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【書籍化+コミカライズ進行中】人間嫌いのハイエルフ、父になる  作者: 小狐


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第136話 リーネ、パパと呼ぶ

 翌日の昼食後、リーネは居間の床へ木片を並べていた。

 私が以前作った木の馬も持ち出し、木片のそばへ置いては、また手に取っている。


 「みんな、ここであそぶ!」


 椅子に座る私へ、リーネは両手を広げて見せた。

 昨日の帰り道で何度も聞いていたことを、今日はもう準備し始めている。


 「まだ来る日も決まっておらんぞ」


 「ここ、いっぱい!」


 木の馬を置くと、今度は木片をひとつずつ離して並べ直す。

 昨日から、ずいぶん気の早いことだ。


 「全部出すつもりか」


 「うん! みんなと、あそぶの!」


 ……まあ、楽しそうにしているのだから、好きにさせておくか。


 食卓の方では、マルタが昼食に使ったものを片付けている。

 セラが残りのカップを盆へ載せ、マルタへ声をかけた。


 「こちらもお運びしますね、マルタさん」


 「ええ。お願いいたします」


 午前の仕事を終えたイレナも、食卓の近くでマルタと話していた。

 リーネは木の馬をニナへ見せ、床に並べた木片を指す。


 「にな、ここ!」


 「はい。ここで一緒に遊ぶんですね」


 ニナに返事をもらい、リーネは私の方へ木の馬を持ってくる。

 私のそばにいたルヴェンも、近づくリーネへ顔を上げた。


 「パパ!」


 私はリーネを見たまま、すぐには答えられなかった。

 木の馬を抱えてこちらを向いているのは、いつもどおりのリーネだ。

 だが、今の呼び方は――。


 「……何だ、急に」


 「リタが、パパってよんでた!」


 リーネは嬉しそうに笑っている。

 そういえば、昨日リタがダリオをそう呼んでいたな。


 「……そうか」


 私の膝の前まで来たリーネが、もう一度顔を上げる。


 「パパ!」


 「何だ」


 今度は、すぐに答えた。

 リーネは声を上げて笑い、抱えていた木の馬を私へ差し出す。


 「これ、みて!」


 「ああ。見えている」


 受け取ろうと手を伸ばすと、リーネは木の馬を私の手に載せた。

 リーネは床に並べた木片を指した。


 「あそこ! みんな、くるの!」


 木片の間には、馬を動かせるだけの隙間を空けてある。


 「来た時に、この馬も見せるつもりなのだな」


 「うん! リーネの、おうま!」


 リーネは私が持つ馬の頭を指した。

 ……それを作ったのは私なのだがな。


 「こっち!」


 リーネが床に並べた木片の間を指さした。

 言われるまま、手にした木の馬をそこへ進ませてやる。


 「うん! そこ!」


 ……見せるだけではなく、私にも遊ばせるつもりだったらしい。

 こちらへ顔を上げるたびに、また何か言うのかと待ってしまう。


 「い、今、パパって……!」


 食卓の方から、セラの声がした。

 私が顔を向ける前に、ニナが姉へ声をかける。


 「お姉ちゃん、静かに」


 「だ、だって……」


 セラは私たちを見たまま、声を抑えた。

 盆を持ったまま、嬉しそうに笑っている。

 たしなめたニナの口元も緩んでいる。


 「……聞こえたわよね?」


 「うん。聞こえたよ」


 ニナが小声で答えると、セラもそれ以上は言わず、二人でリーネを見ていた。

 リーネが私の持つ木の馬へ手を伸ばした。


 「かえして」


 「ああ。ほら」


 差し出すと、リーネは両手で受け取り、木片の方へ戻っていった。

 ニナもリーネのそばへ寄り、セラは盆を持ってマルタの方へ戻った。


 「……何だ、お前たち」


 いつもと同じように尋ねたつもりだが、セラはますます嬉しそうな顔になった。


 「いえ、リュセル様。その……何でもございません」


 何でもない顔ではないだろう。

 食卓から少し離れているイレナにも見られていたので、そちらへ顔を向ける。

 イレナは控えめに微笑んだだけで、何も言わなかった。


 最初の返事が遅れたところから、見ていたのだろうな。

 私は椅子へ座り直し、床で馬を動かすリーネへ目を戻す。

 すぐそばでは、ルヴェンの尾がゆっくり動いている。


 お前まで、何か言いたいのか。

 ルヴェンは私のそばで、木片の間を通る馬を眺めていた。


 「こっちも、いくよ!」


 リーネがニナへ声をかけ、馬を別の木片のそばへ運ぶ。

 ニナはリーネが置くのを待ってから、手の届くところにある木片を示した。


 「こちらにもありますよ」


 「これも!」


 もう、さっきの呼び方の話など忘れたように遊んでいる。

 私が椅子に座ったまま見ていると、食卓からマルタが近づいてきた。

 リーネの邪魔にならないところで、私へ声をかける。


 「……よろしゅうございましたね、リュセル様」


 マルタはいつもどおりの穏やかな顔で、私の返事を待っている。


 「……何の話だ」


 マルタは答えず、微笑んだ。


 食卓ではセラが残りのものを盆へ載せ、マルタもそちらへ戻っていった。

 リーネは木の馬を動かし、ニナのそばで木片をひとつ持ち上げた。


 「ここに、おく!」


 リーネは木片を置き、私へ手を振った。


 「パパ、こっち!」


 「ああ。今行く」


 私は椅子を立ち、リーネのそばへ向かった。

読んでいただきありがとうございます。

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