第三篇 中洲の談判
第三篇 中洲の談判
1255年の冬、三国の兵は川を挟んで動かず、使いだけが川を渡った。二人の王が応じる旨を返したのち、王は会う場所と日を使いで伝えた。場所はオルデ川の中洲、日は年が明けた花冠の月の十六日である。この使いも文を持たず、前の年の使いと同じ者が同じ道を行った。中洲は川の真ん中にあって、どの国の岸にも属さない。舟で渡るほかに行く道がなく、兵を上げる広さもない。王がこの場所を選び、二人の王はそれを受けた。聖燭の月のあいだに、三国はそれぞれ川岸の陣から兵の半分を引き、残した兵は陣を動かさなかった。
花冠の月の十六日、王は中洲に卓一つと椅子三つを置かせ、天幕を張らせなかった。三十七歳になる年である。サルメアの王ロデリクは三十九歳、人質の三年を同じ学士のもとで過ごした人である。リンドガルの王ギュンテルは四十八歳、口数が少なく、橋と水路のことに通じた王であった。二人の王はそれぞれの岸から舟で渡り、従者も通詞も書記も岸に残した。王もまた従者を岸に残し、一人で舟を降りた。王が被っていたのは父レオドール二世の冠である。王は冠をつけることを好まず、式典以外ではつけなかったと伝わるが、この日は被っていった、と伝は記している。両岸には兵が並び、夜は篝火が焚かれた。兵は昼は岸に立ち、夜は篝火のそばで中洲を見ていた。食と水は日に二度、舟で運ばれて卓の脇に置かれ、運んだ者は言葉を交わさずに戻った。三国の舟が代わる代わる運び、どの国の舟が運ぶかは日ごとに替わった。三日のあいだ、三人の王は中洲を離れなかった。雨が一度あった。天幕がないので、三人の王は雨の中に座っていた。両岸の兵も雨の中に立っていた。
三日三晩、三人の王は語り合った。その中身は、三人の王のほかに知る者がない。通詞も書記も岸に残されていたので、聞いた者はなく、書いた者もない。王達は談判の中身を終生語らず、伝を記した史官が問うたときも答えなかった。三日のあいだに両岸から見えたのは、三人が卓に着いていること、立って川を見ていること、夜は篝火の明かりに三つの影があることだけで、声は川の音で岸には届かなかった。
四日目の十九日の朝、二人の王が自らの剣を卓の上に差し出し、交差させた。王は冠を外し、刃の交わりの上に置いた。そののちサルメア王とリンドガルの王が跪き、臣下の礼を下のであった。両岸の兵すべてがそれを見ていた。伝はこう記す。王、冠を刃の上に置き、二王臣下の礼をなし、両岸の兵ことごとくこれを見る。三人の王はその日のうちにそれぞれの舟で岸に戻り、両岸の兵は陣を払った。三年のあいだ川を挟んでいた兵が、ひと月のうちにみな国へ帰った。百年の争いに数えれば、1151年の堰から百五年目のことである。戦はこれで終わった。
国章はこの朝の形から取られた。交わる二振りの剣をサルメアとリンドガルとし、束ねる冠をアルデンとする意匠で、のちに銀貨の裏にも刻まれるようになった。
青葉の月から実りの月まで、二人の王はそれぞれの都で家の者と諸侯を集め、中洲で決めたことを伝えた。サルメアでもリンドガルでも、中洲の談判を認めない声があったと伝は記すが、二人の王はこれを押さえた。王はアルデンの都に戻り、戴冠の支度をした。刈入れの月、王都の城丘の下の大広場で、王は一つの国の王として冠を受けた。冠は中洲で刃の上に置いた父の冠である。広場には王都の民のほかに、サルメアとリンドガルの諸侯が初めて並び、二人の王は王の左右に立った。国の名はオルデンナと定めた。川の名である。アルデンの名でも、サルメアの名でも、リンドガルの名でもない名を、王は選んだ。三年の戦に勝った国の名を、国の名にしなかったのである。冠を受けた王は広場の民に向かって語った。伝が全文で収めるただ一つの演説で、その中ほどの一節はこうである。我らは長く剣で語り合い、血で贖い合う悲しむべき歴史を紡いできた。これよりは一言を掛け合い、語り合って歴史を作る。今日ここより、我らは一つの家族である。家族のあいだには、諍いがあろうとも剣も血も要らず、一言があれば足りる。
同じ月、三家の最初の評定が王都で開かれた。サルメアの王とリンドガルの王は、これより公と呼ばれる。王家は三つのまま残り、二人の公はそれぞれの旧領を治めた。中洲で使いが口で伝えた三つのことは、こうして三つとも守られた。評定のことは次の篇に記す。
堰のことを、ここに書いておく。ウルの湖の堰を得て壊さなかった理由を、王は戦のあいだ誰にも言わなかった。戴冠ののち、老将ブレムが王に、なぜあのとき堰を切らなかったのか、と問うた。王は、水はいずれ一つの国のものになる、と言った。堰を切れば、リンドガルの湖の水をアルデンが落としたことになる。壊さなければ、三国の水を一つの国が分けたことになる。伝はこの答えを、王が戦の二年目にすでに一つの国を見ていた証として記す。
統一の年、王は三十七歳だった。これより二十二年、王は一つの国を治める。




