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ハズレスキルを告げる神官ですが、追放される子にだけ「本当の使い方」をこっそり渡しています~七年で23通、全員生きていました~  作者: 他力本願寺


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第30話 異端審問官の仕事

王都での枢機卿デルムントとの面会から一夜明け、ヨハンは地方都市の職人組合にある『技能記録会』の拠点へと帰還していた。


 中央授能審査局が仕掛けてきた公式試験。標準技能班との比較で、追加の手間をかける意味を示さなければならない。


 重圧を抱えて書類を整理していたヨハンの前に、黒い外套を羽織った男が音もなく現れた。


「王都での首尾はいかがでしたか、ヨハン殿」


 異端審問官にして、今回の九十日試験の監督役でもあるマティアス・ロウである。


「比較試験です。成果だけでなく、準備にかかった人手まで審査されます」


「その比較は避けて通れません。条件が途中で変わらないよう、私も確認します」


 マティアスは皮肉げに言いながら、ヨハンの向かいの席に腰を下ろした。


 そして彼は、懐から分厚い書類の束を取り出し、机の上に置いた。


「……これは?」


「以前、私とあなたが同行した、第五等級者向けの『保護施設』に関する法的精査の報告書です」


 マティアスの言葉に、ヨハンと、記録作業をしていたルカの顔つきが変わった。


 数ヶ月前、ニアを保護という名目で囲い込んでいたあの施設だ。


「契約調査を担当する王国の会計監査官と、共同調査の許可を得て帳簿を確認していました」


 マティアスは冷徹な声で事実を並べ立てる。


「結果として、あの施設は『教育費』や『生活費』という名目で、市場価格の数倍に当たる不当な費用を上乗せし、第五等級者に十年以上の長期債務契約を結ばせていることがわかりました。さらに、価値が判明した労働力を、特定の組織――危険な鉱山工房などへ集中的に斡旋し、不当な利益を得ている偏りも確認できた」


「ひどい……!」


 ルカがペンを握りしめて立ち上がった。


「あいつら、ニアみたいな行き場のない子を騙して、奴隷みたいに売り飛ばしてたってことですか!」


「法的な言葉を使えば、極めて悪質な利益相反と不当契約です」


 マティアスはルカの怒りを受け流し、淡々と断じた。


 机に置かれたのは、個人名を伏せた中間報告だった。原本は調査担当部署が封印して保管しているという。


「これを、公にできますか」


「公開できる部分は、被害を訴えた人へ説明した上で決めます。まだ照合中の契約もあります。先に全体を断定すれば、当事者へ不利益が及ぶ」


 マティアスは、ニアに関する頁を別の封筒へ入れた。


「これは本人に渡す説明用です。契約への異議申立ては、解析試験とは別に進めます。試験であなた方が失敗しても、違法な契約が適法に変わることはない」


 ヨハンは、紙へ伸ばしかけていた手を引いた。


 自分たちの主張を通すための材料として、この調査まで使おうとしていたのかもしれない。


「私にできることは」


「照会があれば、見た事実を答えてください。それ以外は、ニア殿が何を望むかを先に聞くことです」


「……わかりました。施設の件は、あなたにお任せします」


「ええ。あなたは、あなたの仕事を完遂しなさい」


 マティアスは立ち上がり、扉へと向かいかけたところで、ふと足を止めた。


「そういえば。デルムント猊下が設定した公式試験の『課題』は、もう聞いていますか」


「いいえ。安全条件と大枠だけです。詳細な課題は今日届くと」


「相手が第一等級の標準技能班である以上、魔獣の討伐や戦闘力の測定だと思っているなら、考えを改めることです。……デルムント猊下は、そんな隙のある真似はしない」


 マティアスはヨハンを振り返り、試験の全貌を告げた。


「採点の中心は、『大規模災害を想定した避難および救助訓練』。熱や崩落の危険は模擬装置で再現します。実際の災害現場ではありません」


「救助訓練……?」


「そうです。模擬の崩落現場や、火災を想定した障害が用意されます。そこで問われるのは、単純な火力や破壊速度ではない。要救助者を安全に運び出し、二次被害を防ぎ、現場の設備を維持する細やかな対応力だ」


 ヨハンは課題表へ目を落とした。障害物の除去では、大きな力を安定して出せる標準技能が有利だ。一方、既存の設備や限られた資材を生かす課題もある。


「相手も専門家です。火を使えば被害を広げるような場所で、むやみに火を使うとは思わないことです」


 マティアスが釘を刺した。


「勝つために危険を増やせば、この試験の意味がなくなります」


 マティアスはそれだけを言い残し、部屋を出て行った。


 静まり返った部屋の中で、ヨハンはゆっくりと立ち上がった。


「……ルカ。セラたちを呼んできてくれ。ニアとミラ、ノルもだ」


「作戦会議ですね!」


 ルカが目を輝かせて駆け出していく。


 第一等級のエリートたち。ルカの兄、レオン・ヴァルトが率いる最も優秀な集団。


 だが、絶望することはない。単純な強さではなく、『役割』が問われる試験ならば。互いの欠点を補い、能力の制約を組み合わせる『個別解析班』のやり方が、必ず一矢報いることができるはずだ。


 ヨハンは白紙の五項目記録票を机に並べ、まず、参加を断っても不利益がないことを説明するための紙を用意した。

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