幼馴染3人はクエストを受けたい! #2「夢叶う」
この話から、オスローたちが変装をしている際は変装後の名前(オスロー → アスラン、エルランド → エラルド、レイヴン → レイ、アーサー → アリシア)に、変装をしていない際は元の名前で地の文を書き分けています。
ー帝都オルセイニア内の冒険者ギルド
「帝国冒険者ギルドへようこそ! 窓口担当のアリシアです!」
魔装具で姿を変えた三人がギルドの受付の前まで来ると、カウンター越しに長い黒髪をポニーテルで結んだ女性がにこやかに明るく声を掛ける。三人はガッチリと固まった。なぜならその女性の首には、自分たちと同じ水晶のネックレスが掛けられていたからである。
「お前・・・・・・まさか、アーサーか?」
エラルドが受付嬢へ顔を近づけて小声で問いかけると、受付嬢は右手の人差し指を口元へ持ってきて、柔らかく微笑む。そうして一拍の間を置いて、受付嬢は三人に先程より小さな声で話し掛ける。
「冒険者の新規登録を行いますので、階段で二階に上がって右手側の突き当たりの部屋でお待ちください」
言われた通りの部屋で二、三分待っていると、黒髪の受付嬢アリシアが、新規登録に必要な用具一式を持ってやって来た。アリシアは持っている道具を長机の上に置くと、徐に首元に手を当ててネックレスを外した。そうして現れたのは、エラルドの予想した通りアーサーだった。
「皆様、先程ぶりでごさいます」
見送りの時と同じように丁寧に腰を曲げる。しかし、アーサーのそんな態度とは裏腹に、エラルドは怒涛の如く詰め寄った。
「なんでここにいんだよ!? お前自分で一緒に来られるのは門までだって言っただろ!?」
「落ち着きなさいエル・・・・・・エラルド。変装を解いたということは、自分の口から説明するつもりなのでしょう」
動揺した様子で問い詰めるエラルドを、レイは眼鏡の位置を戻しながら窘める。
「はい、まずは騙すかのような発言を致しましたことをお詫び申し上げます。しかし、わたくし自身も、わたくしがご同行できるのはあそこまでであると思っていたのですが、紅玉の間に魔装具をお渡しできたことを報告に戻りましたら・・・・・・」
★
ー三人を見送った後ー
ー王城 紅玉の間
「ただいま戻りました。無事に御三方に魔装具をお渡し致しました」
「おお、助かったぞ。・・・・・・戻ってきたところ早々ですまんのだがな、お前にも仕事を任せたいと思っておるのだ」
頼み事を終えて帰ってきたアーサーに、アーノルドは少しバツが悪そうにそんな話をした。
「何なりと」
流石に遠慮がちになりながら頼むアーノルドに、アーサーはさっぱりと言って頭を上げる。真っ直ぐ誠実に自分を見つめるアーサーの視線を見て、彼は「そう言ってもらえて助かる」と感謝を口にする。ほんのりと笑ってアーサーが一礼すると、アーノルドは任せたい仕事の話を始めがてら、あるものを差し出した。
「実はな、お前に余とオスローたちとの連絡役を担ってもらいたいのだ」
アーノルドが手渡したのは、オスローたちが受け取ったのと同じネックレスだった。
「姿を偽るということは、ギルド職員として御三方と接触すれば良いのですね?」
流石の察しの良さへの賛美も込めて「うむ」と頷く。
「承知致しました。皇帝陛下の御心のままに」
アーサーは胸に手を軽く当てて目を瞑り、四十五度に身体を倒した。
★
ー現在ー
「という次第でごさいます」
三人は手で額を支えて俯き、同時にため息を吐いた。
「だったら最初っから一緒に行かせりゃあいいじゃねぇかよ」
「皇帝陛下の遊び心だそうです」
「変装後の姿が女性なのは何故です?」
「皇后陛下のお茶目だそうです」
「カルノス殿下は止めなかったの?」
「面倒くさかったのだそうです」
三人も首飾りを外して元の姿勢に戻ると、一同はやはり同時に「ダメだこりゃ」と呟いた。
「まあまあ、そうおっしゃらずに。さあ、さっと登録してしまいましょう」
大きなため息を漏らす三人を宥めると、テーブルに置いたセットを片手で指して、もう片方の手でソファに座るように促す。
「それでは、こちらの書類にご記入をお願いします」
オスローたちの対面に座って、書類をそれぞれの目の前へ差し出し、ペンの差さったペン立て置く。ペンを執ってサラサラと必要事項を記入していくと、ある項目で三人の手がピタリと止まった。
「希望の役職か」と、悩み声を漏らしてエルランドが筆を離す。
「昔は魔法使いがいいなって思ってたけど、流石に今は直球に魔法使い系の役職で申請するのはまずいよねぇ」
「固有魔法を使用しなければ、バレはしないでしょうけど」
九賢将は全員が固有魔法を持っているため、それを使えば自ら自身の正体を明かしているのと同義となるのだ。「う〜ん」と唸り声を上げて腕を組み悩み耽る。
「では、取り敢えずは未定ということにしておきますか?」
「そんなのできるの?」
「ええ。パーティメンバー募集へエントリーする際はやや不利になりますが、御三方であれば他のパーティに態々志願するようなことはなさらないでしょう?」
アーサーの提案と説明に、三人はうんと頷く。そうして、取り敢えず役職の欄は空白にして他の欄を書き終えると、アーサーが受け取って確認を始めた。
「それにしても、冒険者ギルドの制度とかよく知ってるね?」
書類の確認をしているアーサーに、オスローはふと思い出したかのように問い掛けた。
「というか、それ以前に、どうやってギルド職員に潜入したんです? いきなり新人を面接もなしに即日雇うなんてことある筈がないでしょうし」
オスローの問いを皮切りにするように、レイヴンもまたアーサーに質問を投げ掛けた。
「ギルドの事務的な知識などは元ギルド職員でしたので大抵のことは知っています。潜入できた件については、このギルド、つい先日寿退職された職員がいらしたのですが、後任となる職員がまだおらず、人員に空きがあったんです。ですので、本部からの派遣という形で話を既に通しておいたそうなんです。全く存じ上げませんでしたが」
書類に目を通しながら答えつつ、思っていることを吐露したアーサーの目には疲労が滲んでいた。一方で三人の顔には、そんな顔のアーサーを不憫に思う気持ちが表れていた。
「そ、そういや、俺たちってアーサーより先に城を出たよな? どうやって先回りしたんだ?」
沈みがちな空気を変えようと思ってか、エルランドはもう一つアーサーに尋ねた。
「ああ、それにつきましてはお答え致しかねます。重要機密事項に抵触致しますから」
"そこは言ってしまっていいのか" と頭に過ぎったものの、誰も口にはしなかった。それと同時に、三人の胸の内には、初めて知ったアーサーの経歴についての驚きも存在していたが、やはり口にはしなかった。
「はい、大丈夫です。それでは冒険者ライセンスを発行致します」
三人の書類に記入ミスがないことを確認したアーサーは、職員記入欄にFと書き足し、テーブルの脇に置いていた小さな水晶板を書類にかざした。すると、書類に書かれた文字が光だし、水晶板に丸ごと文字が写し刻まれた。
「お疲れ様です。これで、御三方の冒険者登録が完了致しました。こちらが冒険者ライセンスです」
ライセンスに写し間違いがないことを確認してから、それぞれのライセンスカードを手渡した。
「真っ白なカードなんだね」
渡されたライセンスカードを見ながら、何気なくオスローが呟いた。
「はい。皆様は本日冒険者になったばかりで、最低ランクのFランクから始まっていますので、ライセンスカードの色は白です」
(冒険者には十段階のランクが存在し、ランク毎にカードの色が変化する。
何度でも出ます。天の声です。
冒険者ギルドでは、冒険者にランクが設けている。まずは、駆け出しのFランクで、ライセンスカードの色は白である。続いて低い順に、Eランク、Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、A+ランク、Sランク、SSランク、SSSランクがある。ちなみに色は、灰色、銅色、緑色、赤色、銀色、金色、水色、藍色、黒色である)
「へぇ。けど何にしろこれで、無事俺たちは冒険者になったっつうこったな」
「紙を一枚書くだけで叶っちゃう夢だけど、子供の頃に思っていたよりずっと時間が掛かっちゃったね」
「ですが、長く見ていた夢も、叶える時はあっという間なものですね」
確かな嬉しさや喜びの中には、僅かに寂しさが混じっていた。
「ま、せっかく冒険者になったわけだしよ、何かクエスト受けようぜ」
少しばかりしんみりとしてしまった雰囲気を切り替えるべく、エルランドがいつも通りの軽快な調子で提案する。提案を受けた二人は軽く笑って同意した。
「では、下で何かクエストを探してみましょう。クエストを一覧できるリストが確かあったはずです」
アーサーはテーブルの上に置かれた用具を持ちながら言い、魔装具を発動させて受付嬢の姿に変装すると、三人を扉の方へと誘導した。




