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ハズレスキルを告げる神官ですが、追放される子にだけ「本当の使い方」をこっそり渡しています~七年で23通、全員生きていました~  作者: 他力本願寺


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第34話 中央へ向かう途中で

秋の風が、街道脇の草を倒していた。


 王都までは通常なら半日の道だ。今回は回覧先の宿駅へ立ち寄るため、一泊する予定で出た。


 ヨハン、ルカ、研修期間を延長したトーマ、護衛のセラ。九十日試験の後に承認された活動は、聞き取りと危険の少ない基礎確認に限られていた。新しい人体作用の試験はできない。


 宿駅には、訪問予定を聞いて待っていた青年がいた。


「リドです。修繕工の見習いをしています。《やり直し》を、見てもらえませんか」


 彼は仕事用の木片を、布に包んで持っていた。


「時間を戻すんですか」


 ルカが尋ねると、リドは首を振った。


「物だけです。あと、失敗する時がある。親方には、やり直せると思うから仕事が雑になるんだと言われました」


「何ができるかと、仕事が丁寧かは、分けて考えましょう」


 トーマは椅子を引いた。


 今日は二人が聞き取りを担当する。ヨハンは、安全計画の確認と、求められた時の照合役に回った。


 リドは一片の木へ浅い切れ目を入れ、すぐ指を当てた。淡い光が消えると、切れ目もなくなっていた。


「もう一度、同じ木でできますか」


「それが、できないんです。翌日ならできるんですけど」


 ルカは『同一対象、一日一回か』と疑問形で書いた。


 トーマが次の木片に番号をつける。


「同じ物を続けて使ったら、失敗した理由が、回数なのか別の条件なのか分からなくなります。一つずつ分けましょう」


 別の木片に、トーマが傷をつけた。リドには戻せなかった。


 さらに別の木片で、リド自身が傷をつけ、八秒待った。今度は戻せた。十二秒待った物は戻らない。


「八秒と十二秒の間に境目がありそうです。でも、十秒とはまだ書けません」


 ルカは時計の読み取りの誤差も余白へ記した。


 夕方までに確かめたのは、少数の木片に対する浅い加工だけだった。自然にすり減った道具を直せた経験はないという。生き物で試したこともなく、今日も試さない。


 同意を得て、ヨハンが最後の一片への発動を《注釈》で照合する。


 直前に自分が行った一操作。十秒以内。同一対象には一日一回。非生体物に限り、自然損耗と他者の操作は対象外。


 読み取った制約を書き添えても、実証欄はそのまま残した。九秒や十秒近くを仕事の安全限界として使うには、もっと余裕を見た運用が要る。


 翌朝、前日に一度戻した木片で、再び成功した。


 リドはようやく肩の力を抜いた。


「親方が見た時は、同じ部品に二度使おうとしたんです」


「その説明はできますね。ただ、毎日必ず同じ条件でできるかは、もう少し記録を取りたい」


 トーマが言った。


「役に立ちますか」


 ルカは机の木片を並べた。


「精密加工で、削りすぎにすぐ気づける作業なら、候補になると思います。けれど、どこまで削っていいかを知らなければ、失敗したことにも気づけない」


「腕は、要るんですね」


「はい。それに同じ部品でその日二度目は使えない。やり直した後こそ、慎重に作業しないと」


 量産でも使う余地はある。ただし、部品ごとの使用回数と検査を管理できるかは別の問題だ。魔力の消耗もまだ十分に測れていない。


 トーマは工房宛ての提案を、採用推薦ではなく、低価値の練習材で検証を続ける相談として書いた。


 リドはそれを読むと、丁寧にたたんだ。


「親方には、俺から話します。仕事が雑だって言われたことまで、この紙で取り消せるとは思ってません」


 ルカが笑い、リドも笑った。


 ヨハンは二人の間に口を挟まなかった。


 その日の午後、王都へ着いた。


 目指すのは大聖堂の『封印書庫』。古文書の保存と閲覧制限のための名で、隠された悪事だけが眠る場所ではない。


 トーマが事前に申請し、マティアスが審査資料との関連を確認した結果、指定範囲の閲覧が許可されていた。


 係員が目録と紙片を渡す。


「必要な請求番号をここへ。原本へ書き込みはしないでください」


 何百年分もの棚を前に、セラが小声で言った。


「剣を振るう方が、よほど早そうだ」


「今日は剣を使う所がありません」


 ルカが答え、目録へ戻った。


 数時間後、その指が一つの項目で止まる。


『第一版 標準化等級表――および個別試験の推奨について』


 刊行は、技能院創設期。二百八十年前だった。


 ルカは声を出しかけて、係員のいる机を見た。それからヨハンの袖を引いた。


「見つけました。……まだ、目録だけですけど」


 ヨハンは請求番号を書いた。


 今度は、見出しの先を読める。

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