第42話 廃棄区分倉庫への立入監査
費用試算の修正版が届いたのは、三日後だった。
段階導入なら初年度の枠内に収まる。ただし、受入数と待機期間を四半期ごとに見直すこと。財務部門の条件が、案の末尾に加わっていた。
ヨハンは公聴会で、暫定条項を読み上げた。
第一に、第五等級を理由とする即時の排除を避け、本人へ九十日の個別相談・解析期間を案内する。
第二に、その間の生活・教育支援を維持し、期間終了時も未解決案件を支援先へ引き継ぐ。
第三に、危険を伴う試験は、必要な設備と監督者を備えた場所でのみ行う。
第四に、五項目と連携欄へ、実証・仮説・未確認・禁止を区別して記録する。
第五に、重大危険が制御できない時は使用を停止し、理由、見直し条件、異議申立て先を本人へ示す。
第六に、試験と支援の実施者から独立した監査を受ける。
使い道が見つかった人だけの制度にしない。署名を取っただけで本人の希望を聞いたことにしない。付則には、試行中に見つかった問題も残した。
「制度案については、最高会議へ上申する」
議長席のデルムントが告げた。
そこで審査局の役人が発言を求めた。
「しかし、ヨハン・エーベルの過去の無許可指導は別問題です。神託を独自に解釈した疑いを、改革の功績で消すべきではない」
「別に審査すべきです」
答えたのはマティアスだった。
机へ置いたのは、教会法務部門が上級審査を経て出した決定書と、王国の監査部門との共同執行文書だった。
「審査の結果、《注釈》による構造の読解と運用上の説明は、神の意志を代弁する教義解釈とは区別されました。本件の異端審査は終結します」
ヨハンは、息を吸うまで自分が呼吸を止めていたことに気づかなかった。
「ただし、無許可の指導や説明不足まで免責されたわけではありません。そちらは安全管理上の責任として、別に処分を確定します」
マティアスはもう一枚の文書を開いた。
「同時に、申立てを受けていた中央局の記録管理について、独立監査班の立入りが承認されました。私は期限つきで、その班に任命されています」
異端審問官だから、何でも調べられるのではない。別の職務を行う権限が、別の文書に記されていた。
監査対象に中央局自身が含まれるため、デルムントはこの監査の指揮には加わらない。
地下の廃棄区分倉庫は、紙の湿った匂いがした。
書庫で見た『例外処理一覧』は索引にすぎなかった。ここにあるのは、除外された原報告と、振り分けの決裁記録だった。
監査員が箱番号と封の状態を写し、管理者の立会いで開ける。ヨハンとエルサは、内容確認を求められた物だけを見る。ルカは入口側の机で照合表を写した。
「あった」
声を出したのはエルサだった。
《端っこ》の職人の、再提出された報告。工房の検査結果まで添付されていたのに、集計では件数に入っていない。
別の箱には、事故の報告があった。同じ第五等級でも、こちらは用途や試験環境の違いを区別せず、危険性の集計へ含められている。
「成功と失敗で、対象の取り方が違います」
エルサが言った。
除外そのものではなく、比較の仕方が問題だった。成功を『本人固有』として外す一方、失敗だけを分類全体の危険として数えていた。
管理者に鍵を求め、決裁文書の箱を開ける。
そこに、十年前の方針見直しと、その後の継続指示があった。地方からの個別運用報告は例外区分へ回し、制度評価の集計には含めない。
末尾の署名は、デルムントの名だった。
マティアスは紙を自分の鞄には入れなかった。監査員が発見位置を記し、写しを作り、原本を封印する。登録簿の文書番号と照合してから、受領票へ署名した。
「これで全部、決まるんですか」
ルカが聞いた。
「重要な資料です。ですが、決裁の経緯と本人の説明も聞きます。一枚を見つけた瞬間に処分まで決めるのは、監査ではない」
マティアスは封印した箱を見た。
「最高会議へ正式審査を申し立てます」
ヨハンの手は、机の下で震えていた。
自分が七年間、人に見られないように渡した手紙。その間にも、堂々と送られた報告はあった。届いていなかったのではない。
ここまで、届いていた。




