幼馴染3人はクエストを受けたい! #4「ギルドマスターと最高ランクの冒険者」
ー帝国冒険者ギルド ギルドマスターの執務室
階段で二階に上がってすぐに左手側へと曲がると、真っ直ぐ長い廊下の突き当たりに、二枚開きの大きな扉が見えた。扉の前まで行くと、レオナルドはゆっくりと三回ノックした。しかし、部屋の内側からは何の反応もなく静まり返っている。レオナルドは少し顔を歪ませると、小さく深呼吸をして扉を勢いよく開けた。
「ギルマス!!」
レオナルドは威勢よく呼びかけて室内へ入る。一方、アスランたちは部屋を覗いた瞬間からギョッとして言葉を失っていた。なぜなら、何かの書類や資料と思われる大量の紙や本などが、部屋中に散乱していたからである。レオナルドは惨状の広がった部屋の中を散らかっている物を踏まないように気をつけながら、デスクの上に積み上げられた物品の山の中で眠りこけている人物を叩き起す。
「ほらいつまでも寝ていないで、早く起きろ。人のことを呼び出しておいて爆睡しているんじゃない!」
腕枕に頭を沈め込むようにして眠っていたその人物は、レオナルドに強く揺さぶられて目を覚まし、やがてのそっと気だるげに起き上がると、大きな欠伸をして話し始めた。
「ごめんごめん、昨日の夜ずぅっと調べ物したり、報告書まとめたりしてて全然寝る暇取れなくてさ。忙しくしてたらアンタを呼び出したことなんてすぅっかり忘れちゃって。ようやく一段落着いて気を抜いたら、寝落ちしちゃってさ」
眠気と疲れを孕んだぼんやりした口調であるものの、レオナルドにギルマスと呼ばれるその女は、後頭部をなぞるように軽く掻きながら、「ニッヒヒ」と歯をむき出して陽気に笑ってみせる。
「はぁ、まあいい。それで? 要件は何だ?」
反省の色が見えない女の態度に小さくため息を吐くと、同じように後頭部を軽く掻いて、自分を呼んだ訳を尋ねた。
「ああ、その事なんだが」
訊かれた瞬間、先程までの柔らかな雰囲気をしまい込むように真剣な表情を見せ、ギルドマスターとしての威厳を示すように姿勢を直した。
「実はな、またしても強力な上位種のモンスターが出現した。今度は帝都からルーベリーへと繋がるデール街道付近の森の中だ」
「その情報は確かなのか? もし事実なら、かなり面倒な位置に出現していることになるが」
「ああ、報告を受けた後に調査隊を派遣し、その調査隊がモンスターの身体の一部を持ち帰った。これだ」
そう言ってギルドマスターの女は、山積みになった資料や紙束の中から、木の枝のようなものを取り出し、レオナルドに差し出した。
「トレントの枝に似ているが、上位種ということは」
「調査隊の報告では、この枝の持ち主は人の形をしていたらしい。そして、その枝を魔法で鑑定した結果、それからはウッドマンの魔力が検出された」
「やっぱりか」
「それで? 今度はこっちからの質問に答えてもらおうか。アンタの後ろにいる、信じられないものでも見たような顔の半置物状態の三人組は誰だ?」
完全に連れてきていたことを忘れて話し込んでいたレオナルドは、問い掛けと同時に指された指の先を見るなり、しまったという顔をした。自分で連れてきておいて置き去りにしては人のことを言えないと、レオナルドは一人静かに内省する。
「すまない。こちらに来て事情を話してくれないか」
レオナルドが呼びかけると、三人は先程のレオナルドと同じように、足元に散らばった書類や資料を踏まないように気を遣いながらギルドマスターの元へとやってきて、事情を説明した。
「なるほど。事情は分かった。つまりレオは、上位ランク冒険者の引率による、制限対象ランクのクエストを受けさせようとここへ連れてきたわけだな」
「そうだ。俺が同伴すれば、駆け出しの三人でも基本どのランクのクエストも受けられるだろう」
(冒険者の受けられる依頼、いわゆるクエストには、対象ランクが設けられている。
こちらも殆ど置き去りにしていました、天の声です。
冒険者は原則、自身と同ランクか、それよりも低い対象ランクのクエストを受けられる。自分のランクよりも上のクエストについては、その冒険者または、パーティの実力次第で、二つ上の対象ランクのクエストまでを受注できる。つまり、Fランクの冒険者が受けられるのは、FからDまでの対象ランクのクエストのみとなる。但し、現段階のランクでは受けられない高ランクのクエストも、そのクエストの対象ランクよりも三つ以上上のランクにある冒険者一名以上の引率があれば受注できるのである)
「なら、この枝の持ち主を討伐してきてもらいたい。ウッドマンの脅威度はA+だ。アンタなら初心者を守りながらでも倒せるだろ? なんてったって、このレイラ様が認めた男、冒険者の頂点たるSSSランクの冒険者なんだから」
レオナルドの顔が歪んで、そして緩んだ。彼にとっては慣れきったいつも通りの無茶ぶりだった。
「というわけなんだが、構わないか?」
三人の方を振り向いて意向を確認すると、三人は顔を見合わせて頷き、承諾した。
「んじゃあ、依頼書にまとめちゃうからさ、ちょっと待っててくれよ」
素の口調に戻したレイラは、積み上げられた紙の山から無造作に一枚引っ張り出すと、あれ? という顔をした。そうして、また一枚、また一枚と引っ張り出しては同じようにおや? という顔をする。呆れ果てたレオナルドは、紙の山を上からいくつかの塊に分けて、白紙の依頼書を探し始めた。ごちゃ混ぜになった書類の坩堝の中からようやく依頼書を見つけ出したのは、十分後のことだった。




