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ハズレスキルを告げる神官ですが、追放される子にだけ「本当の使い方」をこっそり渡しています~七年で23通、全員生きていました~  作者: 他力本願寺


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第21話 第一等級だけで回す祭り

初夏の聖都を彩る『大祭』が、華々しいファンファーレと共に開幕した。


 王都大聖堂とその周辺は、色とりどりの旗と、王国中から押し寄せた数万の群衆の熱気で満ちていた。


 この巨大な祭りを裏で支えているのは、教会と王宮が誇るエリート集団――第一等級および第二等級の技能保持者たちで構成された『標準技能班』である。


「第二区画、魔力供給安定。昇降装置、規定速度を維持」


「第三区画、治療灯の出力問題なし。巡回警備班との連携を継続しろ」


 無駄のない号令が飛び交い、複雑な魔力設備が完璧な歯車のように噛み合って動いていく。


 第三待機区域と呼ばれる、倉庫を改装したような閑散としたエリア。そこで補助要員として待機させられていた『個別解析班』の面々は、魔法の鏡を通して映し出される運営本部の映像を見て、ただ圧倒されていた。


「すごい……。みんな、流れるように動いてる」


 ルカが感嘆の声を漏らす。


 映像の中心で指揮を執るのは、王都設備班の隊長だった。第一等級の技能を揃えた班が、定められた手順で次々に交代する。


「誰かが休んでも、引き継げる」


 ヨハンはその動きを見て言った。


「そこは、私たちも学ばないといけない」


 ルカが頷き、交代時に何を確認しているかを書き留めた。


 王女リアーネも設備主任とともに待機区域へ入り、午前の計測記録を見比べていた。彼女の《余白》は予備回路での試験までで、大祭の本設備に組み込む許可は出ていない。


「でも、先生」


 セラが窓の外の群衆を見下ろしながら、微かに眉をひそめた。


「今年の祭り、ちょっと人が多すぎやしないか? さっきから、入り口の入場制限が機能してないみたいだぞ」


「……ええ。私も気になっていました」


 ヨハンは懐中時計を取り出し、時間と、待機区域の壁を這う魔力導管の脈動を交互に確認した。


 事前の発表では、今年の来訪者は例年並みとされていた。だが、目算だけでもその一・五倍以上の人が大聖堂周辺に密集している。


 群衆が増えれば、彼らを不測の事態から守る防衛結界の出力は自動的に上がり、空調や照明、昇降装置などの魔力消費も跳ね上がる。


「マティアス監査官。本部の魔力計器の数値、確認できますか」


 ヨハンが、監督者として同席しているマティアスに問いかけた。


 マティアスは通信用の魔導具を操作し、小さく舌打ちをした。


「……主結界の消費魔力が、想定のレッドラインを超え始めています。第一等級班が魔力を注ぎ込んで出力を維持していますが、これ以上人が増えれば、結界を支えきれなくなるかもしれない」


「他の設備はどうなっていますか。治療灯や、予備の昇降機は」


「そちらの稼働率は三割程度です。人手不足で、そこまで回す余裕がないのでしょう」


 ヨハンは顔をしかめた。


 余剰と不足の偏り。


 これが、巨大なシステムが悲鳴を上げている証拠だった。結界の維持には魔力が足りず逼迫しているのに、使われていない治療灯の魔力炉には、無駄な余剰魔力がたっぷりと眠っている。


「監査官。本部に連絡を。治療灯の魔力供給を一時的にカットし、その余剰分を手動で主結界の回路へ回すよう進言してください。そうしなければ、いずれ結界の制御盤が過負荷でショートします」


 ヨハンの切迫した言葉に、マティアスは頷き、すぐに運営本部へと通信を繋いだ。


 通信先の隊長は、すぐに回路図を開いた。


『治療棟は別の炉だ。直結には変換器が要る。予備を運ぶ間、入場を止める』


「こちらの待機者も退避させます」とマティアスが答えた。


 だが、別の声が割り込んだ。運営官だった。


『入場停止はまだ早い。奉納行列が残っている。出力を上げて対応してくれ』


『導管がもたない。技能者の数を増やしても――』


 そこで通信に激しい雑音が入った。


 ヨハンは歯を噛み締めた。標準班は限界を知っていた。だが、運営は手順書の定員を越える来訪者を通し、設備の限界より行事を優先した。


 マティアスが、待機の終了と退避を宣言する。


「……最悪の事態に備えよう。セラ、防刃外套を。ニアとミラは部屋の奥へ。ノル、ここから外へ出る最短の迂回路を頭に入れておいてくれ」


 ヨハンが避難者を入口へ誘導し始めた、その直後だった。


 ビリッ、という空気を切り裂くような音が、大聖堂全体に響き渡った。


「きゃあああっ!」


「な、なんだ!?」


 窓の外から、群衆の悲鳴が聞こえてくる。


 ヨハンたちが窓から見下ろすと、大聖堂の上空を覆っていた半透明の防衛結界が、限界を越えて赤い火花を散らし、一部が弾け飛ぶのが見えた。


 過負荷によるショート。


 魔力の暴走は、逃げ場を失って物理的な衝撃へと変換された。


 ズドドドォン!!


 凄まじい地響き。ヨハンたちがいる第三待機区域のすぐ近く、大聖堂の東側にあたる巨大な石造りの連絡橋が、衝撃に耐えきれずに崩落を始めたのだ。


「崩れてくるぞ! 逃げろ!」


 外の通路には、逃げ惑う一般の来訪者たちが雪崩れ込んでいた。


「ノル! 迂回路だ!」


 ヨハンが叫ぶ。


「だ、駄目です!」


 ノルが顔を真っ青にして、待機区域の入り口を指差した。


 ガシャンッ! と、ひどく重い金属音が鳴り響く。


 結界のショートにより、大聖堂の保安システムが誤作動を起こしたのだ。ヨハンたちと逃げ惑う一般客を閉じ込めるように、分厚い鉄の防火シャッターがけたたましい音と共に降り、完全に閉ざされてしまった。


 天井からはパラパラと砂埃が落ちてくる。


 二次崩落の兆候。


 外に出る道は絶たれ、頭上からは巨大な質量が降ってこようとしている。


「……全員、私から離れるな!」


 ヨハンは叫び、子どもたちを庇うように前に出た。


 第一等級のエリートたちが手を出せない密室で。


 ヨハンは落ちてきた石片を払い、退避口の位置を確かめた。ここから先は試験ではない。全員で、生きて帰らなければならない。

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