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ハズレスキルを告げる神官ですが、追放される子にだけ「本当の使い方」をこっそり渡しています~七年で23通、全員生きていました~  作者: 他力本願寺


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第49話 ヨハンが着く前に

光は、上へ弾けなかった。


 少年の指先からこぼれ、足元の石へ落ちる。表面が焼け、細いひびが走った。


「供給は止めました。授能板から入った分が、まだ残っています」


 設備係の報告を、トーマは記録した。


 未知の技能が、どこからともなく無限の魔力を作っていると決める必要はない。まず、止められる入力を止める。


 現地の主任神官が保護膜を展開した。別の係員が周囲を退避させる。トーマは安全線の外から、少年へ声をかけた。


「聞こえるかい。僕はトーマ。君をここへ案内した神官だ」


「……はい」


「今は動かなくていい。足元を守る板を入れる。痛い所はある?」


 少年は何か答えたが、警鐘に消された。


 トーマは設備係に鐘を止める合図をし、もう一度聞いた。それでも声が震えて、最後が聞き取れない。


「君が今言った一文を、もう一度、同じ言葉で言い直す技能が僕にはある。使っていいかい。嫌なら、ゆっくり話してくれればいい」


 少年は、今度ははっきりうなずいた。


「使ってください」


 三十秒以内に自分へ向けられた一文を、一度だけ復唱してもらう。同じ相手に短時間で繰り返し使うことはできない。《聞き返し》で取り戻せるのは、言われた言葉だけだ。心の中も、真偽も分からない。


「足は痛くないです。手が、熱いです」


 復唱された文を記録し、主任神官へ伝えた。救護係が皮膚の状態を遠目に確認する。


 解析への同意を、今の復唱で得たことにはしない。


「これから、光の逃げる先を変えられるか、設備を使って確かめたい。君に無理に力を出させる試験はしない。怖ければ止めてほしいと言っていい。どうしたい?」


 少年は両親を見た。母親が、遮蔽の向こうからうなずく。


「……調べてください。ここから、出たいです」


 自分の言葉で選んだ返事だった。


 主任神官の保護膜の内側へ耐魔力板を差し入れ、少年に一歩ずつ移ってもらった。同じ階の緊急対応室までの床も保護する。トーマ一人で運べる状況ではなかった。


 部屋へ移ってから、主任神官が尋ねた。


「照合のできる先生が来るまで、このまま保持するか」


 保護膜にも消耗がある。足元へ出続ける魔力を、もっと安定して受ける方法が必要だった。


 トーマは、壁の貯蔵水晶を見た。授能板と同系統の魔力を受ける、緊急処理用の物だ。


「少量を受けられるか、遮断器つきの水晶を近づけてもらえますか。出力を測りながら。別の系統は使いません」


「空き容量は確認できる。満杯にする前に交換するぞ」


 設備係が答えた。主任神官は保護膜を保ったまま、水晶を操作棒で移す。


 四メートルでは、変化がない。


 三メートルほどへ入ると、足元へ落ちていた光の一部が横へ流れた。


「そこで止めてください」


 トーマは言った。


 水晶が淡く光る。計器の針が上がる。少年の足元への放出が減り、やがて見えなくなった。


 すぐに違う物を試したくなった。木の桶ではどうか。満杯の水晶なら、どうなるか。


 その誘惑を、トーマは紙へ書いた。


 そして、横に『今日はしない』と記した。


 安全になった場所を、確かめるためにもう一度危険へ戻してはいけない。


 供給を止めた分、少年に残っていた余剰魔力も少しずつ減った。設備係が水晶を交換し、救護係が少年の疲労を確認する。


 流出が収まるまで、トーマは時刻と配置を記録し続けた。


 後で、少年の希望を聞き直し、水に対するごく少量の確認だけを行った。浅い受け皿を二重にした台で、杯へ一口分を超えて注ぐ。近くの空いた杯へ水が流れ、同系統の魔力水晶へは向かわなかった。


 すべての流体に効くとは書けない。距離の境目も、まだ測定誤差がある。近い二つの器のどちらへ向かうかは、次の試験で確かめる。


 記録には空欄が残った。


 だが、その空欄のせいで少年を危険な状態に戻す必要はなかった。


 ヨハンが着いたのは、その日の夕刻だった。


 隣の教区から急報を受け、予定を組み替えて来たのだという。扉を開けた彼は、食堂で温かい汁物を飲む少年を見て、足を止めた。


「トーマ。状況は」


「流出は収まっています。再発時の受け皿と監督者も確保しました。こちらが、主任神官と設備係の署名をもらった記録です」


 ヨハンは紙を受け取った。


 成功した操作だけでなく、中止した案、消耗した資材、次の担当者まで書いてある。


「全部は、分かっていません」


 トーマが先に言った。


「でも、先生が着くまで何もしない、にはしませんでした」


 少年が照合を希望したため、夕食後、安全な少量の水で発動してもらった。


 ヨハンの《注釈》には、容量を超えた同系統の流体・魔力、その余剰を、半径三メートル以内で最も近い適合する空き受け皿へ逃がす構造が見えた。適合先がなければ、保持者の足元へ放出される。


 読み取った制約を、トーマの記録と並べる。


「次に確かめる項目は増えた。だが、今日の対応を覆す見落としは、今の照合では見当たらない」


 ヨハンは紙を返した。


「よく、ここまで記録したね」


 トーマの肩が下がった。ようやく、緊張をほどいた顔になった。


「僕一人では無理でした。保護膜がなければ、あの距離から見ていられません」


 主任神官が隣で苦笑した。


「こちらも、何を近づけるか決められなかった。書きながら相談できたのがよかった」


 ヨハンは二人の間に立たず、空いている椅子へ座った。


 六年前に手紙を渡した青年が、別の人と仕事を終えていた。


 聞きたいことはたくさんあった。まずは、少年が汁物をもう一杯ほしいと言ったので、ヨハンが鍋を取りに行った。


 五日後には、自分の聖堂でも新制度の施行後、最初の授与式がある。


 帰りの鞄へ、トーマから預かった記録の写しを入れた。先生から教え子へ渡す紙だけでなく、教え子から持ち帰る紙が増えていた。

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