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【書籍化+コミカライズ進行中】人間嫌いのハイエルフ、父になる  作者: 小狐


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125/136

第125話 父親二人は、また話す

 ダリオ一家が居間へ入ってくると、リーネは私のそばから駆け出した。


 「リタ! 来た!」


 「リーネ、馬、持ってきたよ」


 リタが木の馬を見せると、リーネも自分の馬を取りに戻る。


 手紙を届けさせてから、リタはいつ来るのかと何度も聞かれたが、ようやくそれも終わりだ。


 リーネは自分の木の馬を、リタの馬の隣へ置いた。


 「いっしょに行こう」


 「うん。森まで行こう」


 「じゃあ、こっちが道ね」


 二人は椅子の脚の間を道に見立て、木の馬を並べて進ませ始めた。


 クララが私へ挨拶している間に、二頭はもう椅子の向こうまで進んでいた。


 「会いたがっていたのは、こちらも同じでした。お招きいただいて、ありがとうございます」


 「リーネが呼べと言ったからな」


 「来られてよかったです。今日はずっと、リーネのお家はまだかと聞かれていました」


 クララは子供たちのそばへ座り、椅子の脚を回ってきた馬へ道を空けてやる。


 私は少し離れた窓のそばで、ダリオと向かい合って座った。


 いつもなら娘の遊びにも付き合う男が、今日は椅子へ腰を下ろしてから口数が少ない。


 リタが馬を見せに来た時も、呼びかけを繰り返されてからようやく気づいた。


 「お前は、何か考え事か」


 「ああ……すみません。せっかく呼んでいただいたのに」


 「リタは遊んでいる。お前まで遊ばねばならんわけではない」


 ダリオは娘の方を見てから、私へ向き直った。


 「少し、ご相談してもよろしいですか」


 「何だ」


 「殿下なら、お子さんが、殿下の決めた道とは違う方へ行きたいと言ったら、どうなさいます?」


 「行かせる」


 「……即答ですか」


 「あの子の人生だからな。危険なら止める。できんことがあるなら手を貸す。だが、何をしたいかまで私が決めても仕方がない」


 「止めたくは、なりませんか」


 「何をしたいと言うかも聞かずに、決められるか」


 「それは、そうですね」


 見ると、二人は椅子の向こうへ回り込み、窓際まで木の馬を進ませていた。


 「ここが森ね」


 「うん。お馬さん、ここで休む」


 二人ともこちらを気にする様子はない。

 好きに遊ばせておけばいいだろう。


 「リタのことか?」


 「いえ。私の話です。父と、少し……うまく話せなくて」


 「お前の父親と、か」


 「はい。ロアナの件で、本家へ戻ってきました。それと、殿下。今回、私を推薦してくださったそうで、ありがとうございます」


 「推薦?」


 「辺境伯家の方から、殿下がフェルナー商会の名を挙げてくださったと伺いました」


 ロアナの話か。

 そういえば、商家を集める話をしていた時に、リタの父も商人だったと思い出して名を出した。


 「ああ。お前のところも入れておけと言った」


 「ありがとうございます。それで父に話しました。父はロアナへの参加自体には賛成です。ただ、本店で仕事を受けて、私には現地を任せるつもりでいます」


 「それでは駄目なのか?」


 「駄目ではありません。父の言っていることも分かります。本店の金も、人も、信用も借りることになりますから。そこへ父が関わるのは当然です。ただ……今回の仕事は、自分でやってみたかったんです」


 「自分で?」


 「はい。父から与えられた仕事ではなく、行商に出て、クララやリタと旅をして、その先でできた縁からいただいた話でしたから。もちろん、殿下に名前を挙げていただかなければ、うちへ話は来なかったでしょう。それでも、自分が中心になってやってみたいと思ったんです。ただ、父にしてみればフェルナー商会へ来た仕事ですから」


 「そうか。ダリオ、私はフェルナー家というより、お前を指名したつもりだぞ」


 「……私を、ですか?」


 「ああ。商家の名が必要だったからフェルナー商会と言っただけだ。ロアナはリーネの生まれた街だ。あそこにリーネと縁のある者が増えるなら、その方がいい。リタも、お前も、クララも同じだ。私はフェルナー商会がどれほど大きいのかも知らん。私が推薦したのは、お前たち家族だ」


 ダリオはしばらく何も言わなかった。


 「……ありがとうございます」


 「何がだ?」


 「いえ……。てっきり、フェルナー商会へいただいた機会だと思っていました」


 そういうことか。


 ようやく、ダリオが何を悩んでいたのか分かった。


 「それで……余計に、自分でやってみたくなりました。商会を継ぐつもりは変わりません。ただ、今回の仕事は、自分が中心になってやってみたいんです」


 「商売のことなら、私に聞くな。金をどうするかも分からん」


 「それは承知しています」


 「だが、前にお前は言っていただろう。リタには、自分の目で見て、自分で選べる人間になってほしいと」


 「……覚えていたんですか」


 「お前が言ったことだ。なら、お前も選べばいい」


 ダリオはすぐには答えなかった。


 「自分で言ったくせに……。リタのことなら、そう思えるんですけどね」


 「お前の父親も、お前に外を見てこいと言ったのだろう。見てきた話をすればいい」


 「話したつもりでした。でも、父が本店で受けると言ったら、任せてくれとばかり言っていました。何を借りられるか、どこまで任せてもらえるか……そっちの話ばかりになっていました。帰ったら、もう一度父と話してみます。今度は、できるかどうかより先に、私がやりたいと伝えてみます」


 「ああ」


 「聞いてもらえるかは、分かりませんが」


 「それは、私にも分からん」


 「そこは、はっきり仰いますね。では……また、こういう話をしてもよろしいですか」


 「好きにしろ」


 「ありがとうございます。次は、酒も持ってきます」


 「今日は飲まんのか」


 「飲み始めたら、帰りたくなくなりますので」


 「お父さん、こっちに来て!」


 リタが木の馬を抱えて呼ぶと、ダリオは椅子から立った。


 「どうした?」


 「森の次、山に行くの。お父さん、山になって」


 「私が山か」


 娘に言われるままダリオが床へ座ると、リタは木の馬をその膝へ乗せ、腿の上まで走らせた。


 リーネも自分の馬を抱えて、私のところへ来る。


 「りゅーも。山つくって」


 「私もか」


 「うん。リーネの山」


 私は椅子を離れ、ダリオの隣へ座った。


 リーネは私の膝へ木の馬を乗せ、そのまま腿の上まで登らせる。


 「リタ、こっちにも来ていいよ」


 「じゃあ、そっちの山行く!」


 ダリオが膝をこちらへ寄せる。

 私も足を寄せると、二人は二つの「山」をつなげて木の馬を行き来させ始めた。

読んでいただきありがとうございます。

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