幼馴染3人は呪いを解きたい! #3「知らない呪術」
ヴェルディーノの案内に従い、森の奥へと進むと、ひどく色の濁った小さな泉があった。 「ここだ」 と言って四人を泉の方へ通すと、アスランは膝を着いて泉をまじまじと見つめ、レイとエラルドはアスランの肩から覗き込むようにして泉を見る。
〔難儀なことになってしまっていますね〕
〔解けそうか?〕
〔まだ何とも。何をするにしても、取り敢えずは術式を解読しなくちゃ〕
〔では、まずは呪物探しですね〕
(呪術を掛ける上で最も手っ取り早い方法は、呪印を刻み込んだ物品を、対象の近くに設置することである。
は〜い、話の流れ的に少しの間介入出来なかった、天の声です。
この世界における呪術とは、呪印を器となるものに刻んだ呪物を、対象の近くに置くことで成立する。この性質上、呪いの掛けられた人物や場所の近くには、必ずその根源である呪物があるのだ。また、呪術を掛けるには、呪印を正確に描き、相手に見つからないように相手の身の近くに設置するだけの知能や知性を要するのである)
呪術の仕組みを知っているアスランたち三人組は、レオナルドたちの方へ向き直り、呪術の仕組みと呪物の捜索を手伝ってほしい旨を伝えた。
「分かった。ところで、その呪物はどんなものなのか分からないのか?」
レオナルドは探すための手掛かりを得ようと、そう質問を投げ掛ける。
「分からない。石版とか武器とか衣服とか、呪物にも色々あるから、一概にこれってものはないんだよね」
「そうか。なら、怪しいと思うものは徹底的に調べてみよう」
期待に応えられない返答しか持たないことに罪悪感を滲ませて言うアスランに、レオナルドは前向きに返した。
「変な印の付いているものがあったら言って。呪物がどうかを僕たちが調べるから。それと、怪しいものを見つけても絶対に触らないでね。ものによっては、触った相手を呪いの対象にする場合もあるから」
「分かった」
「承知した」
アスランの呼び掛けに、レオナルドとヴェルディーノはそれぞれ了解した旨の返事をした。しかし、一時間以上にわたり、五人は泉の周辺を探索したが、結局それらしいものは発見できなかった。
「一通り探したと思うが、それらしいものは何もなかったな」
一時探索を終了し、泉の前まで戻ってきたレオナルドが、同じく探索を中断して戻ってきた四人にそう報告する。
「こちらもだ。おかしな印の付いた見慣れぬものはなかった」
「こちらも同様です。呪物らしいものは発見できませんでした」
「あと可能性があるとしたら、泉の中だけになるわけだけど・・・・・・」
そう言うとアスランは、苦々しい表情で泉の方へ視線を向ける。それに続くように残りの四人も泉を見る。泉は毒々しく濁り、邪悪な気配を漂わせている。
「まさか、あん中に入る〜なんて、言わねぇよな?」
「いや、それはさすがに・・・・・・」
「まず間違いなく死ぬだろうね」
引きつった笑顔で恐る恐る問い掛けるエラルドに続いて、レオナルドが一歩後ずさりながら言うが、当のアスランはあっけらかんとした様子で答える。
「ではどうする?」
ヴェルディーノの問い掛けに、一同は「う〜ん」と唸って悩み込む。
「それでは私が探して参りましょう」
腕を組んで考え込んでいる五人に、涼やかな声がさらりと響いた。
「ミリナス様!?」
思いもよらぬ相手からの思いがけない提案に、ヴェルディーノはいち早く驚嘆の声を上げる。
「呪いを受けたとはいえ、私の由来となった泉です。探すくらいならば造作もありません」
「しかし、お体に障ってしまいます!」
「今すぐにどうとなるわけではありません。それに、今ここで無理であってもしなければ、いずれ私は消えてなくなることでしょう」
ミリナスを第一に想うヴェルディーノの静止を振り切り、ミリナスは呪物の捜索を断行する意志を示す。
(精霊は必ず何か特定のものに端を発する。ミリナスの場合は、この泉に由来を持つ水の精霊ということである。
別にここで解説しなくても良かったのですが、折角なのでしちゃいます、天の声です。
そして、自身の由来となったものに著しい異常が発生すると、精霊は力を失い、その状態が長く続けば、やがて消滅してしまうのである)
「見つけられたとしても、必ずしも呪いを解けるかは分かりませんが、良いのですか?」
「構いません。先程も申し上げましたが、私は今すぐに消滅するという状況にあるわけではありませんし、もし解呪が叶わなかったとしても、恨むようなことは致しませんよ」
ミリナスは変わらず心を安らげるような柔らかな声で言い切った。そうしてすぐ、目の前の泉がぼんやりと光り出した。すると、暫くして、ぼうと光を放つ濁った水面から、黒く禍々しい印のついた石版が空中へと浮上しアスランたちの元へと近づいてきた。
「不可思議な紋様のある物とは、このようなものでしょうか? 以前には見かけなかった物なのですが」
目の前に浮かんでいる石版を見たアスラン、エラルド、レイの三人は、目を見開く。それは正しく、三人が探している呪物そのものであった。
「これだ!」
アスランはやや強い語気でそう言うと、石版はゆっくりと下降して地面に置かれた。細心の注意を払いながらアスランたちが呪物を鋭い眼差しで吟味する。そうして数分の鑑定の後に、アスランは短く溜め息を吐いた。
「ごめん・・・・・・今の僕じゃ、この呪いを解くことはできない」
気を落とした雰囲気で呟くように言ったアスランの言葉に、ヴェルディーノは「そうか・・・・・・」と短く言うが、直ぐに「気に病む必要はない」とアスランを気遣う声を掛けた。
「やはり、呪術というのは難しいものなのか?」
「難しい、というより、僕の知らない言語で記述されてるんだ」
重たい空気の中で口を開いたレオナルドに、アスランはおもむろにそう返事をする。
「『知らない言語』?」
「見て直ぐに見たことのない記号や文字だってことに気づいて、最初は、術式を解読されないようにするための術とか暗号化が施されてるのかって考えて解析を進めてみたんだけど、それらしい細工はなかったんだ」
「オリジナルの言語、ということか?」
「分からない・・・・・・」
心底申し訳なさそうな面持ちで俯き、溜め息を混じえたような話し方でアスランはレオナルドからの質問に答えた。
「いずれにせよ、今はこの呪いを解くことはできぬということだな?」
ヴェルディーノの問い掛けに、アスランは黙ったまま彼の顔を見てこくりと頷くと、直ぐに顔を逸らしてまた俯いた。 そんなアスランの様子を見て、ヴェルディーノはまたアスランを気遣い、口を開く。
「先にも言ったが、貴殿が気に病む必要はない。ミリナス様も、貴殿を責めるようなことはなさらないだろう」
「ヴェルディーノの言う通りですよ。本来ならば、自らの力で解決すべきことなのですから」
両者の口調も声色も慈愛と寛容さに満ちていた。自身の背中に温かな言葉を掛けられている最中、俯いているアスランの胸中では一つの思いがごうごうと燃えたぎっていた。
★
ー帝都オルセイニア オスローたちの屋敷
森を後にし、帝都の大門でレイラに報告するべくギルドに戻るレオナルドと別れ、三人は屋敷に帰宅していた。屋敷に戻ってくるなり、オスローは自室に直行して机に向かい、便箋を取り出して筆を握る。
「何書いてんだ?」
オスローの後ろに続き、部屋に入ってきたエルランドが、オスローの背中越しに問い掛ける。
「手紙。絶対に僕があの呪いを解いてみせる。そのために、分からないことは分かりそうな人に訊く」
エルランドは自分と一緒に部屋に入ってきていたレイヴンと顔を見合わせて、ん? と首を傾げると、オスローの書いている手紙を覗き込む。
「ああ、なるほどな」
「確かに、その方なら何かご存知かもしれませんね」
宛名を見た瞬間に、二人はオスローの言っていることの意味を理解した。そこには、二人もよく知った人の名前が書き込まれていた。




