幼馴染3人は冒険者になりたい! #3「褒賞」
ー現在ー
「やっほ~、そっちも無事に片付いてたみたいだね」
自身の仕事を終えたオスローが、遠隔会話の魔法を使ってレイヴンに話しかけた。
「エルランドは、相変わらずですか?」
「うん。一人で六体も倒してくれたよ」
「競争ではないのですがねぇ」
二人が談笑していると、そこにエルランドも会話に入ってきた。
「そっち、全部終わったか~?」
「残りは四百のやつらだけだよ」
「そんなら、さっさと終わらして飯食おうぜ、飯」
エルランドの提案に、二人は同時に「賛成」と答えた。
「私の創世界でドラゴンたちの足を止めます。後はオスローの時針剣で仕留めてください」
「俺は?」
役割を当てられていないエルランドが、不思議そうな表情で首を傾ける。
「エルランドはもう六体も討伐したでしょう?働きすぎで一回休みです」
さながらすごろくの文言のような言い回しで待機を命じるレイヴンに、エルランドは「チェ」と不服を漏らして口を窄ませる。
「では、いきますよ」
「りょーかい」
レイヴンの掛けた声に、オスローは柔らかに返事をした。
「創世界」
魔法名を詠唱すると、先刻と同じように結界が張られた。但し、今回は特別な条件は付与されていない。
「じゃあサクッと片付けようか」
軽いストレッチをして一呼吸置くと、オスローはまた指を弾いて時計の針の形をした剣を三本出現させる。そうして、ホイ、と言って、立てた右手の人差し指を振り下ろす。それを合図に、剣は先刻と同じように空を切り裂きながら推進し、レイヴンが開けた結界の隙間を通って、アースドラゴンの頭を見事一刀した。
「一刀両断だな。三本だけど」
エルランドはへっへっへと笑い、どことなく得意げに冗談めかす。
「ま、取り敢えず、任務完了ってことで」
右腕を上げて拳を差し出すと、レイヴンとエルランドも同じく差し出す。
「では、帰路に着きましょうか」
「おう」
笑いあい、出し合った拳を正三角を作るようにして合わせる。その姿を傍から見ていたアーサーは、一人胸中で感銘を受けていた。
(これが、九賢将の実力。本来ならば国の存亡に関わる程の重大危機をこうも軽々と解決してしまうとは)
感慨に浸っていると、おーい、と遠目に呼びかけられた。
「何やってんだ? 置いてっちまうぞ?」
大きく声を張り、手を振っているエルランドとレイヴン、オスローの三人は、いつの間にかそこそこ遠くに行っており、アーサーは急いで後ろを追いかけた。
★
「ふむ、実験は失敗ですね・・・・・・。やはり未完成。まだまだ実用に足る段階にはありませんか」
一行が去った十数秒後、フードを被り、左目にモノクルを掛けた白装束の男が現れた。男は、口元に人差し指を当てて唸るも、直ぐに不敵に笑って言葉を継ぐ。
「まぁ、いいでしょう。実験には失敗しましたが、九賢将三名の実力の一片は見られましたし、それだけでも収穫と言えましょう。さて、こちらも引き上げると致しましょうか」
薄気味の悪い笑みをたたえたまま、右手で被っているフードを摘み、顔を隠すように手前に引き寄せる。暗雲の立ち込める空の下、束の間ヒラヒラと風に靡いていたミスマッチな白色の衣は、あっという間に姿をくらました。
★
ー翌日ー
ーアルキウス帝国 帝都オルセイニア 王城 玉座の間
「九賢将、遷握の賢者、オスロー・クロックバーグ様、操界の賢者、レイヴン・ヴェルドロット様、劈嵐の賢者、エルランド・フュリウス様、ご帰還!!」
仰々しささえある形式ばった口上の後に、玉座の間の大扉が開き、管楽器によるファンファーレが鳴り響く中、オスロー、レイヴン、エルランドの三人が入室する。玉座には既に、絢爛な宝石が散りばめられた深紅のマントを羽織った身なりの良い男が座っていた。その右隣には、玉座に座る男と同じ深紅のマントを羽織った、艶やかな女が座っている。左隣には、男女と同じく深紅のマントを羽織った、オスローたちと同年代程度の青年が座っている。雛壇の上に座る男女三人の数メートル手前で、幼馴染三人は跪き頭を垂れると、レイヴンが徐に口を開いた。
「皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下、レイヴン・ヴェルドロット、オスロー・クロックバーグ、エルランド・フュリウス、以上三名、只今帰還致しました」
レイヴンの言葉に、三人の男女はニコリと優しげに微笑む。すると、中央に座する男が言葉を掛けた。
「よくぞ戻った。此度は我が国の危機となり得るアースドラゴンの掃討、誠に大儀であった」
皇帝の言葉に、三人は跪いたまま更に深く頭を下げる。
「無事に戻ってきてくださったことに、心より感謝致しますわ」
「身に余るお言葉にございます、皇后陛下」
皇后の三人の帰還を喜ぶ言葉に、レイヴンはそう受け答える。
「よくぞ戻ってきてくれた。父上、母上同様、そなたらに心からの感謝と喜びを」
「恐悦至極に存じます。皇太子殿下」
「早速だが、そなたらに何か褒賞を取らせようと思うておる。後で紅玉の間に参れ」
皇帝の言いつけに、三人はまた頭を深く下げ、「御意」と答えた。
★
ー数分後ー
ー王城 紅玉の間 (皇帝の執務室)
「はぁ、ホンマ堅っ苦しいてかなわんなぁ」
皇帝であるアーノルドは、シンプルながら上品な装飾が施された机と揃いの木製の椅子に浅く腰掛けると、気疲れした様子で口調を大きく崩す。
「せやねぇ。やっぱりいつも通りの話し方が一番落ち着くわ」
アーノルドの座るデスクの前に置かれた長机に備え付けられた椅子に座った皇后、カシエルは、頬に手を当て、やはり疲れた様子でボヤく。
「そない言うてもしゃあないで。まさかこの三人の前以外でこの話し方する訳にもいかへんし」
皇后の左隣に座った皇太子、カルノスも頬杖をつき、足まで組んで、不満を吐く両親を宥める。
「しっかし、まあ、こうやって聞いてっと落ち着きはするけど、帝室の人間が話す言葉じゃあねぇよな」
「それも仕方がないでしょう。セロール皇爵家は元々地方出身の平民だったのですから」
(アルキウス帝国の帝室は、特別な爵位である皇爵の位にある家から選ばれる。
どうも、またまた登場、天の声です。
アルキウス帝国の掲げる主義思想は実力主義である。実力があれば、平民でも九賢将や貴族、皇帝になることができる。逆に、その実力に足りないと評価されれば、九賢将や貴族、帝室さえも降格を言い渡され、最悪の場合、爵位や地位を剥奪される。この実力主義の思想から、アルキウス帝国では、公爵家と侯爵家、そして、帝位継承権を持つ皇爵家の三つの家柄には定数が設けられている。皇爵家は二家、公爵家は三家、侯爵家は七家までしかこの爵位を得られず、これらは家々の実力によって入れ替わることがある。
また、皇爵家は本来の読み方は"こうしゃくけ"であるが、公爵家及び侯爵家と同音であるため、区別化の為に"おうしゃくけ"と読まれる。そして、現在帝位を務めるのはセロール皇爵家である。)
そうして談笑していると、アーノルドが口元に拳を当て、ゴホンと大袈裟な咳払いをする。それを皮切りに各々は粛々とした態度に改まる。
「談笑も良いが、ここからはちと真剣な話をしよう。さっきも言ったが、オスロー、レイヴン、エルランド、お前たち三人には何か好きな褒美を取らせようと思う。望みがあるならば言うてみるが良い。可能な限りで叶えよう」
すっかり皇帝らしい口調に話し方を戻したアーノルドの打診に、三人は顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「何でも良いのでしょうか?」
低く手を挙げ、レイヴンはアーノルドに尋ねる。
「余の一存で叶えられる範囲の願いであれば、聞き届けよう」
うん、と一つ頷き、レイヴンの目を真っ直ぐに見据えながら言う。その言葉を確認した三人は、またしても悪戯好きの子供のような、無邪気であざとい笑みをたたえる。
「では一つ。私たち三名の、冒険者としての活動許可を願いたく存じます」




