↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化+コミカライズ進行中】人間嫌いのハイエルフ、父になる  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
122/135

第122話 リーネのそばにいる者

 大樹の家へ帰ったリュセルがルヴェンに託した手紙は、ハイエルネリア王国の王城へ届けられた。

 国王の私室には王妃と宰相も呼ばれ、三人でその内容を読んでいた。


 「勝手に決めおって、まったく」


 国王は手紙を机へ戻した。


 「人間の国へ話を通せと言ったら、交易を認める話までしてくるとはな。街の再建まで引き受けておる」


 「でも、それはいいわよね。リーネの生まれた場所なのでしょう? 荒れたままにしておくより、あの子が帰れる街になった方がいいわ」


 「街を一つだぞ。リーネのためなら、何でもよいと思っておらぬか、あれは」


 「あなたは、リーネが帰れる街を作ることには、反対なのですか?」


 国王が返事をしないうちに、宰相が口を開いた。


 「再建への支援は必要となりますが、人間との交易には我が国も利益を見込めます。国内では、使い道が足りず余っている品もございます。獣人族との交易は続いておりますが、取引先をそこだけに頼り続けるのは、長い目で見れば好ましくありません」


 「そなたが以前から言っていたことだな。では、ちょうどよい機会ではないか」


 「はい。ただ、売れるからと出せる限り出すわけには参りません。我々には珍しくない品でも、人間の国では王侯や大商会が争って求めることがございます」


 「余っているのなら、欲しい者へ売ってあげればよいのでは?」


 王妃の問いに、宰相はすぐには賛成しなかった。


 「一度に大量に渡せば、人間側の値段も商いも変わります。買えなかった者が奪いに来るかもしれませんし、他国が自分たちにも渡せと求めることもあるでしょう。我が国には余り物でも、向こうでは戦を起こしてでも欲しい品になり得るのです。何を、どれだけ出すかは、こちらで慎重に見定めなければなりません」


 「リーネの街へ、そんな争いを持ち込んでほしくはないわね」


 「そのためにも、我が国の者がロアナで暮らすことを、お考えいただきたいのです」


 国王は宰相へ続きを促した。


 「交易に携わる者だけでなく、再建に関わる職人や実務を担う者、その家族などもです。用が済んだら全員が帰るのでは、金と技術を出して、人間の国へ街を一つ作って渡すことになります」


 「なるほど。投げっぱなしになるのを止めるということか」


 「どういうこと?」


 王妃が国王へ尋ねる。


 「ロアナはローディネルの領土で、治めるのも向こうだ。そこはリュセルも変えるつもりがない。だが、我々の者が誰も住まず、人間ばかりの街になれば、こちらは援助をして終わりになってしまうだろう」


 「私たちの国の者にも、暮らす場所を作るのね」


 「はい。そこで暮らす者がいれば、我が国とロアナの関わりも一時の援助では終わりません」


 「それなら、リーネにも知っている顔ができるわ」


 「それもございます。ただ、問題はリーネ様のお立場です。リーネ様を正式に家人として迎えれば、人間であっても我が王家に属する方となります。その方を街の象徴として迎えるのでしたら、お側を人間側の者だけに任せておくのは危ういかと」


 「今も、人間の者たちがそばにいるではないか」


 「今の家には殿下とルヴェン様、精霊たちもおられます。リーネ様の周囲を人間だけで固めているわけではございません。しかし将来ロアナへ移られ、住民のほとんどがローディネルの者になれば、事情は変わります」


 王妃は笑みを消した。


 「リーネが困ることになるの?」


 「人間の国では、幼い者や王家に連なる者が、ご本人の意思にかかわらず担ぎ上げられることがございます。リーネ様が何も言っておられなくとも、あの方のためだと称して、人が集まり、自分たちの主張を通そうとするかもしれません」


 「リュセルは、あの子に政治をさせぬと書いている」


 「ご本人が政治をなさらなくとも、名を使う者は出て参ります。リーネ様のお側には、我が国の者もしっかり置くべきです」


 「だが、それをリュセルが認めるか? あれは、国の都合でリーネのそばへ人を送ると聞けば、嫌がるぞ」


 「今の暮らしへ人を加える必要があるとは申しておりません。これから作る街の話です。正式に我が王家へ迎えた方を、人間だからという理由で人間側だけに任せれば、後から我々が関わろうとしても、なぜ今になって口を出すのかと言われかねません」


 「……そうだな」


 「リーネを取り合うようなことには、しないでくださいね」


 王妃の言葉を受け、国王は手紙を下ろす。


 「そこは私がリュセルを説得しよう。そばに置く者の話なのだから、あれに黙って進めるわけにもいかん」


 宰相が礼を取ると、国王は侍従に便箋を用意させた。

 息子への返事には、再建と交易の話に加え、ロアナで暮らすエルフについても書き添えていく。



 ◇



 大樹の家では、リーネが居間にいる私のところへ来ていた。


 「りゅー、そと、いこう」


 後ろにはルヴェンと、四体の家付き精霊がいる。

 外へ行く相手は、もう集めてきたようだ。


 「私はマルタたちと話がある。今日はルヴェンたちと遊んでこい」


 「あとで、くる?」


 「話が終わればな」


 「じゃあ、まってる。ルヴェン、いこう」


 『はい、リーネ様。主、私がついております』


 ルヴェンに伴われ、リーネは精霊たちと外へ出ていった。

 戸の向こうから、遊び相手を呼ぶリーネの声が聞こえる。


 私は居間に残った四人へ、辺境伯と話したロアナのことを伝えた。

 街を再建し、ハイエルネリアとの交易の窓口にする。

 リーネが人間の社会へ出たいと望んだ時に、行ける場所にしておく。


 「街を治めるのは人間側だ。リーネに政治をさせるつもりはない」


 「それでしたら、今すぐ何かを教えなければならないわけではございませんね」


 マルタの言葉に頷くと、イレナが尋ねてきた。


 「では、いずれは私たちも、ここからロアナへ移るのでしょうか」


 「いや。私はこの家から、街へ住み移るつもりはない。向こうで暮らすとすれば、将来のリーネだ。あの子が行きたいと選んだ場合の話だが」


 セラが、戸の方を振り返った。


 「リュセル様は、ここに残られるのですか」


 「ああ。街が形になるまでには、何年もかかる。その頃にはリーネも、今とは違う。学ぶことも増え、人間の暮らしを自分で見て、何がしたいか考え始めるだろう」


 今は外へ遊びに行くにも、私を誘いに来る。

 だが、この前は私の名前札がないことに気づき、自分で一枚作って、帰った私へ渡してきた。


 「ロアナで暮らしたいと言うなら、そこで自分で考え、決めることも覚えねばならん。私が全部決めていては、自分で選ぶことを覚えられん」


 マルタが、私へ尋ねた。


 「けれど、リーネ様がお望みになれば、ご一緒に行ってくださるのですね」


 「それは変わらん。必要なら一緒に行く。困れば私を呼べばいい。私まで住み移る必要はない」


 「……そういうお考えでしたか」


 イレナは答え、マルタも頷いた。


 だが、セラは私の方へ身を乗り出してくる。


 「でも、それではリーネ様が寂しがってしまいます。起きた時にリュセル様がいないだけでも、あれだけ気にしておられたのですよ。知らない街で、一人で暮らすなんて……」


 「お姉ちゃん」


 ニナがたしなめたが、セラは引かなかった。


 「だって、寂しいでしょう。帰っても誰もいなかったら、かわいそうです」


 「何を勘違いしている。行かないのは私だけだ」


 セラが、乗り出していた姿勢のまま止まった。


 「お前たちは、リーネのそばにいてやれ」


 四人が顔を見合わせる。



 ◇



 その後、辺境伯からの連絡を受けたイレナが、私のところへやってきた。


 「リュセル様。ギルベルト様が、王家から前向きに進めるとの返答を得られたそうです。ロアナの件で、改めてお話をしたいと」


 「そうか」


 「辺境伯閣下には、いつこちらへ来ていただきますか?」


 「面倒だ。今行こう」


 「……またですか」


 「行くぞ」


 イレナは戸のところでマルタへ留守を頼み、私について外へ出る。

 私は《蒼穹渡り》でイレナを伴い、そのままヴァルネへ向かった。


 辺境伯邸の中庭へ降り立つと、近くにいた兵士がこちらを見て立ち止まった。

 通りかかった使用人も驚き、私に気づいた別の者が慌てて頭を下げる。


 「リュセル様がいらっしゃいました。すぐに貴賓室の準備を」


 イレナは動き出した使用人を見送ると、今度は私を見た。

 前にも、ここで行く手を塞がれている。


 「分かっている。十五分待つ」


 私は貴賓室へ向かって歩き出した。


 「……せめて、案内を」


 「場所は覚えている」


 後ろでイレナが息をつき、すぐに別の方向へ駆けていく。



 ◇



 執務室にいたギルベルトは、扉の外から呼ぶイレナの声で顔を上げた。


 「どうした。殿下のお返事か?」


 「リュセル様がいらっしゃいました。貴賓室でお待ちになります」


 「……またか。ロアナの件だな。こちらから出向く日を決めるつもりだったのだが」


 ギルベルトは椅子を引いて立ち上がる。


 「今行くと仰いまして。十五分は待つそうです」


 「家宰と、ロアナの件で話をしている者たちを呼べ。急ぐように」


 扉に控えていた者が駆け出すと、ギルベルトも書状を手に部屋を出た。

 廊下で集まった主要な家臣を伴い、貴賓室へ急ぐ。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。