第134話 リーネ、リタの友達と遊ぶ
扉を叩くと、中から足音が近づいてきた。
クララが開けた扉の脇から、リタが顔を出す。
「リーネ! 来た!」
「リタっ!」
リーネは私の手を離して駆け寄り、リタの両手をつかんだ。
そのまま二人で跳ねるものだから、クララが笑いながら扉を大きく開けてやる。
「ようこそお越しくださいました。どうぞ、中へ」
奥から来たダリオも頭を下げたが、リタはもうリーネを引いている。
「こっち。いつも、ここで遊ぶの」
「りゅー! リタのおうち!」
「ああ。遊びに来たのだろう。行ってこい」
リーネはリタについていく。
私も夫妻の挨拶を受け、イレナとマルタ、ルヴェンとともに家へ入った。
リタは部屋の隅の敷物へ座ると、そばの籠から木の鳥を取り出した。
リーネがさっそく手を伸ばす。
「とり! リタの?」
「うん。見て、こうするの」
リタが木の鳥の翼をぱたぱたと動かして見せると、リーネも反対側の翼を動かした。
今度はリタが鳥のくちばしで敷物をつついて見せる。
「とりさん、ごはん!」
外から声が聞こえてきた。
「リタ、遊ぼう!」
「カイルだ!」
リタが木の鳥を置いて立ち上がると、リーネも後を追った。
クララが扉を開ける。
外には男の子が二人と女の子が一人、立っていた。
先頭の男の子がリーネを見つける。
「その子、だれ?」
「リーネだよ! わたしのお友達!」
「リーネも、あそぶ!」
リーネが自分から三人の前へ出ると、リタが嬉しそうに紹介を始めた。
「こっちがカイル。バルトとエステルも!」
リタはそのままリーネを誘おうとしたが、ダリオが私に声をかけてきた。
「リュセル様。あの子たちはいつもリタと遊んでいる近所の子たちです。リーネ様もご一緒させてよろしいでしょうか」
イレナも私の返事を待っている。
「リーネが遊びたいと言っておる。好きにさせればよかろう」
「承知しました。私とマルタもそばで見ております」
「ああ。頼む」
私の返事を聞いたリタが、さっそく三人へ声をかけた。
「みんなで遊ぼ!」
「じゃあ、お宝探し!」
カイルが真っ先に答える。
「おたから?」
リーネが聞き返すと、もう一人の男の子が小さく頷いた。
「ぼく、石を持ってきたよ」
「バルト、今日はちゃんと隠してよね」
女の子――エステルが言うと、カイルが口を挟んだ。
「早く見つけた方が勝ちなんだからな!」
「まだ隠してないでしょ!」
「分かってるって!」
リタは二人のやり取りを気にすることもなく、クララへ尋ねた。
「お母さん、お庭で遊んでいい?」
「ええ。ただし、外の通りへは出ないでね」
「はーい!」
リタに誘われ、リーネも元気よく庭へ向かう。
私たちも子供たちの見える場所へ移った。
庭ではバルトが掌を開き、持ってきた小石を皆に見せている。
白くて平たい、親指ほどの石だった。
「これがお宝。ぼくが隠すから、みんな目をつぶってね」
「リーネ、こうするの」
リタが手で目を覆うと、リーネも両手を顔に当てた。
だが、リーネの指の間からバルトを見ている。
「見えてるよ」
エステルに言われ、今度は額まで手で覆ったが、目は丸出しのままだ。
隣のリタも目を開けて笑い、リーネの手を目のところへ下ろしてやる。
「ここ。ぎゅって閉じるんだよ」
「ぎゅっ!」
目を閉じた顔が、こちらまで向いた。
……私に見せてどうする。
バルトが庭の端でしゃがみ、立つより先にカイルが叫ぶ。
「もういい?」
「まだ!」
リーネはその声で目を開けかけ、慌ててまた両手を押し当てた。
何もしていない間もずいぶん楽しそうだ。
「いいよ!」
カイルが一番に飛び出し、エステルとリタも庭の端へ向かう。
リーネは両手を下ろすと、まず目の前の草のそばをのぞき込んだ。
先の三人は、地面に落ちている葉や、石の脇を探っている。
「ここにあった?」
リーネがリタに尋ね、リタは拾い上げた葉を裏返して見せた。
「ない。こっちも見てみよう」
「おれ、あっち!」
カイルは庭の奥へ駆けていき、落ち葉を次々にめくり始めた。
「バルト! 白い石、どこに隠した?」
「教えないよ」
「ちょっとだけ!」
「教えたら宝探しにならないでしょ」
「自分で探しなさいよ、カイル」
エステルまで口を挟み、カイルが頬を膨らませる。
そんな三人をよそに、リーネは草の根元にしゃがみ込んでいた。
小さな手で何かを拾い上げる。
「あった!」
掌に乗っているのは、茶色い丸い石だ。
バルトが近づき、リーネの拾った石をのぞき込んだ。
「それ、ちがう。宝は白いの」
「これ、たから!」
「ぼくが隠したのじゃないよ」
リーネは石を握り直し、リタへ差し出した。
「リタ、みて。まるい!」
「ほんとだ。ころころする」
リタの掌で転がしてから、リーネがまた受け取る。
そのそばで、カイルが白い石を見つけた。
「見つけた! おれが一番! 次はおれが隠す!」
「リーネも、かくす!」
リーネは茶色い石を掲げた。
「じゃあ、次はリーネのお宝を探そうよ」
リタが言うと、カイルはすぐに答えた。
「よし! おれが見つける!」
「わたしも!」
エステルも声を上げた。
リタ、カイル、バルト、エステルの四人が目を閉じる。
「リーネ、隠していいよ」
リーネは草のそばへ走り、石を置いて落ち葉をかぶせた。
端が見えていたので、もう一枚重ねる。
私を振り返り、唇の前に指を立てた。
「りゅー、しー」
「ああ。言わん」
リーネは落ち葉の前に座り込み、声を張った。
「もういいよ!」
カイルが真っ先に駆け寄る。
「そこだ!」
「ないの!」
リーネは落ち葉を両手で押さえた。
「リーネ、この葉っぱ、見てもいい?」
リタが尋ねると、リーネは手の下を見て答えた。
「……いいよ」
リタが落ち葉をめくる。
「あ、あった!」
「たから!」
リーネが石を拾い上げると、カイルが声をかけた。
「リーネ、もう一回隠して! 今度はおれが見つける!」
「うん!」
リーネは石を握り、また草の方へ走っていった。
隣でダリオが笑った。
「今日は、私たちが山になる必要はなさそうですね」
「……そうだな」
以前、木の馬を遊ばせるために二人そろって山にされたのを思い出す。
少し離れたところでは、マルタが庭を見つめていた。
「リーネ様が、あんなに大勢のお友達と……」
その先を言わず、目尻をそっと押さえている。
「リーネ様がリタ様と遊ぶ姿は何度も見てきましたが、今日はほかの子たちとも楽しそうですね」
イレナもそう言って微笑んだ。
いつになく嬉しそうな顔をしている。
「少し寂しい気もしますが、あんなに楽しそうだと、何も言えませんね」
ダリオが笑う。
「……こうして眺めているのも、悪くないな」
庭ではリーネが石を隠し終え、元気な声を上げた。
「もういいよ!」
カイルたちが一斉に駆け出す。
……あれだけはしゃいでいては、帰ると言っても素直に聞くまいな。
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