↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキルを告げる神官ですが、追放される子にだけ「本当の使い方」をこっそり渡しています~七年で23通、全員生きていました~  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/50

第22話 七分、と彼は言った

鉄扉が下りきったあとも、床は震えていた。


 第三待機区域へ逃げ込んだ人々が、壁際に寄り合っている。ヨハンは子どもたちを数えた。ルカ、ニア、ミラ、ノル。それから、設備主任に支えられたリアーネ。全員いる。


「裏の保守口から出る。扉を開けられる人は?」


 設備主任が手を挙げた。


「手動の巻上げがあります。ただ、先の通路を照らす結界柱が切れている。落下防止の支えも止まっています」


「まず、人が通れる隙間を」


 マティアスが主任と走り、セラは倒れた棚をどかし始めた。


 誰も、試験を続けようとは言わなかった。


 最初の避難者が保守口へ向かった時、天井で石が鳴った。


 太い主梁ではない。その脇に渡された短い梁が、片方の受け石から滑りかけていた。もう片側は壁に残っているが、先端が落ちれば、保守口の前を塞いでしまう。


「離れて!」


 ヨハンが声を上げた。足を取られた老人を、ルカが引き起こす。


 梁が沈んだ。


 ルカの肩が、積まれた木箱と梁の間に挟まる。少年は身を縮めたが、抜けない。


「セラ、支柱を!」


 ミラはそばにあった梱包台へ手を伸ばした。ルカの上の梁と、仮受けになる台。その両方へ掌を置く。


「《半分》――!」


 荷重が二つへ分かれる。梱包台が軋み、そこへセラが太い角材を差し込んだ。


 ほぼ同時に、ルカが息を吸った。


「延期、しました」


 顔を見たヨハンは、喉が冷たくなるのを感じた。


 梁の重さの大半は、壁と仮受けが支えている。それでも、少年の胸を潰すには十分だった。ミラが先に荷重を分けなければ、《後回し》の容量を越えていたかもしれない。


「どこだ。何を抱えている」


「肩から、胸。押し潰される、結果です。息は、まだできます」


 ヨハンは膝をつき、ルカと目を合わせた。


 逃げ込んだ時に受けた一続きの圧迫。その発現を、少年は今も延期している。別の石まで落ちれば、追加を抱えられる保証はない。


「無理に動くな。先に梁を固定する」


 セラが両手で梁を押した。わずかに浮いたが、その瞬間、壁の受け石が砕けた。


「止めて!」


 設備主任の声が飛ぶ。


「押し上げると、残った支えまで外れます。結界柱の保持術式が戻れば、梁の位置を固定できる。それまでは動かせない」


 セラは歯を食い締め、ゆっくり力を戻した。


 ルカが小さく呻く。ヨハンは背後を振り返った。


「治療のできる方はいませんか」


「治療棟の者です」


 避難者の中から、灰色の外套を着た女性が出てきた。腕に治療師の腕章がある。彼女はルカの胸と肩を確かめ、短く問いかけた。


「今、傷はまだ出ていないのね」


「はい」


「なら、今は治せない。出た瞬間に、呼吸と出血を支える準備をする。私を先に保守口の外へ出して、横になる場所を作ってください」


 できる、とも、必ず助かる、とも言わなかった。それでも、引き受けるために手を動かしてくれた。


 ヨハンは頷いた。


「先生。私がルカの負荷を引き受ければ」


 セラが囁いた。


「今かかっている荷重は減らせる。でも、もう延期した傷は消せない」


 ヨハンは答えた。


「君には、退避口を開けてほしい。ルカを運び出す力も残しておいてくれ」


 セラは一瞬だけ目を閉じた。次に開いた時には、保守口を見ていた。


 ミラは梁と仮受けから手を離せずにいた。ヨハンが膝の下へ畳んだ外套を入れる。


「同じ荷重を分け続ける。新しい対象を足さなくていい」


「はい。まだ、保てます」


 試験では、軽い固定荷重なら数分間の分配を繰り返せていた。だが、この重さで同じとは限らない。ヨハンはミラの顔色も確かめた。


「痺れや眩暈が出たら、すぐ言ってください」


「……ルカくんを、先に」


「二人ともです」


 ヨハンはそれだけ言い、時計を出した。


 ルカは浅く息をしながら、試験で覚えた保持の感覚を言葉にした。


「普段の骨折より、ずっと重いです。七分くらいで、いっぱいになる。たぶん、それ以上は……」


 七分。確定した測定値ではなく、本人が感じ取った限界の見積りだった。保証にしてはいけない。


「六分でここから出す。七分まで使わない」


 ヨハンは秒針を見た。すでに時間は動いている。


「これ以上梁が沈んだら、予定を待たずに引き抜く。セラ、その時は手を貸してくれ」


「わかった」


 ルカが震える唇で頷いた。


「僕、治療室に戻れますか」


 ヨハンは、最初に渡した紙を思い出した。使ってしまったら、すぐ聖堂の裏へ。今、その裏口は遥か遠い。


「ここに、治療師がいる。今は、その人のところへ行こう」


 主任が砕けた結界柱を指した。


「ここが繋がれば、保持術式と保守口の補助動力を動かせます。ただ、主炉の供給は切れたままです」


 ヨハンは破片を見た。色の違う石が混じっている。その向こうには、停止した予備の治療灯と、まだ計器の針が動いている小型炉があった。


 ニアも同じ所を見ていた。


「この青い部分、同じ石ですか」


「導通部です」と主任が答える。


 リアーネが机の上の回路図を開いた。


「預かれる出力が残っていれば、私が運べるわ」


 ヨハンは震える指を紙へ押し当てた。


「確かめましょう。量と、系統を」


 時計の針は、もう三十秒進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。