幼馴染3人は呪いを解きたい! #2「ドライアドと呪われた精霊」
レオナルドの『変異種がいるかもしれない』という言葉に、三人もまた真剣で強ばった顔つきに変わる。そうして、一番先にレイが口を開いた。
「稀に生まれる上位種の中から、更に稀に発生する変異した個体。それが変異種でしたよね?」
レイの指摘に、レオナルドはゆっくりと頷いて言葉を継ぐ。
「そうだ。トレントの上位種、ウッドマン。そして、そのウッドマンに変異が発生して生まれるのが、精霊の守護者ドライアドだ」
ドライアドという名前に、三人は息を呑んだ。
(ドライアドは精霊術を使い、精霊を人間や魔族などから守る精霊の守護者である。
天の声はいつも何度でも現れるのです。
神術をベースにして作られた精霊術は、山や森を切り開いて文明を築く人間や、軍事侵攻などの度に自然を平然と傷つける魔族たちに対抗する術を与えるために、神によって精霊や森に住まう知性ある者たちに与えられた術法である。そのため、魔法と魔術の源である魔力に対し、非常に強力な抵抗力及び対抗力を持つ。とりわけ魔法においては、魔法を発動する際の魔力の密度で強度が変わるため、魔力へ対する明確な対抗策である精霊術はまさに天敵なのである)
「ドライアドの脅威度はSSSだ。正直、勝てなくても不思議じゃないし、そもそもSSSのモンスターは接敵しても戦わないのが大前提だ。依頼内容も元はウッドマンの討伐だけだから、ここは一旦撤退してギルドに報告を上げ、次の行動を議論すべきだ」
現在自分たちの置かれている状況を冷静に整理し、レオナルドはこれからどうするべきなのかを三人に伝える。ところが、問題は悠長に答えを導き出す時間を与えてはくれなかった。
「どうやら向こうの方から会いに来てくれたみたいだよ」
重厚な負の感情を幾重にも纏ったような禍々しい気配がこちらに近づいていることをアスランは感知した。アスランが顔を向けた方へ残った三人も顔を向ける。すると、茂みの奥からいきなり水の斬撃が五、六本飛んできた。四人は一斉に射線の外に飛び退き、臨戦態勢を取る。息が詰まるようなプレッシャーが段々と強くなり、やがて茂みから一人の男が姿を現した。二メートルを超える褐色肌の男は、四人をその目に映すや否やカッと見開き、歯をギリギリと鳴らして、元から重く強い怒りや憎悪の念を一層深くした。
「浅ましい人間どもめ・・・・・・! 我が主を穢すだけでは飽き足らず、一度は眷属に敗走してなお、今度は我が眷属を殺し、一体何をしに来た!!」
「ドライアドだ」
怒りに我を忘れた褐色肌の巨漢を一目見て、レオナルドはそれがドライアドであることを確信し、三人に小声で注意を呼びかける。
〔ドライアド・・・・・・ 文献では、ウッドマンが変異によって知性とほぼ完全な人の姿を手に入れた存在と記述されてありましたね〕
レイは変わらず通信の魔法でアスランとエラルドに話しかける。
〔精霊に仕え、その精霊の許しの下に精霊術を行使することができる〕
〔それに加え、自らの身体からウッドマンを作り出して操れる、だっけか? まるっきりバケモンだな〕
レイの言葉に、アスラン、エラルドの順で答える。
「我が問いに答えよ! 人間ども! 我が主を穢し、我が眷属をも殺し、次は一体何をするつもりか!」
「待ってくれ、俺たちはこの森にウッドマンが現れたから安全の確保のために討伐を要請されただけで、あなたの主には何もしていない」
怒りの赴くままに強い語気で迫る男に、レオナルドは両手を挙げて弁明する。しかし、ドライアドは聞く耳を持たず、「とぼけるな!」 と一蹴した。
「我が主の力を手中に収めるために、我が主の住まう泉に呪いをかけたのであろうが!」
「本当に待ってくれ! 俺たちはこの森には今日初めて入ったし、泉については場所さえ知らないんだ! 頼むからこちらの話を聞いてはくれないか?」
鎮まるどころか、ますます熱を上げるドライアドに対し、レオナルドは説得を試みる。しかし、やはりドライアドの男は聞く耳を持たなかった。
「我、偉大なる精霊を護りし気高き御霊の護人なり。我が授かりし恩恵は水。今ここに、我が主たる精霊の御名の下において、我らの森を荒らす不届き者に天誅を下さん」
怒りの収まらないドライアドは、遂に四人を排除するべく最上位の精霊術の詠唱を始めた。四人は慌てて口々に説得を試みるが、最早その言葉は彼には届いてはいなかった。「罪をも洗いし高潔の象徴たる精霊の水よ、激流となりて渦を巻き、我が眼前の仇敵を悉く断ち切り流せ」 と最後まで詠唱し、残すは発動のみとなったところで、どこからともなく声が響き始めた。
「待ちなさいヴェルディーノ」
小川のせせらぎのような、聞く者の心を癒す澄み渡った心地の良い声が涼やかに広がる。
「その方々は悪しき存在ではありません。聡いあなたなら分かるでしょう? 怒りや憎しみに眼を曇らせてはなりません。心を落ち着け、今一度よく己が対峙している相手を見つめ直すのです」
柔らかな女声が、紙に落とした水滴のようにじんわりと聞いている者たち全員の心の奥へ染み渡る。ヴェルディーノと呼ばれたドライアドの男が、邂逅時に溢れ出させていた禍々しい程の重圧は、彼が平静を取り戻すのに比例して薄くなっていった。やがて、詰まりが取れた溜水のようにすっきりと威圧感が無くなると、ヴェルディーノは改めて四人を見つめ直す。
「・・・・・・すまぬことをした」
しばしの沈黙の後、ヴェルディーノはゆっくりと頭を下げて謝罪の言葉を述べた。しっかりと腰から曲げて謝る彼からは、既に敵意は抜け切っていた。四人は謝罪を受け取り、ヴェルディーノに頭を上げるように促した。
「だが我は人間のことは嫌いだ! 貴殿らが主に対し敵意を見せれば殺す! それは変わらぬ!」
敵意ゼロできっぱりと言い切った。これが四人に許されて頭を上げたヴェルディーノが最初に放った言葉であった。四人は今にも吹き出して爆笑しそうになるのを根性で堪える。四人が各々自分と格闘していると、また涼やかで柔らかい女声が聞こえ始めた。
「私からもお詫び致します。私の眷属が大変な失礼を致しました。また、姿も見せずこのような形での謝罪となりますことを、併せて深くお詫び申し上げます」
声色だけで精霊が深々と頭を下げていることが分かった。しかし、本来ならば精霊は人間よりも高位の存在であるし、人間は精霊にとっては害なす存在であるため、精霊は人間に姿を見せるどころか、声を聞かせることさえ有り得ないのだ。それを知っている四人は、相手に敬意を持って答えるべく、プルプルと震わせている肩を静止させる。
「いえ、我々人間族にとっては精霊のお声を拝聴することなど、人生に一度でもあれば、それは多大なる僥倖でございます」
レオナルドが精霊に恭しく礼を拝するのに続き、アスランたち三人組も、同じく頭を垂れた。
「そのように畏まらずとも良いのですよ。寧ろ、私は本来姿を見せて然るべきなのですから」
「ミリナス様を悪いように思わないでくれ。呪いの影響で、姿を現したまま留まることが困難になってしまっているのだ」
両者ともに申し訳なさそうな、それに加え、どこか寂しそうで、悲しそうな声色であった。ヴェルディーノに至っては気色まで落ち込み、先程までの威勢はすっかりと引っ込んでしまっていた。
「その呪い、どんなものか調べてみることはできるかな?」
重々しい静寂の最中、最初に言葉を発したのはアスランだった。一同がそれぞれ異なる心地でアスランを注視する。
「我は貴殿たちにならば、泉を見せても良いとは思うが・・・・・・」
「調べることなんてできるのか? 呪術はかなり高度な技術と専門的知識を求められると聞くぞ」
ヴェルディーノ、レオナルドと、順に自身の心情や疑問を述べる。
「どうにかできるかは分からない。けど、大変な状況だって知ってるのに、無視してじゃあさようなら、なんてしたくない」
アスランは真っ直ぐに二人の目を見据え、自身の思いを伝える。
「私たちの魔法の師範は、呪術にも精通しておりましたから、ある程度の指導は受けています」
アスランを後押しするように、レイが言うと、レオナルドとヴェルディーノは「そうか」 と頷く。
「では頼む」
ヴェルディーノは改めてアスランに向き合うと、深く頭を下げた。




