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ハズレスキルを告げる神官ですが、追放される子にだけ「本当の使い方」をこっそり渡しています~七年で23通、全員生きていました~  作者: 他力本願寺


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第45話 私にしか読めなくても

ヨハンは黒板へ二つの言葉を書いた。


《注釈》と、五項目試験。


 間を矢印で結ぼうとして、チョークを止めた。


「同じ物ではありません」


 第一期の研修生たちが顔を上げる。


「私には、本人の同意と技能の顕現があれば、構造を早く読めるという利点があります。ただし、それを言葉へ直すのは私です。読み違いも、用途を考え違えることもある」


 黒板に、今度は二本の矢印を書いた。どちらからも、もう一方へ向いている。


「試験なら、私の解釈が現場で成り立つか確かめられる。逆に、試験では危険で確かめにくい制約を、照合で見つけられることもある。ただし、どちらも、あらゆる例外を知った証明にはなりません」


「では、先生がいない場所では、どこで完成にすればいいのでしょう」


 新しく来た神官が尋ねた。


「全部が分かった時、ではなく、その用途を試してよい範囲を説明できた時です。分からない部分は残します」


 ルカが黒板の下へ『完成しても更新する』と書き足した。


 午後は、《色移し》を持つ染物職人に協力してもらった。


 五年前、手紙を受け取った一人である。教材にしてよい範囲と、工房の秘密を分け、本人の希望で仕事場ではなく解析室を使った。


 ヨハンは既に能力を知っている。知らないふりをするのではなく、当時の記録を先に封じ、研修生の試験結果と後で比べることにした。


 試験の安全計画には、事前に目を通してある。


「布から布へ色を移すなら、元の布の色は消えるはずですね」


 若い神官が言った。


 トーマは、すぐには記入しなかった。


「名前からはそう思います。でも、確かめましょう」


 小さな赤い布と、同じ繊維の無染色の布を隣に置く。職人が触れると、赤い方の色が薄くなり、隣の接触部分へ赤みが移った。


 完全に白くなるまでとは限らない。生地の地色や残る染料も、見たまま書く。


 次は同じ色の小さな試料で、木、金属、革への移動を試した。今回の試料には変化がない。


「布だけ、と断定はできません。今は、この三種類には反応しなかった、と」


 ルカが確認した。


 異なる色を同時に扱う試験では、片方の色しか移せなかった。染料の相性か、技能の制約か。職人の経験も聞き、混色を狙う用途は未確認として外す。


 面積を少しずつ広げると、疲れ方が増した。限界まで使わせず、そこで終了した。


「結論です」


 トーマが持ってきた紙には、空欄がいくつも残っていた。


 確かめた布と染料。移せた範囲。実施しなかった試験。作業に使う前に親方と確認する項目。


 ヨハンは封じた記録を開いた。そこには『布地・繊維類』『単色の移動』『面積に応じた消耗』と、自分の字で書いてある。


 研修生の紙は、同じ答えを言い当てた紙ではなかった。どの観察から、どこまで言えるのかが残っていた。


「以前の私の記録より、理由がよく分かる」


 ヨハンが言うと、職人が紙をのぞき込んだ。


「この欄、増やせますか。洗った後に色がどう残るか、仕事ではそっちが大事なんです」


 トーマが椅子を引く。


「教えてください」


 話は、ヨハンへ戻ってこなかった。職人と研修生が同じ紙へ向かい、ルカが新しい欄を作っている。


 少し寂しい。


 そう感じた自分がおかしくて、ヨハンは机の下で手を握った。望んでいたはずなのに、望んだことが起きると、胸に小さな隙間ができた。


「ヨハンさん。予備の紙、どこでしたっけ」


「右の引き出し」


「ありがとうございます」


 必要なくなったわけではない。ただ、全部に自分の答えが要るわけではなくなった。


 夕刻、マティアスが通達を持ってきた。


 北、西、南の三拠点で、来月から解析室の受入れを始める。研修者と設備の確認が済んだ所から順に、という条件つきだった。


「すべて、同じ日に開けるわけではないのですね」


「間に合わない設備のある所は、受付と紹介を先に始めます。看板だけ先に掛けても意味がない」


 ヨハンは通達を机へ置いた。


 遠い場所に、まだ会ったことのない子がいる。その子は、自分に会わなくても相談できるかもしれない。


 翌朝の研修に使う紙を、いつもより少し多く揃えた。

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