違うってば!!これには、理由があって…!!!」

「じゃぁ、なんで?」

「そ、そりゃぁ…その、ちょ、ちょっと、違うことしてただけなの!」



身振り手振り動かしながら、どうにか反論する。

もちろん。全部適当に思いついたことで、本当のことはわからない。

すごいことに、ひらりちゃんはそれも見透かしていたようだ。



「言い訳はご立派だね。」

「ひ、ひどいなぁ…」

「まぁ…いいよ。」



背に射す夕日を逆光に、彼女は私の目の前に立つ。

彼女の静かに揺れる瞳だけが、この温かい部屋で異質で、

それでも 目が奪われてしまいそうだった。






「今夜、全部 教えてあげる。」







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