幼馴染3人はクエストを受けたい! #1「夢への第一歩」
新たな戸籍を得て勅命を受けた三人は、紅玉の間を後にし、冒険者ギルドへ向かうべく歩を進めていた。入口の方へと続く長い回廊を歩いていると、三人が恐らくこの世で最も忌避している人間の声が炸裂した。
「おや〜? 何やらドブ臭いと思ってみれば、この高貴な城に似つかぬ汚らわしいネズミが、三匹もほうておるではないか!」
言葉の端々をわざとらしく強調して言い放つ、良く言えば恰幅の良いこの男こそ、シェリンティア侯爵家の現当主であるラルグ・シェリンティアである。
「チュー、チューチューチューチュチュチュ、チューチュチュチューチュチュチュ? (おい、激臭侯爵が、なんかほざいてやがるぜ?)」
こめかみにうっすらと青筋を浮き上がらせたエルランドが、当てつけのようにネズミの鳴き真似で二人に話しかける。二人は顔を見合わせてニヤッと笑うと、エルランドのノリに合わせてネズミの鳴き真似で答え始めた。
(ここからは私天の声が、皆さんに分かりやすいよう予め翻訳してからお送りします。ええ決してチューチュー打つのが面倒くさいとかそんな理由ではございませんよ?)
「本当ですね。相変わらず趣味の悪い服装に、最悪な組み合わせの香水を召していらっしゃられるようで」
「一つ一つは超一流の銘店の品物なのに、この人が身につけると途端に悪趣味になるよね。ここまで下品にできるのって最早才能でしょ」
クスクスといたずらに笑って口々に罵倒する。罵倒の対象である本人にはチューチュー言っているだけにしか聞こえないが、三人は互いの言葉をリズムや音の高低である程度理解していた。
「フン、ついぞ人間の言葉を話せなくなったか? まぁ汚らわしい貴様らにはお似合いの言語だがのぅ」
ハーハッハと、気品のない大きな笑い声を鳴らす侯爵を、三人は内心で小者のようだと嘲った。ある意味では貴族らしい笑い声が響鳴する最中、敬称を付けてオスローたち三人のファミリーネームを呼ぶ声が聞こえてきた。声の主の方へ顔を覗かせると、アーサーが小走りで近づいてきていた。
「ご歓談中のところ恐縮ですが、ご公務のお時間が差し迫っております」
「ハッ! 下賎なドブネズミ共に務まる公務とは、汚物処理か何かですかな?」
「申し訳ごさいませんシェリンティア卿。九賢将の任務については皇帝陛下より口外を禁じられております故、お答え致しかねます」
眉間や口角に忙しなく皺を作って問いかけてくるラルグに反し、アーサーは始終落ち着いて丁重に話す。
「それではシェリンティア卿、お先に失礼致します。ごきげんよう」
上品な所作でゆっくりとお辞儀をして挨拶をしたのはレイヴンだった。
★
ー王城 大扉前
「いや〜助かったよ。ありがとねアーサー」
「いえ。シェリンティア卿は一度絡まれますと非常にめんど・・・・・・粘着質ですから」
「いや、大して言い直せていませんよ? それ」
「けどよぉ、アイツなんでレイにまで突っかかってくんだろうな?レイの家だって立派な貴族だろ?」
「私の父も母も冒険者の身でありながら叙爵を受けた者ですから、血統を重んじるシェリンティア卿にとってはそれが気に入らないのでしょう」
(レイヴンの実家、ヴェルドロット家は平民出身の子爵位の家系である。
は〜い登場しました〜天の声で〜す。
レイヴンの両親は元冒険者で、ある功績を皇帝に讃えられ、特例ではあるものの子爵位を授けられた。ちなみに、オスローとエルランドは平民出身で、アーサーは男爵家の嫡男である)
大門へと続く石橋を渡りながら談笑していた一同は、気づけば橋を渡り終わっており、目の前には巨大な門扉がそびえ立っていた。
「わたくしがご同行できるのはここまでです。それから、皇帝陛下よりこちらを御三方にお渡しするよう仰せつかいました」
懐に手を入れて背広の内ポケットをまさぐると、鎖の短いネックレスを手渡した。ネックレスには、やや大きな銀色の土台にオーバルカットの水晶が嵌め込まれていた。
「これは、変装の魔装具ですね?」
何度か角度を変えて注意深くネックレスを観察しつつ、レイヴンがそれを魔装具と言い当てると、アーサーは感嘆した。
「ご明察です。九賢将は大きな街や国では、大抵顔が知られているため、冒険者活動をする際は必ずそちらを身につけるようにと言伝を預かっております。それから、その魔装具は隠蔽のエンチャントが掛けられておりますので、予め定義内に記述された人物以外には、見ることも触れることもできないようになっているそうです」
「ってことは、これの定義に組み込まれてんのは、俺とオスロとレイ、アーサー、それから、陛下だけってことか」
「皇后陛下がお作りになられた魔装具でごさいますから、皇后陛下ご自身も定義の内に記述されておりますね」
「なんでアーサーまで定義に組み込んであったんだろう?」
「どうやら皇帝陛下がお渡しするのを忘れた際の保険として、皇后陛下が記述しておられたそうです」
三人は一斉に納得したという表情を浮かべたかと思えば、次の瞬間には顔を逸らして笑いだした。こちらも良く言えば頼りがいのある良きパートナーだが、言葉を選ばなければ完全に人となりを把握されて、尻に敷かれているとも言える。
「それでは、お気をつけて。ご活躍をお祈りしております」
三人が一通り笑い終えると、アーサーは一息置いて言い、丁寧にお辞儀をした。
「おう、行ってくる」
「行ってまいります」
「行ってくるね」
それぞれの口調で出立の挨拶をすると、三人は一斉によく晴れた青空の下、いつもよりも少し早足で歩き出した。




