↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮霧高校物語  作者: 杉山薫
十二月
PR
36/51

第四話

 十二月二十四日。海原みつきと星野部長が忘年会をやると言い出した。名前は忘年会。でも、集まったのは、文芸部と海原みつきと黒田賢太郎とボクと桃山さくらだけだった。


会場は公民館の小さな和室だった。こたつが一つ。みかんが一箱。


そして、ボクの手にはサンタの衣装が握らされていた。


「着ろ」


星野部長は真顔で言った。

目も笑っていない。


「なんで?」


「忘年会だから」


「サンタはクリスマスでは?」


「忘年会のサンタは忘年会のサンタだよ」


意味がわからなかったが、星野部長の目が本気だったので、ボクは着た。


真っ赤な上着に白いヒゲ。

鏡を見て、ボクは自分の人生について少し考えた。


「似合う」


海原みつきが笑った。


「うれしくない」


「褒めてる」


「どこが?」


「ヒゲのところ」


「ヒゲはボクの一部じゃない」


「一部になるの。あれだけ時間かけてるのに」


「かけてない」


「かけてるよ。だって、まだ、つけてる」


ボクは白いヒゲを少し直した。直してから、直す必要はなかったと思った。


こたつに入ると、足が温かかった。桃山さくらはもうこたつに入っていた。みかんを剥いていた。手つきが綺麗だった。家で祖父母の世話をしていると前に聞いた。

桃山さくらはみかんの皮を、うずまきに剥いた。長く、切れずに剥けると、縁起がいいらしい。彼女はそれをボクに差し出した。


「いいの?」


桃山さくらは頷いた。

ボクはそれを食べた。

甘かった。


桃山さくらはメモをこたつの上に出した。


うずまき、成功


「おめでとうございます」


ボクは笑った。


桃山さくらも笑った。


プレゼント交換があった。

ボクが用意したのはみかんだった。箱に入っていたからだ。黒田賢太郎がそのみかんを全部食べた。

海原みつきが激怒した。


「先輩、それ、プレゼント!」


「みかんだろ。プレゼントだよ。俺がもらった」


「ずるい!」


「ずるくない。ルールだ」


「ルールとか、言った先輩がずるい!」


「ルールを言った人間がずるいのか」


「ずるい!」


星野部長がこたつに、みかんの皮を置きながら言った。


「みつき、あんた、さっきから、それしか言ってない」


「だって、ずるいんだもん」


桃山さくらはこたつの中で、笑っていた。声は出なかったけど、肩が笑っていた。

その肩の動きだけで、笑っているのがわかる。

役者はすごいと思った。

役者はすごい。

でも、そのすごさが、ボクと桃山さくらの間の壁なんだと、ボクはまだ知らなかった。


海原みつきのスマホが鳴った。クリスマスソングだった。誰かが電話をかけてきた。

海原みつきは出ない。

また鳴る。

また出ない。

三回、鳴った。

着信音が重なって、部屋の中がいっぺんにクリスマスになった。


「出なよ」


星野部長が言った。


「だって、後でいいの」


「よくない」


「よく、ある」


「三回も鳴ってる」


「四回目で出る」


「出ないよ。それ」


黒田賢太郎がみかんを食べながら言った。


「電話、出ろよ。芝居の邪魔だ」


「先輩に言われたくない!」


「俺は出ろと言ってる。出ないとは言ってない」


「それ、屁理屈!」


「屁理屈じゃない。芝居の話だ」


桃山さくらはその応酬をこたつの中で聞いていた。

時々、頷いていた。

声の代わりに、頷きで相づちを打っていた。

その頷きの間の取り方が、うまかった。

芝居の間だった。

笑いの間だった。

この人はしゃべれなくても、しゃべっていると、ボクは思った。

思って、それきり、深くは考えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。