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幼馴染3人は呪いを解きたい! #1「異常」

 レイラ直筆の依頼書を持った一同が、目撃情報と調査隊の報告にてウッドマンの出現が確認されたデール街道付近の森へ行く道すがら、レオナルドがふと三人に話し掛けた。


「そう言えば、まだお互いの役職(ポジション)を共有していなかったな。俺は魔剣士なんだが、そっちはもう決めてるのか?」


 レオナルドの問い掛けに、三人は首を横に振った。


「まだ決めていないんです」


「取り敢えず未定にしておいて、色々試してみてから決めようかと思って」


 レイ、アスランがそう答えると、レオナルドは「そうか」と懐かしむように微笑む。


「なぁ、あんまよく知らねぇんだけど、役職(ポジション)ってどんなのがあるんだ?」


 エラルドの質問に、レオナルドはそれまでの微笑みに少しの得意さを滲ませる。


「いいだろう。説明するから、よ〜く聞いておくように。と言っても、殆ど名前通りだから、特別教えることもないんだが」


 先輩らしく講釈を垂れてやろうという考えが表れた笑みは、コロりとはにかみに近い笑顔に変わった。


「冒険者の役職(ポジション)は基本四つ。刃闘士(じんとうし)、拳闘士、盾闘士(じゅんとうし)、魔法士だ。そこから派生したものとして、魔剣士、回復術士、転移術士などが存在している。因みに、刃闘士は剣使いだけでなく、槍使いやら斧使いやら刃のついた武器を使って近接戦闘を行う者全般を指している」


「盾使いはどうして盾闘士っていう名前なの?」


 アスランがレオナルドの説明を聞いて疑問に思ったことを尋ねた。


「それは、盾闘士が盾で味方を敵の攻撃から守る役割を担っているのと同時に、盾を武器として使って刃闘士と共に近接戦闘に参加することがあるからだな」


 レオナルドの返答にアスランは「ほえ〜」と間の抜けたような嘆声を出す。


「お、そうこう言ってる間に見えてきたな。あれが件の森だな」


 前方を見てもうまもなく目的地だと気づいたレオナルドが、三人に森を指さして呼び掛けた。レオナルドの示す方へ三人が注意を向けた先には、街道の外れに青暗く草木が群生する、どことなく気味の悪い森が広がっていた。


★


ーアルキウス帝国 デール街道付近の森


「この辺りだったよな? ウッドマンが出たってのは」


 周囲を見渡して警戒するエラルドは、ペタペタと目につく木を触りながら問い掛ける。


「その筈なんだが、それらしいのは見当たらないな」


 進行の邪魔になる鬱蒼と生えた草やツタを、剣で斬ったり掻き分けたりして探索をしているレオナルドも、怪訝な顔をしてそう答える。一同が悩み考え込んでいると、霧が出始めた。


「まずいな、霧が出始めた。視界が悪い中で脅威度の高いモンスターを探すのは危険だ。一旦出直した方がいいな」


〔なぁ、この霧、何かおかしくねぇか?〕


 異常を感じたエラルドが、通信の魔法を使ってアスランとレイに話し掛ける。


〔うん。ここ一週間雨なんか降ってないし、殆ど風もないのに拡散がびっくりするほど速い。色も濃いし〕


〔どこからともなく現れて直ぐに周囲を包み込む霧。似ていますよね。魔力や気配といった存在感を隠す霧を出す魔法、隠匿霧(べレグ・ステード)に〕


 自身らを取り巻く状況を冷静に分析する三人は、それに類似する最も可能性の高いであろう魔法に辿り着いていた。


「三人とも大丈夫か! 近くにいるな?」


 まだ駆け出しの冒険者であるアスランたち三人を心配し、レオナルドが声を張って安否を確かめる。しかし、三人はレオナルドの張り上げた大きな声に対し、同時にまずいと思った。もしもこの霧が、レイの読み通り隠匿霧(べレグ・ステード)であるならば、自分の位置をアピールするこの行動は命取りとなるからだ。すぐさまレオナルドの元へと集まろうとしたが、敵はそれよりも先に動き始めていた。ガサガサと茂みを抜ける足音のようなものが聞こえたかと思うと、人型の影が三人の目の前を横切ったのが見えた。


「レオナルドさん! 敵襲です!」


 レオナルドを取り囲もうとしているのではないかと考えたレイが、迎撃体勢を取らせるべく声を上げる。それこそが、敵の本当の狙いであるとは知らずに。


「レイ! こいつらの狙いは僕たちだ!」


 茂みを抜けた何かに自分たちの方が囲まれていたことに気付いたアスランが叫んだ。その声でレイがハッと振り返ると、濃霧の中で複数の人らしき形の影が蠢いているのを視認した。そして間もなく、三人の方へ太い枝らしきものが迫ってきていた。三人は障壁を作る魔法で防御を試みる。しかし、ウッドマンから放たれた攻撃は、アスランたちの展開した障壁をいとも容易く打ち破った。


〔なっ! 嘘だろ!?〕


 自分の防御を正面から破られたことに、エラルドは驚嘆するも、すぐに身を翻して回避した。


〔私やエラルドの障壁だけでなく、一番魔力の多いアスランの障壁まで破られるとは〕


 攻撃の射線外へ飛び退いたレイが、同じく回避を余儀なくされたアスランの方を見て顔を顰める。


(魔法の強度は、その魔法の術式に込める魔力の量で決まる。


 ええ、天の声ですが、何か?


 魔法は術式に込める魔力の量でその強度が変動する。つまり、同じ魔法でも、使い手の魔力の操作能力や魔力の絶対量によって、その威力や規模は全く別物になるのである。極論、ごく少ない魔力しか込められていない大規模魔法よりも、極限まで魔力を込めた基礎魔法の方が強力であることもあるのだ。因みに、三人の中で最も魔力量が多いのはアスランである)


〔攻撃を受けた瞬間、障壁に込めた魔力が幾らか離散して薄くなっちゃったのを感じた。単に破壊力に優れてるってだけじゃなくて、何か仕掛けがあるみたいだね〕


 話を聞いた二人は苦笑した。自分たちは殆ど初めての出来事に戸惑っていたというのに、ただ一人の天才はたった一度攻撃を受けただけで何が起こったのかを分析し、理解していた。


〔魔力の密度を下げる攻撃ですか。聞いたことがありませんね〕


〔呪術でも掛けられたか?〕


〔いえ、ウッドマンは確か呪術を使えない筈です。それほどの知能を持ち合わせませんから〕


(この世界には、魔法の他にも不可思議な術法が複数存在する。


 はーい、そろそろ鬱陶しいかもしれませんが、天の声です。


 この世界には、人間が使える魔法の他に四つの術法が存在している。神界に住む神族の司る神術、神術から派生して作られた精霊術、魔界に住む魔族の操る魔術、そして、種族に関係なく行使できる呪術である)


 と、レイがここまで言った時点でアスランはあることに気づいた。


〔待って、じゃあこいつら何で僕らを狙えたの?〕


 二人が怪訝な顔を見せる中、アスランは続ける。


〔知能の低いモンスターは獣と同じで、手負いみたいな集団の中で一番狩りやすそうな弱い相手を本能的に優先して攻撃するよね?〕


 そこまで言って、二人はアスランの言いたいことを理解し、それぞれ反応する。


〔なるほど、確かにおかしいですね〕


〔ああ、俺たちは全員手負いでもねぇし、ビクついてるわけでもねぇ。身体のデカさもそれなりだからガキには見えねぇだろ〕


〔だとすると、彼らが私たちを弱者であると解釈した理由は、恐らく⋯⋯〕


〔言葉〕


 三人の声がピッタリと揃った。レオナルドの三人に気を配るような発言が、彼らが集団の中で弱い存在であると判断する最も有力な材料であったという見解が三人の中で一致した。そして、もし本当に四人が対峙しているウッドマンたちが人間の言葉を理解できるのならば、それはある一つの事柄が根底から覆ることを意味している。


〔なら、こいつらは一体何なんだ?〕


〔ウッドマンでは持ち得ない筈の知能を持っているから、ウッドマンの上位種って言いたいところだけど、ウッドマン自体がトレントの上位種だからそれはないよね〕


〔ええ。それに、調査団が持ち帰ったという枝はウッドマンの物だと鑑定されていました。だとしたら、考えられる可能性は・・・・・・・〕


 鑑定魔法の正確率は99%である。但し、この数値は何らかの理由により不具合等が発生する可能性を考慮したものであり、過去に鑑定魔法が外れたことはない。絶え間のない猛攻を回避しながら通信魔法で器用に会話をしている三人は、当然そのことを知っている。しかし、分析と会話に夢中になり過ぎていた三人は、ウッドマンたちの策略に気づけなかった。


(・・・・・・! しまった!)


 三人は自分たちの背中がピタリと合った瞬間、初めて自分たちが誘い込まれていたことに気がついた。そして、まんまと一点に固まってしまった三人の周りは、既に枝攻撃によって包囲されていた。防御は無意味、枝は自分たちの急所を的確に貫くように迫ってきている。空へ逃れようとしても、霧のせいで視界が悪く、その上森の中では木々に衝突する危険があるため飛行魔法を使えない。感情が荒く渦巻く胸中でグッと歯を食いしばる。


「その場に伏せろ! レイ! アスラン! エラルド!」


 絶体絶命の窮地に立たされた三人に叫んだのはレオナルドだった。三人は躊躇いなくその指示に従う。


「焦熱斬!」


 三人が自身の視界から消失したことを確認したレオナルドは、魔法で作られた炎の斬撃を繰り出した。放たれた斬撃はその場の大気を焦がしながら滑空し、包囲陣を形成していたウッドマンたちを全て焼き切った。


「大丈夫か! 助けが遅くなってすまなかった」


 駆け寄ってしゃがみ込み、まず一番近くにいるエラルドとアスランの手を掴んで引っ張り起こし、その次にレイに手を貸した。全員を立ち上がらせると、レオナルドはまた話を始めた。


「本当にすまなかった。自分で引率を名乗り出ておいて、三人を危険に晒してしまったな」


 気まずそうな、バツの悪そうな苦い表情で謝罪し、ある可能性について語り始めた。


「それと、変異種がいるかもしれない」


 真剣な面持ちで告げたレオナルドの推測は、ウッドマンたちに包囲される直前に、三人が辿り着いた可能性と合致していた。

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