第四話
十二月二十四日。海原みつきと星野部長が忘年会をやると言い出した。名前は忘年会。でも、集まったのは、文芸部と海原みつきと黒田賢太郎とボクと桃山さくらだけだった。
会場は公民館の小さな和室だった。こたつが一つ。みかんが一箱。
そして、ボクの手にはサンタの衣装が握らされていた。
「着ろ」
星野部長は真顔で言った。
目も笑っていない。
「なんで?」
「忘年会だから」
「サンタはクリスマスでは?」
「忘年会のサンタは忘年会のサンタだよ」
意味がわからなかったが、星野部長の目が本気だったので、ボクは着た。
真っ赤な上着に白いヒゲ。
鏡を見て、ボクは自分の人生について少し考えた。
「似合う」
海原みつきが笑った。
「うれしくない」
「褒めてる」
「どこが?」
「ヒゲのところ」
「ヒゲはボクの一部じゃない」
「一部になるの。あれだけ時間かけてるのに」
「かけてない」
「かけてるよ。だって、まだ、つけてる」
ボクは白いヒゲを少し直した。直してから、直す必要はなかったと思った。
こたつに入ると、足が温かかった。桃山さくらはもうこたつに入っていた。みかんを剥いていた。手つきが綺麗だった。家で祖父母の世話をしていると前に聞いた。
桃山さくらはみかんの皮を、うずまきに剥いた。長く、切れずに剥けると、縁起がいいらしい。彼女はそれをボクに差し出した。
「いいの?」
桃山さくらは頷いた。
ボクはそれを食べた。
甘かった。
桃山さくらはメモをこたつの上に出した。
うずまき、成功
「おめでとうございます」
ボクは笑った。
桃山さくらも笑った。
プレゼント交換があった。
ボクが用意したのはみかんだった。箱に入っていたからだ。黒田賢太郎がそのみかんを全部食べた。
海原みつきが激怒した。
「先輩、それ、プレゼント!」
「みかんだろ。プレゼントだよ。俺がもらった」
「ずるい!」
「ずるくない。ルールだ」
「ルールとか、言った先輩がずるい!」
「ルールを言った人間がずるいのか」
「ずるい!」
星野部長がこたつに、みかんの皮を置きながら言った。
「みつき、あんた、さっきから、それしか言ってない」
「だって、ずるいんだもん」
桃山さくらはこたつの中で、笑っていた。声は出なかったけど、肩が笑っていた。
その肩の動きだけで、笑っているのがわかる。
役者はすごいと思った。
役者はすごい。
でも、そのすごさが、ボクと桃山さくらの間の壁なんだと、ボクはまだ知らなかった。
海原みつきのスマホが鳴った。クリスマスソングだった。誰かが電話をかけてきた。
海原みつきは出ない。
また鳴る。
また出ない。
三回、鳴った。
着信音が重なって、部屋の中がいっぺんにクリスマスになった。
「出なよ」
星野部長が言った。
「だって、後でいいの」
「よくない」
「よく、ある」
「三回も鳴ってる」
「四回目で出る」
「出ないよ。それ」
黒田賢太郎がみかんを食べながら言った。
「電話、出ろよ。芝居の邪魔だ」
「先輩に言われたくない!」
「俺は出ろと言ってる。出ないとは言ってない」
「それ、屁理屈!」
「屁理屈じゃない。芝居の話だ」
桃山さくらはその応酬をこたつの中で聞いていた。
時々、頷いていた。
声の代わりに、頷きで相づちを打っていた。
その頷きの間の取り方が、うまかった。
芝居の間だった。
笑いの間だった。
この人はしゃべれなくても、しゃべっていると、ボクは思った。
思って、それきり、深くは考えなかった。




