初恋は実る……がんばればね。
翌年の春。
土御門神道会館で第四十代当主、土御門賢の結婚の儀式がとり行われた。
賢の結婚とともに三十九代当主の雄一が引退し、賢に代替わりをした。
「子供が生まれたら、子守をしなくちゃならないんだもの。あなたも師匠として孫にも陰陽師の手ほどきをしなくちゃならないでしょ? 今のうちに旅行に行きたいわ。豪華客船で世界一周よ。ね?」
と朝子が言い出したからだ。
なので雄一はまだ六十前で当主を引退し、仲良く世界一周の計画をたてている。
賢は紋付き袴姿、和泉は白無垢だった。
神職が祓詞を奏上し式が始まる。
本来ならば様々な手順があるが、長い時間立っていられない和泉の為に祝詞奏上、結杯の儀だけで式は終了する予定である。
その後は本家の大広間で披露の宴が催される。
ずっと笑顔でいたので、顔が引きつるが和泉は我慢していた。
精神の緊張が身体にも影響して、足の具合もよくなかったが我慢していた。
土御門親族間において二人の婚姻は賛否両論に分かれたが、賢が同時期に当主へ代替わりした事で物事は有利に運んだ。
引退した者が集まり土御門の行く末を審議する四老院という、要するに暇な爺婆の集まりも筆頭であった加寿子、靜香が抜けた現在では賢の敵でなかった。
用意周到にその子息の代を集めて従兄弟の会を発足、四老院にぶつけた。
由緒ある家柄の子供達というのは祖父母、父親、母親に押さえつけられるものである。自分の代がこなければ子供達は発言も許されないというのはありがちな現象である。
自分の代が来たときには自分も初老になっていた、という場合もある。
当主が代替わりし、発言の機会を与えられた若い世代は賢を支持した。
和泉が不利なのは足の問題だけで、血筋は土御門、それに優秀な再の見鬼である。そこも二人も婚姻をそれほど反対しなくてもいいのでは、という議論の要である。
仁、陸、美登里が幼い頃から賢がどんなに和泉を守って愛してきたか、というエピソードをせつせつと語り、素晴らしい純愛の脚本を作り上げ、賢にしてみればどんな罰ゲームだというような場面もあった。
それが功を奏したのか土御門を担っていく若者達の一致団結で、老人達は四老院を残すという条件だけであえなく降参した。
車椅子の花嫁が式の場から退場する時には冷ややかな目も、暖かい目もあったが、式は滞りなく進行した。
「はあ」
と和泉が一つ息をついた。
「大丈夫か」
と賢が言い、
「うん。カツラが重いだけよ」
と和泉が笑った。
「賢様、和泉さんはお衣装を着替えます。お先に大広間の方へどうぞ」
と車椅子を押していた美登里が言った。
「分かった。和泉、無理するなよ」
「うん」
そこへ、
「お疲れさん」
と仁と陸がやってきた。
「和泉ちゃん、大丈夫? こんなお兄ちゃんで悪いけど、これからよろしくね」
と陸が言って手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と和泉が答えて、握手のようにその手を握った。
「こんなお兄ちゃんてなんだ、てめー、泣かすぞ。それから、気安く和泉に触るな」
と賢が陸の肩を掴んだ。
「いててて、もう~まー兄、安っすい嫉妬は見苦し……あ、いててて」
「賢ちゃん!」
和泉の声に賢は陸いじめを止めたが、じろっと陸を睨んだ。
「まー兄さ~、そういう残虐な面を和泉ちゃんにあまり見せない方がいいよ。結婚したって安心してるかもしれないけど、今時は性格の不一致で離婚なんてざらだから。土御門の現当主が慰謝料がっぽり取られて離婚なんて格好悪い」
「な、お前不吉な事言うな!」
と賢が少し慌てて言い、仁も、
「陸、こんなめでたい日に水を差すような事言うなよ。それに離婚なんてされたら、賢兄が壊れてそのとばっちりが俺達に来るだけだ。そんな迷惑な話はない」
「そうだね」
「お前ら、まじむかつく」
ぷいっと賢はその場に背を向けて、どすどすと歩いて行ってしまった。
「まー兄って、可愛いよね」
と陸が言った。
「そうそう、つい構いたくなるんだよな」
と仁も言った。
そんな二人を見て和泉が笑った。
「二人とも本当に賢ちゃんの事が好きなのね」
「まーね」
と二人が同時に言って笑った。
着替えた和泉が大広間に戻って、披露の宴が始まった。
和室で膳が並べられているが、和泉だけは用意された低い椅子に座った。
挨拶が終わり宴会が始まるともう二人の事はどうでもよく、たまに酌にくる親族の相手をするくらいだ。
和泉はただ笑顔で座っているだけで、賢も何となくもぞもぞしている。
「あー、早く終わらねえかな」
と賢がつぶやいたので、和泉が笑った。
「そんな事言って」
「早く二人になりたい」
「賢ちゃんたら」
「俺が陸に嫉妬するのはおかしいか? もし俺が陸の嫁さんの手を握ってもあいつは何とも思わないのか?」
「だって、あたしは陸くんとも幼なじみだもん。挨拶で握手くらいするでしょ。手を握ったっていう表現がおかしいのよ」
「何だよ、それ。俺は誰にも和泉を触られたくねえな。仁にも、陸にも、赤狼にも。和泉は俺のだ、そうだろ?」
和泉は少し首をかしげてから、
「そのニュアンスはちょっと違うわ」
と言った。
「ち、違うって……違うのか?」
賢の顔が引きつっている。
和泉は賢の方へ顔を寄せて耳元で、
「あたしが賢ちゃんのじゃなくて、賢ちゃんがあたしのなの! もちろん賢ちゃんはよその女の子の手なんか握っちゃ駄目なのよ」
と言った。
「分かった?」
「わ、分かった」
賢の顔が真っ赤になっている。
和泉はふふっと幸せそうに笑った。 第一部 完
長い間、土御門ラヴァーズをご愛読いただきありがとうございました。
ブックマーク、ポイント評価、感想、レビュー、イラスト等をいただき、続きを楽しみにしていただいた方々には感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。猫又




