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【書籍化進行中】人間嫌いのハイエルフ、父になる  作者: 小狐


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第106話 リーネの荷物が多すぎる

読んでいただきありがとうございます。

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 市から王城へ戻る間も、リーネはエリルから預かった布の球を抱えていた。


 片腕でリーネを支えたまま王城の廊下を進み、私たちに用意された客室が見えるところまで来る。

 そこで、扉の前に見覚えのない木箱が並んでいるのに気づいた。


 大きさの違う箱が壁に沿って積まれ、その横には幼児用の小さな椅子まで置かれている。

 晩餐でリーネが使っていたものと、よく似た椅子だ。

 扉の前だけではない。

 開いた扉の向こうにも箱の端が見えている。

 私たちの客室へ運び込むにしては、明らかに量が多い。


 後ろを歩いていたイレナたちも、増えた荷物の前で立ち止まった。


 「これは何だ」


 扉のそばに控えていた侍従が答えるより先に、部屋の中から母上が出てきた。


 「ちょうどよかったわ。今、リーネに持たせる物を選んでいたの」


 「帰る日は、まだ決めていない」


 「決めてから始めたら、あなたはその日のうちに出ると言い出すでしょう」


 「…………」


 否定はできなかった。


 母上に促されて部屋へ入ると、卓の上にも蓋を開けた箱があった。

 中には、小さな深皿と匙、持ち手のついた器が布に包まれて収められている。

 寝台の近くには、リーネがこの部屋で使っていた敷物と寝具がまとめられていた。


 「大樹の家にも、同じ物はある」


 「ええ。マルタから聞いています」


 母上は私へ答えながら、小さな器を一つ手に取った。

 縁は厚く、持ち手もリーネの手に収まる。

 飾るための品ではなく、初めから使わせるつもりで選ばれた物だった。


 「でも、これは私たちがリーネに持っていってほしい物よ」


 マルタが器を受け取り、持ち手を握ってから卓の上へ戻す。


 「普段にも使えそうです。リーネ様も、こちらへ来てから何度か使っておられます」


 母上は満足そうに頷き、腕の中のリーネへ笑いかけた。

 リーネは話の内容より卓上の器をじっと見て、球を片腕に抱えたまま、空いた手をそちらへ向けている。

 見慣れた形だと分かっているのかもしれない。


 「これだけの量は要らない」


 「あなたの収納空間に入るでしょう?」


 「入るが、家で使う場所まで増えるわけではない」


 「使わない間は、入れておけばいいのです」


 何のための収納空間だと思っているのだろうか。

 私が持つ空間に上限はないが、必要のない物まで入れるために使ってきたわけではない。


 そう言おうとした時、廊下から父上の声が届いた。


 「それだけではないぞ」


 父上が部屋へ入り、その後ろから侍従たちがさらに箱を運んでくる。


 「父上まで何をしている」


 「私の分を持ってきただけだ」


 父上は悪びれる様子もなく、運ばれた箱の一つを開けさせた。

 中に重ねられていたのは、大きさも厚さも異なる本だった。

 開かれた一冊には、森の木々や鳥、角のある動物が大きく描かれている。


 「今は絵を見るだけでよい。字を覚えた後に読む物も入れてある」


 「多すぎる」


 「本はいくらあっても困らん」


 父上が選ばせたのは、リーネの手でも頁をめくれる大きさの物だけではない。

 絵だけの物もあれば、一言ずつ文字が添えられた物や、文字を覚えた後に読む物も入っている。

 箱をのぞけば、今のリーネだけを見て集めたのではないと分かる。


 続いて、侍従が箱の向こうから小さな机と椅子を運び入れた。

 同じ物が、もう一組ある。


 「なぜ二組ある」


 「一組は持ち帰ればよい。もう一組は、次に来た時のために王城へ置いておく」


 父上は当然のことのように答えた。


 「次に来た時も、リーネが同じ大きさだと思っているのか」


 父上の目が、小さな椅子から私の腕の中へ移る。


 「違うのか?」


 「私が前に戻ったのは四十年前だ。次も同じだけ空けば、椅子どころではない」


 父上の眉がわずかに動いた。


 「次は、そこまで空けるな」


 それは家具の話ではなかった。

 私は返事をせず、父上が見ていたリーネへ目を落とした。


 「人間の子は、すぐに大きくなるわ」


 母上が横から補った。


 「以前届けた服も、あの時は大きかった一着が、今はもう合っていますもの」


 父上は小さな椅子の背へ手を置き、腕の中のリーネを見た。

 長命のエルフにとって数年は大きな違いにならないが、リーネには違う。


 この椅子を使える間も、私たちが思うより早く過ぎるのだろう。


 「では、こちらの一組は今使わせればよい」


 父上が決めると、私は頷きかけた。

 しかし、父上の言葉には続きがあった。


 「王城には、その次の大きさも用意しておこう」


 「増やすな」


 「絵本を収める棚もあった方がよいわね」


 「母上まで何を言い出す」


 先ほどまで父上へ人間の成長を教えていた母上が、もう置き場所を考え始めている。

 父上も机の横なら邪魔にならないと応じ、二人の間では、私が止める前より話が進んでいた。


 「そこまで用意する必要はない。二人とも過保護すぎる」


 母上が口を閉じ、私を見た。


 背後では、セラが何かを言いかけて息を吸い、その袖をニナがつかんでいる。

 マルタは何も言わなかったが、わずかに口元を緩めた。

 イレナまで、並んだ荷物ではなく私を見ていた。


 「その言葉を、あなたが言うの?」


 「私とは違う」


 「どこが?」


 私は旅へ出る前、リーネのために乳と着替えを用意し、布や寝具も収納空間へ入れた。

 道中で野営することになった時は、地面へ寝かせるわけにいかず、一夜のために木の家も作った。


 どちらも必要だったからだ。


 「私が用意した物は必要だった」


 「ええ。私たちにとっては、これが必要なのよ」


 同じではない。

 そう返すはずだったが、背後から小さく聞こえたセラの声が先だった。


 「一晩のために家まで建てた人が言うの……?」


 私が振り返ると、セラが口を閉じる。

 ニナは姉の袖をつかんだまま、巻き込まれないよう半歩だけ離れた。


 その間に、リーネが腕の中で身体を動かした。

 床へ下ろすと、布の球を抱えたまま、開いた箱の方へ歩いていく。


 目当ては、父上が用意した本だった。


 リーネが絵の見える一冊へ手を伸ばすと、父上は先に取らず、届くところまで待った。

 小さな手が表紙へ触れ、そのままリーネが床へ腰を下ろすと、父上も隣へ膝をついた。


 父上が本をリーネの膝へ載せて最初の頁を開くと、リーネは描かれた鳥に触れた。

 もう片方の腕と腹の間には布の球を挟んだままで、床へ置けば両手が使えるはずだが、手放そうとはしない。


 父上が頁をめくると緑の森が現れ、リーネの指が枝から枝へゆっくり動いていく。


 「気に入ったようだな」


 父上の声が、先ほどより明るくなった。


 「まだ絵を見ているだけだ」


 「最初はそれでよい。残りも持っていけ」


 リーネが選んだのは一冊だけだが、父上にとっては、箱ごと渡す理由として十分だった。


 結局、私はリーネが開いている一冊だけを残し、客室に積まれていた箱と、持ち帰る方の机と椅子を収納空間へ収めた。


 これで終わりかと思ったが、侍従が隣室の扉を開く。

 そこにも、まだいくつか箱が並んでいた。


 「…………」


 これ以上増やされる前に、帰る日を決めておく必要がある。


 父上が次の頁を開くと、リーネは布の球を抱えたまま、また絵へ指を伸ばした。

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