幼馴染3人はクエストを受けたい! #3「ハプニング」
登った時と同じ階段を下りて、四人がカウンターまで戻ってくると、アリシアは早速クエスト一覧をパラパラとめくり始めた。
「・・・・・・えぇと、非常に申し上げにくいのですが、ないです、クエスト。現状の御三方のランクで受注できるクエストが一覧に一つも載っていません」
全員が沈黙し黙り込む。呆然としていると最初に口を開いたのはエラルドだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ないって、そんなわけねぇだろ? 何か一つくらい、薬草採取とかでもさぁ、何か、何かあるだろ?」
全く予想にもなかった出来事に対し、必死で問いかるのも虚しく、アリシアは残念そうな表情で首を振る。
エラルドはリストを自分の方へ向け直し、自分の目でクエストを一つ一つ注意深く見つめる。しかし、現実は非情であった。あるのは高ランク指定のモンスターの討伐依頼や護衛依頼ばかりであった。"なんでこんなことが"と項垂れていると、ギルドの扉が開き、若い男がカウンターへ向かって歩いてきた。
「あれ? ギルマス一階にいないのか? なあ、受付の、ってあれ? 見ない顔ばっかりだな。全員新入りか?」
ワインレッドのやや短めの髪が映える、青みがかった紫の瞳を持つ色白の男の胸元には、首から提げられた黒いライセンスカードが艶々とした光を反射している。
「今日冒険者になったばかりで、早速クエストを受けようと思ったのですが・・・・・・」
「あ〜、今は低ランク冒険者が受けられるようなクエストはなかっただろう? 時期が悪かったな」
後頭部を上下になぞるように掻きながら、気の毒そうに伝える。
「時期? 何かあったのですか?」
何か事情を知っている風な男の口振りに、レイヴンは情報を収集するべく質問を投げ掛ける。
「ああ、四日くらい前に、ウォールヴァリアの方でアースドラゴンが十五体出現するっていう異常事態が起きて、九賢将が派遣された話は知ってるだろ?」
「はい、存じています」
「実は、それと同じように、本来存在自体が希少である筈の上位種や強力なモンスターたちが出現する事態が各地で確認されているんだ。それこそ、薬草採取で初心者が行くような山や森でも確認されていて、実際に遭遇した低ランクの冒険者が大怪我を負ったり、死亡してしまった例もある」
自分たちの知らないところで起こっていた事態に、四人は耳を疑った。
「皇帝陛下に報告を上げていないのですか?」
「今日、ギルド上層部の人間が皇帝陛下へ直接陳情することになっている」
「今日って・・・・・・遅すぎるだろ。死人も出てんだろ? 何をそんなにモタモタしてたんだ?」
あまりにも悠長過ぎる行動に、いつもならば納得のいかないことにはとことん突っかかる性格のエラルドことエルランドも、呆れ果てている。
「別に、モタモタしていたわけではないさ。ただ、ギルド上層部には侯爵以上の爵位持ちが居ないからな。四高協議会での陳情には議論請願書を提出する必要があるんだが、どういう訳か握り潰されてるらしい」
同じ人物が四人の脳裏をよぎった。そんなことをする人物など、四高協議会に参加できる貴族の中で凡そ一人しかいない。
(やりやがったな、あの激臭侯爵・・・・・・)
(四高協議会とは、定数を設けられた貴族と皇帝が参加する会議のことである。
一応説明しておきます。天の声です。
先にも述べた通り、四高協議会に参加できるのは、皇帝含む皇爵家、公爵家、侯爵家、そして、アルキウス帝国の四都市を統治する統領伯家の四つの家柄の人物のみであり、その他の貴族などは、最寄りとなる参加権限のある家に議論請願書を提出する必要がある。
統領伯家とは、帝都の周囲四方向に存在する、東都リフォン、西都アルゾラム、南都ルーベリー、北都サンリウスの四つの都市を治める家のことで、名目上は伯爵位であるが、実際の権力や武力などについては侯爵家に匹敵、あるいは超越するほどの実力のある家柄である)
「なるほど。お話は大体理解できました。ところで、
"直接"というのはどういう意味でしょう?」
顎に手を当てて納得した旨を伝えると、男が発した言葉の中でずっと気に掛かっていた文言について問いかける。
「ああ、今の帝国冒険者ギルドのグランドマスターのナハト・アルブローナは、セロール皇爵家の傍流、というか、皇帝陛下の従兄弟にあたる存在なんだよ」
「・・・・・・はああ!?」
しばしの沈黙の後に、外にまで響きそうなほどの大声でアスラン、エラルド、レイの三人が一斉に叫んだ。その間アリシアは「あ〜そう言えば」といった面持ちでいた。そうして叫ぶだけ叫ぶと、アリシアを交えながら、互いに顔を見合わせてヒソヒソと小声で話し出した。
「おい、皇帝って従兄弟なんかいたのか?」
「全然知らなかった」
「そう言えば、帝国冒険者ギルドを設立した方の名前は確かアイジス・アルブローナでしたね」
「はい、かつてセロール家と共に武勲を立てて騎士となり、そこから男爵、子爵と位を上げていき、セロール家は皇爵へと上り詰め、アルブローナ家は高い統率力を活かして 、帝国冒険者ギルドを創設しました。確か現在の爵位は伯爵位です」
「そうなんだよ。だから四高協議会に参加する権利がないんだよな」
「う〜ん」と腕を組んで五人で唸る。
────ん? あれ、五人!? 約一名多いことに気がついた四人は、慌てて五人目へと顔を向ける。そこには、実に自然に会話に潜り込んだ、ワインレッドの色男が腕組みをして唸り声を上げていた。悩む顔さえ端麗な男にギョッとして仰け反ると、男は満足気に笑みをたたえて「すまない、少し悪ふざけをしてしまった」と謝罪した。
「それはいいとして、結局、どうやって直談判するつもりなの?」
ふぅと一息置いて落ち着きを取り戻したアスランは、当初の質問へと帰った。
「グラマスの冒険者としての役職は、転移術士なんだよ」
「転移術士?」
聞き馴染みのない役職を表すその言葉に、エラルドは首を傾げる。
「転移術士とは、帰還や緊急退却などを、安全かつ早急に行うための転移魔法を使える魔法使いのことだ」
「なるほど、つまりは空間系統魔法のスペシャリストというわけですね」
「ああ、恐らく九賢将の操界の賢者を除けば、この国一の空間系統魔法の使い手だろう」
話を聞いたレイは無言でいるが、内心では自分を除けば国一番の空間系統魔法使いだという言葉に、静かに闘争心に近い興味を灯していた。
「あれ、ちょっと待ってよ? 僕の質問に転移魔法の使い手だっていう答えを返したってことは、まさか、王城に忍び込むつもり!?」
「四高協議会で議論されなければ解決にならないわけだからな。恐らくそのつもりだろう」
ようやくハッキリと聞けた答えに、四人は今にも信じられないと言葉が聞こえてきそうな、あんぐりとした顔を浮かべた。
「まあそれはそれとして、お前たちはこれからどうするんだ? クエストは受けられないわけだが」
話を変えるべく放り込まれた話題に、三人はもう一度落胆する。
「そうだった、すっかり忘れてたぜ」
「そう言ったら、クエストを受けられなくてそもそも悩んでたんだよね」
「そうしたらこの方に今の冒険者の世情についてご教授頂いて・・・・・・そう言えば、まだお互いに自己紹介をしていませんでしたね。私はレイと申します。私から見て右手側にいるのがエラルド、左手側にいるのがアスランです。あなたのお名前は?」
エラルド、アスランに次いで話をしていて、今更ながらお互いに名乗りを上げていないことに気がついたレイは、自分と両隣にいる二人の名を告げると、目の前の男に改めて名前を訊いた。
「ん? ああ、名乗り遅れたな。俺はレオナルドだ。親しいやつからはレオと呼ばれることもある。よろしくな。受付の君も、初めましてで合ってるよな?」
名乗り終えて軽い挨拶をすると、レオナルドはアリシアに話を振った。
「はい。アリシアと申します。以後よろしくお願いします」
姿勢を正して言うと、変装前と変わらない所作で丁寧に頭を下げた。
「そう言えば、レオナルドさんはここのギルドマスターに何か用があって来てたんじゃなかったっけ?」
レオナルドがギルドに入ってきた瞬間の発言を思い出したアスランの言葉に、レオナルドは「あっ」と漏らしてアリシアにギルドマスターの所在を尋ねる。
「執務室にいらっしゃるかと存じます」
アリシアが言い終わるが先か、レオナルドは「ありがとう」と言って、こなれたような様子で階段の方へ歩き始めた。しかし、その途中で思い出したかのように振り返ると、「三人も着いてきてくれよ。クエスト、何か受けられるかもしれないぞ」と自分の方へ手招くジェスチャーをして再び歩き出した。呼ばれた三人は勿論、アリシアも一緒に顔を見合わせ、ん? と不思議そうに首を傾げた。




