9話 ダンジョンとは
マスカート卿が加わり、対策チームが大きく動き始めた。
いや、ダダ洩れさせてるのが悪いんですけどね、ほんとごめん。
ヒレンが背中から肩口を軽く噛みながら
「やっぱり体ごと一気に食べる方がイイんじゃないですか?」
もごもごしながら聞く
「いや、普通食べたら無くなるんだけどな、というか一時しのぎですらないだろうなあ、なんせ無限だろ?ソレ。根本的な対策が欲しい」
マスカートが相変わらず声とビジュアルが一致しない声をあげる
「この子が影響受ける前になんとかせんとのぅ」
ネム陛下がお腹をなでながらケーキを頬張る。
いや、ソコは胃、ケーキが入ってる方。
しばしの沈黙・・・じゃないな。ヒレンとネム陛下のもぐもぐが静かな部屋にやたら響く。
マスカートが腕を組み、ソファーの上に胡坐をかいたまま天井を見上げている。
「やっぱダンジョンしかないか」
ダンジョンなら勇者を呼ぶか。と続ける。
ダンジョンは行きたい、願ったりかなったりだ。
で、
それより勇者だ、勇者が居るのか。
◇◇
「この世界のダンジョンは魔界からの魔力を封印している封印装置でもあるんだ。この世界、なんだかんだで魔界からの侵攻を受けてんだよ」
まずは歴史の授業を聞かねばならない
「何千年か前、魔界からの大侵攻が起きた。その時この世界に来た悪魔達を封印しているのがダンジョン。ダンジョンボスってのがその悪魔だな。封印したのは神様らしいが、普通に人間が再現出来ない魔法か何か超技術ってやつだ。で、入る者を阻むのがダンジョンだが、言うなればこの部屋の扉、アレと同じで入るのも出るのも扉を開かねば通れない、ソレがダンジョン。もちろん物理的な物より魔法とか封印とかの類でボスは中からは出れないようになっている」
で、ダンジョンでは魔界の魔力が無限にダダ洩れになってて、ソレを受けて魔獣なり魔物なり、そういうのが居る、コレは自然発生してるので、ダンジョンからの産物も無限。
その癖、魔力が外までは出てこない。世界が違う、という奴だ。
で、ソコに注目するというのがマスカートの考え。
良い考えだと思ったが、ソレはつまりダンジョンから出れないのでは?
「とりあえず、まずはその魔力漏れをどうするか?だからな、隔離が早い。元栓を締めるのもイイが死にたくはないだろ?」
よし、ダンジョン行こうか。
そして
勇者がこの世界には存在している。
何を行ったか、なした事、行動に対する評価として「勇者」というのは称号として存在する、と我々日本人は定義しそうなモノだが、今話題に出ている勇者は「勇者という存在」であって、行動の結果で左右されるモノではない。
「まあ、品行方正という訳では無い奴なんだが、勇者の戦闘力はとんでもないからなあ」
と、片足を立てて肘突きしながらマスカート卿が言う。
行儀悪いしパンツ見えてますけどね。
「勇者は其方達と同じ転生者なのだが、なかなかに欲望に忠実な面白い奴よ」
と陛下が紅茶を優雅に飲みながら言う。
いや本当に、優雅だ。オンオフの切り替え凄い。さすが元冒険者の皇后陛下。
器用に胡坐の上にケーキの皿置いてマスカートが続ける。
「まあ勇者と言ったら主人公だからな」
と言いつつテーブルの紅茶を皿を傾けず器用に手に取り飲む。胡坐なのにやたら優雅に。
こっちもオンオフの切り替え激しすぎて風邪ひきそうになる。20年程かけて転生冒険者から貴族に成り上がっただけはあるという事か。
そして話題の勇者。
確かに主人公といえば勇者だが。
行動によって勇者と呼ばれるのではなく、最初から勇者と呼ばれる存在って、漫画とかではよく主人公のライバル側な気もするけどな。
「主人公だから、モテる」
マスカートが少し悪態をつくように言う。
モテるのかー、正直ソレは羨ましい気がする。
ともかく、ダンジョンに一時的に避難する、コレはダンジョンの魔力隔離を利用するのが目的。
おそらくソコでダンジョンの中の魔物達がヒレンと同じように、私の魔力に誘引されるので戦闘力の高い「勇者」に魔物の排除と私の護衛をやってもらう。
「主を排除出来れば、攻略として以降は特に危険な魔物は出てこない。理想はどうせならダンジョンのコアであるボスを眷属化でもしてもらう方法でダンジョン攻略出来ないか試して欲しいかな」とマスカート。
なんでも、ダンジョン、この世界に無数にあるがどれも「あと10年程で」全部、文字通り全部魔族、悪魔と呼ばれるボスが解放される、ってのが確定した世界らしい。
各地のダンジョンボスを攻略してその時、まとめて解放される数を減らしておくのも必要な事と。
攻略されたダンジョンは以降は魔力の濃い場所程度の扱いの何も問題の無い場所になる。
それにしても、まさかの大惨事が約束された世界。
ダンジョンの成立が全部同時な為、全部が同時に時間切れ解放。
未発見のダンジョンも含めてどれほどの魔物、悪魔が同時に世に放たれるのか想像も出来ない。
ソレで各国が「世界をまとめ、対処する戦力を集約する」為にお互いを牽制し合っている、と
「他の国どころか同じ国でも権力争いしておるのだがな」とネム陛下。
危機感がまだ足りないんだよ、と二人の権力者が愚痴モードに入る。
あー、東アジアの都市が返還された時みたいなものか。10年は確かにまだ未来で感覚として具体的じゃない。結局その時になってやっと混乱が起きる奴。
「なので早いとこソレを解決させて働いてもらわんとな」とマスカート。
なんか色々迷惑かけてるだけでごめん。
「その魔力を我々の為に使えるなら手間は惜しまんよ」とネム陛下が言う。
・・・めっちゃ悪い顔して。
◇◇
そして数日どころか翌日には勇者がやって来た。
帝都に居るという話で、私がネム陛下に拾われた時の様に数日かけて移動してくるのかと思っていたが、
そもそも魔法がある世界で、相手は国家レベルの勇者。そりゃ魔法とかで連絡も付くし、移動も何らかの転移とかあるんだろう。ソレはソレで興味あるが。
「凄いスピードで走って来た」
あ、はい。




